「白と黒のナイフ」のような法廷映画、裁判映画は裁判大国アメリカのお家芸みたいなところがあって、傑作も多いわけですが…
全く法廷シーンが絡まない刑事裁判所を舞台にストーリーが展開するのが、
アルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」。

【僕の今年のベストワン候補】
・昨年度のアカデミー外国映画賞を受賞したのでクローズアップされた作品ですが、これはもう大変な秀作!
公開当時、上映館が制限されていたせいか、タイミングが合わずに観られなかったため、今年になってDVDが出てから観ましたが、観終えてすぐに自分の今年のベストワンになる!と決まってしまった作品です。
予想通り、今年僕が観てきた作品では、まだこれを上回る作品はさすがにありません。
●El secreto de sus ojos(2009・スペイン=アルゼンチン)
監督:ファン・ホセ・カンパネラ 原作:エドゥアルド・サチェリ
脚本:ファン・ホセ・カンパネラ エドゥアルド・サチェリ
■物語も終盤になって
「選択に気をつけてください、思い出がすべてです。
マシだと思う方を選ぶべきです」…
というセリフが出てくる。
25年前に自分の身にも危険が及んだ事件の真相を苦々しく推察する、刑事裁判所を退職した主人公エスポシト(リカルド・ダリン)に向かって、同じく25年前の事件で最愛の妻を殺害された当事者の銀行員モラレス(パブロ・ラゴ)が諭すように口にする。

苦労の末に一度は捕縛した真犯人ゴメス(ハビエル・ゴディーノ)を、揺動する政情不和から思わぬ形で釈放されてしまい、自分が信じる正義への信頼を失墜した二人の男。
立場は違うが、ひとつの暴行殺人事件に深く関わり、25年間も正義の存在に疑惑を抱き続けた人物たちが明かす究極の真実には、一瞬言葉を失うほどの衝撃を受ける。
しかし、この作品が秀でているのは、事件の真相を追究する姿をタテ糸にして、先のセリフにある過去を振り返る時に「マシだと思う思い出」を選ぶこと、あるいは捨て去ることをストーリーのヨコ糸に据えていることである。
このタテヨコ織り成すところに生まれるドラマが語りかけてくる言い知れぬ衝撃と深い感動は、正義と憎悪が歪んで朽ちる時に表出する人の心のあり方と、人の抱き続ける愛情のあり方に迫るという奥行きのあるテーマによってもたらされる。
ストーリーは、更に凝っていて、
定年退職した主人公が、納得できぬまま時を過ごしてしまった25年前の事件の顛末を、自分の信じる姿のままに書こうとするが、うまくいかないというところから始まる。
この小説を中心に、現在と25年前の過去の時間が行き来するプロットが組まれていて、煩雑になりそうなところを、俳優のメイクと小道具で上手に処理している。

高卒の生え抜きである主人公が、新たに上司として刑事裁判所に配属されてきたエリートの判事補イレーネ(ソレダ・ビジャミル)に恋心を抱き、思うにならないまま悶々として、打ち明けることすら出来ない。
そんな、いくじなしの生むじれったい恋の道程を丹念に見せてくれて、しかも厄介な事件を手がけている真っ最中に好意を持ってしまったという設定が興趣をそそる。
この男女の関係もひとひねりしてあって、彼女の方が悪からず思う彼の思慕に気づいていて、気丈にリードしようとする呼吸をうまく見せている。
「瞳の中の秘密」というタイトル通り、登場人物たちが見せる「瞳の中」にはいろんな秘密や嘘や真実が潜んでいて、しっかり意味を持たせているのだが、何でもないと思っていたセリフの中や、登場する状況の中に伏線がアチコチに張り巡らされている。
特に見事なのは、アルファベットの「A」が壊れていて打てないタイプライターが解き明かす、あるキーワードの謎。これは見事!!

観る機会すら少ないアルゼンチン映画だけに、見慣れない俳優ばかりだが、これがまた主要なあらゆる善人悪人を演じる俳優たちが全員イイ。




中でも主人公の同僚・パブロというオッサンを演じるギレルモ・フランチェラという俳優の存在感は圧巻。
ぜひ注目していただきたい。
★★★★★
採点基準:★…5個が最高位でマーキングしています。★…は★の1/2です。
既に決定しているらしき
ハリウッドでのリメイク版は
期待していませんが、
このアルゼンチン映画だけは、
何があっても見逃してはならない
本物の傑作です

















