■もう1本、子供の凶暴化ということで思い出す作品がある。

スペイン映画『ザ・チャイルド』がスパニッシュ・チャイルドプレイなら、その原点となる子供を猟奇の空間へと放り込む有名小説を映画化したのが、このブリティッシュ・チャイルドプレイとも呼べる作品。

あどけない子供が良識の枠から外れて暴力を覚えていくことの怖さは並大抵ではない…。


●Lord of The Flies(1989・イギリス)
監督:ハリー・フック 原作:ウィリアム・ゴールディング(同名小説)
 脚本:サラ・シッフ


$パイルD-3の遊び時間の法則 PD-3 ★RULE OF PLAY-TIME


【蝿の王】
■映画の中でシンボリックに、あるいはビジュアル性を高めるために使われる偶像は多いが、見る見るグロテスクに変貌していく偶像が登場するのが「蝿の王」。

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原作はノーベル賞作家のウィリアム・ゴールディングが1954年に発表した同名小説。
僕は大人になってから読んだが、妙にだらだらした前半の流れと急加速する後半の流れにギャップを感じつつも、その衝撃の高さには言葉が無かった。

しかし読後感は明らかに最悪のものが残った。

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映画化されると知った時は、口惜しいことに1962年に異才の巨匠ピーター・ブルック監督が映画化したバージョン(未公開)を観ていないために、えっ!またもや映画化されるのか!?と、怖いもの見たさと好奇心から、絶対見てみたいという妙な興奮を覚えた。

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ピーター・ブルック版「蠅の王」(1962)

原作のファンが多いため、映画版は批評でかなりボコボコにされた印象だが、僕は意外とよく出来ていると感じた。

小説の前半のやや冗長な部分は、映画らしい省略によってテンポも良い。
僕が急加速すると感じていた後半部分に力を入れていて、クライマックスへの軌道をじっくり見せようと前倒しで持ってきており、いささか見せ場の頭をつないだダイジェスト版にはなっているが、映画としては丁度良いバランスに感じた


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陸軍幼年学校の生徒24人が乗る飛行機が攻撃を受け、墜落して無人島に漂着する。

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文明社会で教育を受けた子供たちは、自ずとグループ内でのルールを決め、集団生活を始める。
しかし、大人のいない《小社会》を手に入れた子供たちは、満足な食料も道具もない生活の中で、密かに野生化へと向かい始める。

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救出の可能性も日を追うごとに薄らぎ、次第にルールは無視され、生き残るためのハンティングに熱中するようになる。
武器は木槍、狙うは野豚である。
この野豚狩りの木槍が、いつしかごく身近なものへと向けられる…。


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規律・マナーを当たり前の事として誰もが守る文明社会から、ルール無用の原始社会へと移行していく構図が少年たちによって演じられるところが恐怖の深層となるわけだが、元はと言えば、少年とは言えども敵対する者を倒すために、あるいは殺すためのトレーニングを受けながら、軍隊によって洗脳されていくであろう兵士の卵である。

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そんなヒナ鳥たちが実地訓練しているともとれる皮肉な展開でもある。
それが人間に潜在する「野生」に起因し、原始の行動であると示唆する痛烈なメッセージになっているところは、婉曲の反戦ドラマでもある。

件の物語の中に登場する偶像は、捕えた野豚の首を木槍に突き刺した不気味なものである


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それは少年たちが島の洞窟で見た未知の《怪物》とやらに対する生け贄であり、彼らにとっては勝利を意味する偶像でもある。

しかし、物語の中では、無法、無秩序、道徳心の崩壊といった駆逐された文明を象徴するものとして
描かれ、豚の首にたかる蝿の群れが、原題の「蝿の王」を指している。

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キリスト教の七つの大罪では、「暴食」を司る悪魔が蝿の化け物ベールゼブブで、動物では「豚」がその象徴とされている。

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この偶像が登場してからというもの、少年たちの行動はいきおい地獄図と化す。
かなり陰惨な地獄図である。


彼らが漂着した島は、荒れ果てた無人島ではなく、熱帯樹林の濃熟な景観と透明感あふれるエメラルドグリーンの海に囲まれた、正に天国を思わせる楽園のような島である。

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僕は原作を読んだ時にこんな美しい島のイメージではなく、もっとやぶ蚊や爬虫類が棲息する鬱蒼とした原生林を思い描いていた。

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撮影のマーティン・フューラーの腕が良すぎたのか、監督(監督は「キッチン・トト」のハリー・フック)の意図するものがあったか、はたまた偶然かは知らないが、平和なパラダイスに見えてしまうことによって、違う見方も出来てしまう。


美しい土地を武器による暴力によって血で汚し、当たり構わず火を放つ姿は、さながら戦争における侵略の姿を思わせて、異様な息苦しさを生む。

それがゲーム感覚なのか、儀式なのか判別し難い少年たちの熱狂振りは、もはや手がつけられなくなっていく…。
果たして自分だったらどうするだろう?
という厄介事でも背負いこんだ気分になるのは、小説も映画も同じだと思った。




★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。



【見るべき価値は…】
※ラストもほぼ小説と同じ終結になっていますが、観終えた後残る後味の悪さは小説同様格別ですので、小説で満足されている方にはオススメしませんが、小説の世界をカラービジュアル化されたもので確認してみたい方と、《彼らがどうやって火を手に入れるか》というサバイバル技に興味がある方には、意味はあると思います。

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唯一特筆しておきたいのは、ラーフ、ピギー、マックスの主要な3人を演じる子役の顔や容姿が、小説のイメージにかなり近いキャスティングになっていて見事です。



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Lord of The Flies