茂木健一郎が音楽に対する思いのたけを語りまくった一冊。
素晴らしい本でした。ただ一点を除いては。
このひと、言ってしまえばただの音楽馬鹿である。
例えば、次のような記述。
音楽は目に見えない。触れることも抱きしめることもできない。
音符や楽譜という形で可視化することはできるけれども、それは記号に過ぎない。
ただ私たちにできることは、耳を傾けること。全身で音楽を感じようとすること。
抱きしめるのではない。耳をすます私たちを、音楽が抱きしめてくれるのだ。
その抱擁こそが、音楽が授けてくれる恩恵だ。
いいっすよねえ。ロックンロールしている。
このあたりは、音楽を聴くという行為は、受動的でなく能動的な行為だ、とか、
音楽を聴く上で、自分が日頃考えていることを再確認させてくれた。
良い音楽を聴くことは、生きていくうえでとても重要。
そして、良い音楽と出会うためには、
オープンでいることがとても大切だ。
ところが、次のような記述。
私は、ポピュラー音楽もラップ・ミュージックもボサノヴァも聴くし、好きである。
また、一般的にも、クラシック以外の音楽の方が好まれ、その場にふさわしいというこ
とは多い。
しかしながら、クラシック音楽の、ある種の作曲家が作った曲のすばらしさは、絶対に
揺るがない価値として私の中にある。
(中略)
普遍のものとして、クラシック音楽は存在しているのだ。その動かない強さは、他の
音楽あるいは芸術とは比較にならないものであろう。
なんというナイーブな、差別と偏見に満ちた表現。
わからないだろうか、こういう言葉が、クラシックをつまらないものにしてしまっていることが。
さらに、
私にとって、音楽は大きく二つに分けられます。大衆的なポピュラー音楽と、
教養的な知的音楽、いわゆるクラシック音楽ですね。実は、この二つの間には
強い関係性があります。大衆的な音楽は、知的音楽に多大なる影響を与えているからです。
なにこれ。
こっちは茂木健一郎本人の言葉ではなく、ルネ・マルタンとの対談のなかで、
マルタンの発言として登場するのだけど、先の引用部分と相まって読後感の悪さを残した。
基本的に彼らが分類するところの、クラシックサイドからの視点、
というか上から目線なんである。はっきり言ってこれは頂けない。知的音楽ってなんだよ。
バッハもモーツァルトもベートーベンもブラームスも、
Miles DavisもJames BrownもPrinceも、
Bob Marley & The WailersもThe Policeも山下達郎も、
みな同じように素晴らしいし、それぞれ素晴らしさは異なるだけの話だ。
例えばJazzの本当に素晴らしい演奏は本当に知的に素晴らしいし、
クラシックだってクソな演奏はクソだ。
たしかにクラシックを理解するためには、それなりに教養が必要なことがあるかも知れない。
でもそれは長唄だろうがブルガリアンヴォイスだろうがガムランだろうが同じだ。
んでその「教養」ってのは、知識に過ぎない。
そして敢えて言うならば、知識なんてのは「感じる」ための補足情報に過ぎない。
当たり前だが音楽にはジャンルによる優劣などない。
確かにヨーロッパの文化やクラシック(この呼び方嫌なんですがね)は素晴らしい。
ある意味でそれは頂点だ。ただそれは、ヨーロッパの文脈においてだ。
ヨーロッパの文化を頂点とする観念、教養主義は良くない。鼻持ちならない。
音楽を理解する上で邪魔なだけだ。
僕ポピュラー音楽には理解あるんですよみたいな発言て、
何も理解できていませんよと言っているに等しい。
だいたい、ポピュラー音楽(って何よ)が大衆(って誰よ)のものだとしたら、
クラシック音楽は一体誰のものなんですかね。
この本の中では、著者がシューベルトといかに「出会った」か、が書かれていて、
その過程は感動的なだけに、台無しにするような閉じた言説はやめて欲しかったなあ。
人間が獲得したものの中で、一番の福音でもあり呪いでもあるのは、「意味」だと思う。
はい。全く持ってその通りですねえ。
翻ってはこの本、全編を通じて、音楽の本質に近づくためのガイドとしては、
結構良いところまでいっていると思うのだ。
でも、音楽をジャンルで分類しかつ西欧音楽を至上とする観念が、
目的地を迂回させてしまうんである。
新しい音楽と出会うには、
固定観念が邪魔になることがある。
それから逃げるのは、実は、そんなに簡単じゃない。
この非常にささやかなブログのテーマであるところの、
「音楽はたべものだ」には、
そんな想いを込めていたりする。
たべものは、文化だ。
文化に優劣はない。
まして、違う文化のひとの食べているものを、
上から見下ろしたりしてはいけない。
それから、フランス料理なんて、
そんなに有り難がらなくてもいいんじゃないかしらねえ。
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