The story of your hands.~働く人の手を大調査!~ Vol.5
あなたはどんな手をしていますか?
傷だらけの手、ごつごつした手、すらっとした手、やわらかい手、力強い手。
人の手は、そこに、その人の生き方が現れてくる。
手から、その人の暮らしやこだわり、内面までも探る連載企画「The story of your hands.」
第5回目の「手」は、和紙職人の遠藤まし子さんです。
COLORweb学生編集部のあべべのレポートでお楽しみください。
■ 染料が染み込んだだつややかな手
白石で70年もの間、和紙職人をされている遠藤まし子さん。
遠藤さんの手には、浅黒い小さな無数のしわ。
「自然の染料は、いつまでもきれいに色が残るのが特徴のひとつ。それを使って丁寧に色づけするのが私の仕事です。」
今は楮(こうぞ)を用いて黒く色付けする作業をしているそうで、爪の間やしわに沿ってその染料がびっしり染み込んでいました。染み込んだ染料は70年間、1つの仕事にひたむきに向き合ってきた証。
「特別なことは何もしないかな。元々荒れにくい手なものでね。」
触感が違うと和紙の仕上がりが異なることから、作業はすべて素手で行っているんだとか。ケアは特に何もしていないそうですが、本当につややかな手をしていらっしゃいました。
■職人としてのこだわり
白石の特産品として有名な白石和紙ですが、元々は江戸時代に広く普及。
一度はその伝統が途絶えたものの、遠藤さんのご主人である遠藤忠雄さんが白石和紙を復活させました。
遠藤さんはご主人の指導で、紙すきの技術を習得したそうです。
和紙は、自ら育て収穫した原料の楮(こうぞ)を煮て洗い、打って繊維をほぐすなど、なんとも根気のいる作業によって作られます。
農家のほとんどの家庭で冬の仕事として行われていた和紙づくりですが、今や和紙を作っているところは片手で数えられるほどに。
現在では白石で唯一、手すき和紙に取り組む工房です。
ご主人亡き今は、ご自身が代表として「白石和紙工房」を運営。
和紙でできた便せんやハンドバックの他に、白石で特に有名な紙衣(かみこ)もこちらで作られています。
紙衣とは何枚かの紙を貼り合わせてやわらかくした、紙で作られた衣服のこと。丈夫で軽くあたたかいその素材は、昔の人の知恵が生かされています。紙を揉みほぐす作業が難しく、紙衣づくりは遠藤さんにしかできないんだとか。
「伝統を守るのは難しいけれど、自分のペースでお仕事させていただいてます。時間をかけて納得のいくものを作り上げることが大切なんだよね。」
1つ1つ手作りのあたたかみがある遠藤さんの作品。それに魅了された方々からの注文がたくさんあるそうですが、あくまで納得のいくものを提供したいという理由から、注文を受けられる数は限られているそうです。
遠藤さんは御年90歳。
世界的ファッションデザイナーの三宅一生さんに衣装材料を提供するなど、今も精力的に活動されています。三宅さんが昔からお世話になっている遠藤さんのために作ってくれたという作務衣も見せていただきました。
また、東大寺の「お水取り」でお坊さんが着る衣装を40年も前から毎年作っているんだとか。ご主人亡き今も、2月になると600枚もの衣装を背負って奈良まで届けることを欠かしません。三宅さんからプレゼントされた作務衣をまとい風呂敷を背負うその姿は、まさに名物おばあちゃん!
最後に若さの秘訣をお伺いすると、
「おしゃべりと趣味の俳句が若さの秘訣かな。」
と笑って話す遠藤さん。
チャーミングな人柄で、話を聞くうちにみるみる引き込まれてしまう、そんな魅力的な方でした。
伝統を守り続ける厳しさと、誇りが垣間見える。
周りに流されず、昔ながらの製法で紙をすく。
そのことが伝統を守る上で大切なことなんだなと気づかされました。
何百年も続く和紙の歴史を継承していってほしいと思います。
「白石和紙工房」
電話:0224-26-3333
所在地:〒989-0222
白石市鷹巣東3-1-6
定休日:不定休