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やっと このお茶が美味しい季節になりました。


TE con miel (テ コン ミエル) スペインのハチミツ入りハーブティー。


聖サンフランシスコ教会のお茶。

Tバッグの中にハチミツの結晶が最初から入ってる。


眠りにつく前に、ポットからお湯をそそぐ

ゆらゆら 立ち上る湯気が優しい。


ハーブティーは苦手。

でも、これは 飲める。


不思議なことに、このお茶に反応が全然無い人。

美味しい!って、絶賛する人。


面白い位、反応がわかれる。賛否両論。

どうやら、一般受け しないらしい。


そして美味しいって、言う人達のタイプが揃って

何か好きな事があって、創作活動をしている人。

感受性が強い人達であったりする。


甘くてほろ苦くて、時々香草の香りが入り交じる。


つまり、色々入り交じった複雑な味わいらしい。


どうせ 生きるなら、色々 味わえた方がいい。

誰からも愛される不動の定番よりも 

一部の少数派から熱狂的に支持される方がいい。


Te con miel そうなりたい。





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彼とは絶対に会わない。そう誓いを立てた日から約2年が過ぎた。



友人A子と彼の仲は順調のようだった。
A子は外資系に勤めるキャリア志向の高給取り。

年に2回 二人、海外旅行に行く。

グランドキャニオン、スペインのグラナダ、ナイアガラの滝。



A子からその度にお土産をもらい、記念写真を見せてもらう度

これで良かったと、何度も言い聞かせた。



時々、A子は3人で会おうよ。提案されたけど、全て断った。

私の中で彼に会うことは、ただ恐かった。

うまく言えないけど、怯えがあった。



だから、彼とA子が約2年を経て、結婚を前提に一緒に暮らし出す話を聞いた時

ああ、やっとこの怯えから逃れられる。

心から安堵した。彼とA子は揺るぎない。もう大丈夫。そう思ったのだ。



だから、引っ越しの後、新居に招かれた時、
久しぶりに気持ちがはずんだ。



素敵なマンションだった。都心で高層。日当たりも間取りも充分。

まるで、モデルルームみたいなマンションだった。



約2年ぶりに会った彼は少し頬はこけて痩せたせいか、

2年前よりも眼光が一層鋭かった。



それでも、3人で久しぶりに話がはずんだ。

楽しかった。

今までの怯えは全て取り越し苦労なんじゃないかと思うほど。

自分の思い込みを反省した程、楽しかった。



1カ月後、A子から古いパソコンを譲ってもらう事になった。

アナログでパソコン初心者の私に、A子は言った。


「教えてあげる。明日、家に来て」

蒸し暑い夏の日だった。

彼女の好きな桃を手土産に持った。


チャイムを押す。

出てきたのは彼だった。

「A子な、緊急の仕事が入って会社に向かってん。とりあえあず中で待ってればええよ」

2年前と変わらず、静かな口調だった。



彼は紅茶を入れてくれて、飲みながらたわいもない話をした。

けれど、内心、困っていた。

ちっとも、会話がはずまない。


彼は時折、のぞきこむように黙って私の目を見る。


それは何かを見透かすような強い視線だった。

2年前のあの怯えがザワザワと胸に押し寄せてきた。




「桃 食べる?」 気まずさを払拭するように台所にたった。

これを食べたら帰ろう。

そう思いながら、桃の皮にフルーツ包丁を入れた。

本当は手でむける位 熟していたけど、体裁で包丁を握った。



その桃が突然、床に落ちた。背後から彼に抱きすくめられたからだ。


「何であの時、連絡せえへんかった?」


「離して。」


「嫌や。答えたら離したるわ」



フルーツ包丁を突き立てたまま、私は言った。



「離さないと、刺さるよ。」



「刺せば?刺せばええ。質問に答えろや。」



頭に血が登った

。もう一つ皮を剥いた桃を手につかむと彼の顔に思いきり押しつけた。



「嫌いだからよ」



彼の顔は桃の果肉と果汁まみれになった。


怒るに違いない。

けれど、次の瞬間の彼の表情は驚いたことに笑顔だった。


床に落ちた桃を素早くつかむと今度は私の顔に押しつけてきた。


「お返しや。俺は待ってたんやで。アンタは嘘つきや。

 その顔で嫌い? 違うやろ?俺もアンタみたいな面倒臭い女、嫌いや。」 



満面の笑顔。恐かった。

この男に私は壊される。



顔も髪も桃の果汁でベトベトになった。

私は親友の彼氏と一体、何をやっているんだろう?

A子の靴が目に飛び込んできた。

ここは、A子と彼のマンションだ。



「自惚れてる。大嫌い。」

そう言い放つと、ドアを開けマンションを飛び出した。



駐輪場に止めてた自転車のペダルを思い切り踏んだ。

さっきまで、グレーだった曇天から大粒の一滴、二滴。

そして、激しい夕立になった。



2年間、沈黙を守ったのに、もう大丈夫だと思ったのに、

色んな思いが脳裏をめぐった。だけど、その時の心境を今でもはっきりと

覚えている。


本当は好きだったとか、そんな甘くて切ない甘美な想いは微塵もない。

抗えない恐怖だった。彼に出会った瞬間からわかっていた。


お互い、本能で魅かれあうのだ。

けれど、むき出しの本能でぶつかりあうことが、どんなに危険かそれも察知している。

自分が自分でなくなる。一歩間違えると狂ってしまう。


だから、防衛本能で避けてたのに。


A子を盾にして、道徳だとか常識の概念でごまかしていただけ。

自分は本能に逆らえない程、彼を欲していた。

そう あの男に私は 今までの常識や縛りつけられている固定観念を全て壊して欲しかった。

彼なら 全て破壊してくれる。それが出来る男。


だから 恐かったのだ。



雨が一層、ひどくなった。

自転車から降りた私は古いオカルト映画に出てくるキャリーみたい。

全身ずぶ濡れだった。



ふとガラスのウィンドウに自分の姿が映った。

髪にも頬にも、桃の甘皮がはりついていた。ひどい有様だ。

だけど、目だけが、彼の指摘したその目だけが、ギラギラと別人のように光っていた。



恐怖に怯えているはずなのに、

その目だけはギラギラと獲物を狙うように光る。

確かに 私は大嘘つきだ。

無毒を装いながら、毒針をもつ卑怯な蜘蛛女みたいだ。

同じ毒針を持つ あの蜘蛛男に本当は 頭からバリバリと喰われたい。



すれ違う人達が、気の毒そうな目で私を見ては通り過ぎる。

端から、見たら私は、ずぶ濡れの傘を持たない気の毒な頭のおかしい人。



さっさと家に帰り、シャワーを浴び、

新しい服に着替え何事もなかった顔をすればいい。

今までもそうしてきた。危険な事は全て避けてきたはず。

それが、正しいこと。道に外れないこと。



嘘。そんなこと 私は望んでいない。

壊されたい。それが 望み。


それに気付いた瞬間 

ケタケタと、笑いがこみ上げてきた。

自分で嘘の自分を演じることが、馬鹿馬鹿しくて仕方ない。

押さえこんでいた心のダムが一気に崩壊した。

道徳や常識がガラガラと崩れおちて、キャタピラーがそれを粉々に押しつぶしていった。


そして、眠っていた本能が ゆっくりと剥きだしになる。


キャミソール型のオレンジ色の長いワンピースを着ていた。

脇にある小さい児童公園。


スカートの裾をたくしあげ、はいていた下着を一気に脱いだ。

丸めて、公園の茂みに向かって投げ捨てる。


そのまま、自転車をUターンさせた。


必死に登っていた坂道を

あのマンションの方角へ、ブレーキもかけずに一直線に下る。


細い銀色 光る糸 たぐりよせられるように。


あの蜘蛛男の 手のなるほうへ。


























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花火をあの人と見に行く予定でいた。

半年間、つかず離れずの付き合いの中

もう一度、あの人と向き合おう。

花火と一緒に、キチンと心の中を打ち明けてみよう。


待ち合わせ時間を電話で決めてた時

ふいにあの人が言った。

「そういえば 独身最後の花火になるかもしれない」


あまりにもポツリと言うから最初 意味がわからなかった。

出会ってから20日で、結婚を決めたその女性はピアノの先生。


まさかの返答。内心 動揺する気持ちを抑え 私は言った。

「おめでとう。先月 会った時 話してくれればよかったのに」

「その時は まだ出会ってなかった。君とは色々あったけど、大切な友達。報告しておこうと思って」

「花火、行かないわ」

「どうして?」 「打ち上げ花火は 彼女と行くものよ」


数時間後、あたしは阿波踊りのお祭りを見ていた。

ふいにメールがきて、同僚の男友達に誘われた。

頭の整理がつかないまま、それでもお祭りの熱気とうだるような暑さが

まだパニックになっている脳内を少しだけ、緩和してくれた。


凄い人混み。おろしたての下駄の鼻緒が上手く肌になじめず、ぐらついてしまう。

ふいに、右手が温かくなる。彼が無言で私の手を握る。

そして 自分が先に立ち、私を誘導した。


「この辺りで見物しよう」 飲み物を2つ。両手に持って笑う顔はいつもの同僚の笑顔。


阿波踊りは何組も何組もパレードのように、私達の前を通り過ぎる。

狂ったように踊る姿。何度もビールを口に運びながら ぼんやりとあたしは空を見上げる。

恐ろしい程の満月。黄色く光る月あかり。

あの人も今頃、この満月と花火を彼女と見ているんだろうか?

数時間前に起こった事実が、まだ現実になじめない。


ふいに右手が温かい手で包まれた。

少し驚く。私は握り返せなくて、指は力なく脱力したまま。

それでもその手は とても温かい。

「浴衣 似合いますね」 阿波踊りに目を向けたまま 同僚の彼が言う。


あの満月が、ふいに霞がかったように 滲んで見えた。

そうじゃない。気付いたら 涙が止まらない。

煮こごりみたく、固まった何かが、一気に吹き出しては 溶けて流れる。


私はずるい。彼とは友達。でもその手を今は離したくない。


祭りの後、 毎年 このお祭りで三味線を弾いている 古い男友達と偶然、出会った。


「久しぶりだね」 交わした握手はとても力強かった。

別れ際、彼は言った。

「二人 お似合いだね」 


仕方ない誤解に私達は初めて顔を見合わせた。

そして 同時に同じ言葉を発した。


「ありがとう」 ピッタリと ぶれずに2人同時に答えた。

爆笑した。


駅に戻る 坂道 私達はいつもの友達の顔に戻っていた。

別れ際、彼が言った。

「少し 紛れましたか?」

何も言わなくても 彼は私の動揺とずるさに気付いていた。

それでも 手を握って励ましてくれたのだ。


「今日は本当にありがとう」 今度は自分から手を差し出した。


そして 自分から離さなかった。