「死にゆく者からの言葉」(鈴木秀子著・文藝春秋)
著者自身の臨死体験がもとになって聖心女子大の教壇に立ちながら、多くの人の死に立ち会って、その最後の手助けをするようになったそうだ。
幾多の経験を正直に淡々と何の脚色もてらいもなく綴られた一冊。
以下は抜粋である。
小学2年のM少年は不治の小児ガンにかかっていた。
もう余命がいくばくもないとわかったとき、家族は彼を家に連れて帰った。
二週間たったある日の真夜中に、両親はM少年がそっと起き出したのに気付いた。
それでも眠ったふりをしていると、彼は、まず一番小さい弟の所へ行って、弟の頭にそっと両手を置いた。
それから次に彼は妹の所へ行って、その手を静かにさすり始めた。
やがて彼は母親の脇に座り、彼女の胸に手を入れてその乳房に掌を置き、小さな声で「お母さん」と呼んだ。
母親は涙が出そうになるのを堪えてじっとしているのがやっとだった。
最後にM少年は父の側へ横たわり、父に頬擦りをした。
そうして彼は「わぁ、お父さんの髭、痛い」と叫んだという。
こうして彼なりの別れを家族全員に告げたM少年は、翌朝8時に死んだ。
この本はこうした美しい話がぎっしりと詰まっている。
いろんな人が、その最期に臨んでの一刹那、蝋燭の炎が消えんとして一瞬明度を増すように、ある安息と明晰を取り戻して、なにか「言いたいこと」を語り、そうして安心して{向こうの国}へ旅立って行くのだそうだ。
たまたま今夜10時から日テレ系「スーパーテレビ」で臨死体験者が語るという番組があることを見て、思い出した話だった。
なお、この著書を自分に紹介してくれたのは「リンボウ先生偏屈読書録」である。