はじめて「ソレ」を見たのは7年ほど前だった。
会社は8階建てビルの7Fと8Fが事務所になっていて私は
7階に勤務していた。
窓は大きく見晴らしがよかった。
交差点の角にビルがあり、向かいが病院で横断歩道を渡る人
も多い場所だった。
全くの偶然だったと記憶している。
何気なしに事務所の窓から下をみると、ちょうど横断歩道を
渡っている60歳くらいの男性が見えた。
病院の患者専用着の上からカーディガンを羽織っている。
近くのコンビニに買物にでも行くのだろうか。
そう思って眺めていると2mほど離れた斜め後ろを白い半透
明の、人影のような「ソレ」が前を行く男性と同じ間隔でつい
ていく。
目を凝らしてよく見ようと窓に顔を近づけた瞬間「ソレ」が
「顔」をゆっくりとこちらに向ける気配を感じた。
やばい、見てはいけない。
とっさにそう感じたのであわてて窓から離れた。
いったいなんだったのか、今見たのものは。
数分たってから、もう一度恐る恐る窓に近づいて下の横断歩道
を見たが、もう「ソレ」はいなかった、いなかったがどこかでこ
ちらを見ているような嫌な感覚があった。
同僚にその話をしてみた。
見たことがあるか聞いてみたが誰も信じないし、何より自分自
身何をみたのかわからなかった。
それから何ヶ月も経って、そんな出来事を目撃したことすら遠
い記憶になりはじめた頃、再び「ソレ」を目撃した。
しかも今度は間近で。
会社は子会社ではないが経営権を親会社の存在のような会社が
握っているという、いわば実質の子会社だった。
その関係で2年ごとに、次期役員候補として40代後半から5
0台前半くらいの年齢の人材が出向顧問という立場で派遣されて
くる。
次期役員候補といっても、実質の経営権は親にあたる会社の役
員が握っているので、派遣されてくる顧問というのは代弁者でし
かなく、親会社のいいなりになる気の弱い人あたりの良い邪魔に
ならないお客様という人たちばかりが選ばれてやってくる。
M顧問も人柄はそういった感じの、「いい方」だった。
ただこのM顧問は本当に真面目で情熱のある、仕事熱心な方だ
った。
派遣された会社の社長にも経営方針について独立を目指すべき
だと真剣に交渉していた。
当然派遣した親会社の役員に知られてしまった。
経営に携わる部門ではないところに移動となった。
それでも、やがて訪れる厳しい時代に独立してやっていける会
社を目指さなければこの会社の将来はない、と日々仕事に励んで
いた。
席は私の部署の隣になった。
そんなある日の昼休み、いつもならNHKの昼のドラマを見て
にこにこしているM顧問がテレビを見ていない。
ひとり机に背を向け腕組みして何事か考えている。
社長にまた何か言われたのか?
声をかけようと近づきかけたときM顧問の顔は正面を向いたま
まなのに、なぜか顔だけがこちらを向いた、いや向いたように見
えた。
こっちを向いたのが何ヶ月か前に横断歩道で見た「ソレ」だっ
た。
しかし完全にこっちを向いたのではなく斜めに顔を向けただけ
で目は合わなかった。
目線があう心配がなさそうだと思った私は「ソレ」を凝視した。
ガキの頃漫画や雑誌で見た「死神」そのものだった。
映画「スクリーム」に出てくるお面をかぶった骸骨のような頬
の削げた骨と皮しかない顔。
全体は白い半透明で全身をローブで羽織り、頭は頭巾をかぶっ
たような形だった。
この「死神」が、腕を組んで座っているM顧問に並ぶように寄
り添っていた。
20秒くらい見ていただろうか、M顧問がゆっくりと顔をこち
らに向けた。
目を巨大に見開き、口を「ひょっとこ」の面のようにすぼめた
異様な形相だった。
目はこっちを見ているのに焦点はあっていない。
「死神」がM顧問に取り付いている!。
やっと状況が理解できたので隣でテレビを見ている同僚に声を
かけた。
私 「おいちょっとM顧問のほう見てくれ」
同僚 「どうした?、M顧問がどうした、寝てるんだろう、
寝かせてやれよ、まだ昼休みなんだから」
私 「違う、M顧問の横になにかいる、見えるだろ」
同僚 「何が?なにもいないよ、今テレビ見てるんだ後にし
てくれ」
同僚には見えていなかったようだ、というより振り向いたらも
う「死神」の姿は消えていた。
M顧問に話しかけた、辛そうに腕組みされていましたがどうか
されましたか、と「死神」のことには触れずに聞いてみた。
夢をみていた、眠ってしまったみたいだな、そんな返事だった。
はっきりとこの目でみたが縁起でもないのでM顧問にはそれ以
上言えなかった。
こういう話に異常に興味を示す女子社員たちに休憩時間に話を
したが誰も本気で信じてくれる者はいなかった。
その日以降、なんとなく気になってM顧問をみるようになった。
他の社員にも内緒にしておいてくれ、と言いながら自分の目撃
談を話したが誰も信じない、ドラマの見すぎと笑われた。
まもなくゴールデンウィークになり会社も休みでのんびり過ご
した休み明けの出社の日、朝からM顧問が来ない。
休暇をとって長めの休みにでもされてるのだろうと思っていた
ら、営業のO君から会社に電話があり、M顧問と朝から得意先訪
問で待ち合わせしてるが、M顧問が来ないので会社に電話してき
たとのこと。
携帯電話も年配の方はまだ持つことを嫌がる時代だったため連
絡は自宅に電話するしかなかった。
元気に朝自宅を出たという。
奥様も慌てた様子で駅まで探しに行ってみるという。
1時間後、奥様から電話があり、自宅近くのバス停でバスに乗
るとき倒れた乗客がいたとのことで調べてもらったらM顧問だと
わかり、救急病院ですでに死亡が確認されたとのことだった。
普段は駅まで徒歩通勤なのだがその日は得意先を直接訪問する
ためバスで行くことにしたそうだ。
そのためバス亭でもどこの誰かがわからず連絡が出来なかった
そうだ。
死因は急性心筋梗塞だった。
その知らせを受けて誰よりも一番驚いたのはもちろん私だ。
時間がたつにつれて「死神」を目撃した話がいろんな社員たち
から出てくる。
複雑な気持ちだった、あれほど誰か目撃したことがないか聞い
ていたのに、今は現実に触れてその話はもうしないでほしいと願
っていた。
単なる偶然、目撃したことは単なる偶然だったかもしれない、
しかし、この目で見たのは現実の「死神」に間違いなかったと断
言できる。
横断歩道で見たあの患者の方がどうなったか知らない。
知ったところでどうなるものでもなかった。
それ以後「死神」を見たことはないが、ひょっとしたら見たく
ない気持ちが見ないようにさせているのかもしれない。
ときどき背筋がぞっとする感触がある。
自分の近くに「ソレ」が来ているのかもしれない。
でも見たくないから振り返ったりあたりを見回したりはしない。
もし今度見たとしてもどうすればいいのか。
「あなたまもなく死にますよ」、などと言えるだろうか。
言えない、だからもう二度と見えないほうがいいと思っている。
いつもこういった話になるとだらだらと長くなってしまいます。
もう少し短くまとめたいのですが難しくて
オチもなにもない話でしたが
お付き合いいただいたかたにはお礼申し上げます。
会社は8階建てビルの7Fと8Fが事務所になっていて私は
7階に勤務していた。
窓は大きく見晴らしがよかった。
交差点の角にビルがあり、向かいが病院で横断歩道を渡る人
も多い場所だった。
全くの偶然だったと記憶している。
何気なしに事務所の窓から下をみると、ちょうど横断歩道を
渡っている60歳くらいの男性が見えた。
病院の患者専用着の上からカーディガンを羽織っている。
近くのコンビニに買物にでも行くのだろうか。
そう思って眺めていると2mほど離れた斜め後ろを白い半透
明の、人影のような「ソレ」が前を行く男性と同じ間隔でつい
ていく。
目を凝らしてよく見ようと窓に顔を近づけた瞬間「ソレ」が
「顔」をゆっくりとこちらに向ける気配を感じた。
やばい、見てはいけない。
とっさにそう感じたのであわてて窓から離れた。
いったいなんだったのか、今見たのものは。
数分たってから、もう一度恐る恐る窓に近づいて下の横断歩道
を見たが、もう「ソレ」はいなかった、いなかったがどこかでこ
ちらを見ているような嫌な感覚があった。
同僚にその話をしてみた。
見たことがあるか聞いてみたが誰も信じないし、何より自分自
身何をみたのかわからなかった。
それから何ヶ月も経って、そんな出来事を目撃したことすら遠
い記憶になりはじめた頃、再び「ソレ」を目撃した。
しかも今度は間近で。
会社は子会社ではないが経営権を親会社の存在のような会社が
握っているという、いわば実質の子会社だった。
その関係で2年ごとに、次期役員候補として40代後半から5
0台前半くらいの年齢の人材が出向顧問という立場で派遣されて
くる。
次期役員候補といっても、実質の経営権は親にあたる会社の役
員が握っているので、派遣されてくる顧問というのは代弁者でし
かなく、親会社のいいなりになる気の弱い人あたりの良い邪魔に
ならないお客様という人たちばかりが選ばれてやってくる。
M顧問も人柄はそういった感じの、「いい方」だった。
ただこのM顧問は本当に真面目で情熱のある、仕事熱心な方だ
った。
派遣された会社の社長にも経営方針について独立を目指すべき
だと真剣に交渉していた。
当然派遣した親会社の役員に知られてしまった。
経営に携わる部門ではないところに移動となった。
それでも、やがて訪れる厳しい時代に独立してやっていける会
社を目指さなければこの会社の将来はない、と日々仕事に励んで
いた。
席は私の部署の隣になった。
そんなある日の昼休み、いつもならNHKの昼のドラマを見て
にこにこしているM顧問がテレビを見ていない。
ひとり机に背を向け腕組みして何事か考えている。
社長にまた何か言われたのか?
声をかけようと近づきかけたときM顧問の顔は正面を向いたま
まなのに、なぜか顔だけがこちらを向いた、いや向いたように見
えた。
こっちを向いたのが何ヶ月か前に横断歩道で見た「ソレ」だっ
た。
しかし完全にこっちを向いたのではなく斜めに顔を向けただけ
で目は合わなかった。
目線があう心配がなさそうだと思った私は「ソレ」を凝視した。
ガキの頃漫画や雑誌で見た「死神」そのものだった。
映画「スクリーム」に出てくるお面をかぶった骸骨のような頬
の削げた骨と皮しかない顔。
全体は白い半透明で全身をローブで羽織り、頭は頭巾をかぶっ
たような形だった。
この「死神」が、腕を組んで座っているM顧問に並ぶように寄
り添っていた。
20秒くらい見ていただろうか、M顧問がゆっくりと顔をこち
らに向けた。
目を巨大に見開き、口を「ひょっとこ」の面のようにすぼめた
異様な形相だった。
目はこっちを見ているのに焦点はあっていない。
「死神」がM顧問に取り付いている!。
やっと状況が理解できたので隣でテレビを見ている同僚に声を
かけた。
私 「おいちょっとM顧問のほう見てくれ」
同僚 「どうした?、M顧問がどうした、寝てるんだろう、
寝かせてやれよ、まだ昼休みなんだから」
私 「違う、M顧問の横になにかいる、見えるだろ」
同僚 「何が?なにもいないよ、今テレビ見てるんだ後にし
てくれ」
同僚には見えていなかったようだ、というより振り向いたらも
う「死神」の姿は消えていた。
M顧問に話しかけた、辛そうに腕組みされていましたがどうか
されましたか、と「死神」のことには触れずに聞いてみた。
夢をみていた、眠ってしまったみたいだな、そんな返事だった。
はっきりとこの目でみたが縁起でもないのでM顧問にはそれ以
上言えなかった。
こういう話に異常に興味を示す女子社員たちに休憩時間に話を
したが誰も本気で信じてくれる者はいなかった。
その日以降、なんとなく気になってM顧問をみるようになった。
他の社員にも内緒にしておいてくれ、と言いながら自分の目撃
談を話したが誰も信じない、ドラマの見すぎと笑われた。
まもなくゴールデンウィークになり会社も休みでのんびり過ご
した休み明けの出社の日、朝からM顧問が来ない。
休暇をとって長めの休みにでもされてるのだろうと思っていた
ら、営業のO君から会社に電話があり、M顧問と朝から得意先訪
問で待ち合わせしてるが、M顧問が来ないので会社に電話してき
たとのこと。
携帯電話も年配の方はまだ持つことを嫌がる時代だったため連
絡は自宅に電話するしかなかった。
元気に朝自宅を出たという。
奥様も慌てた様子で駅まで探しに行ってみるという。
1時間後、奥様から電話があり、自宅近くのバス停でバスに乗
るとき倒れた乗客がいたとのことで調べてもらったらM顧問だと
わかり、救急病院ですでに死亡が確認されたとのことだった。
普段は駅まで徒歩通勤なのだがその日は得意先を直接訪問する
ためバスで行くことにしたそうだ。
そのためバス亭でもどこの誰かがわからず連絡が出来なかった
そうだ。
死因は急性心筋梗塞だった。
その知らせを受けて誰よりも一番驚いたのはもちろん私だ。
時間がたつにつれて「死神」を目撃した話がいろんな社員たち
から出てくる。
複雑な気持ちだった、あれほど誰か目撃したことがないか聞い
ていたのに、今は現実に触れてその話はもうしないでほしいと願
っていた。
単なる偶然、目撃したことは単なる偶然だったかもしれない、
しかし、この目で見たのは現実の「死神」に間違いなかったと断
言できる。
横断歩道で見たあの患者の方がどうなったか知らない。
知ったところでどうなるものでもなかった。
それ以後「死神」を見たことはないが、ひょっとしたら見たく
ない気持ちが見ないようにさせているのかもしれない。
ときどき背筋がぞっとする感触がある。
自分の近くに「ソレ」が来ているのかもしれない。
でも見たくないから振り返ったりあたりを見回したりはしない。
もし今度見たとしてもどうすればいいのか。
「あなたまもなく死にますよ」、などと言えるだろうか。
言えない、だからもう二度と見えないほうがいいと思っている。
いつもこういった話になるとだらだらと長くなってしまいます。
もう少し短くまとめたいのですが難しくて
オチもなにもない話でしたが
お付き合いいただいたかたにはお礼申し上げます。