平成6年、いよいよ勤めていた運送屋さんが倒産へ突っ走っている頃のことです。

 前年のクリスマスには『フラワープレゼント・キャンペーン』だったかな?売上を上げるキャンペーンをしたんです。お花の蘭を売って運送代金を稼ごうという計画だったのです。普通、こんな計画を立てる時は役員会とかの承認がいるのではないかと思うのですが、そこは倒産間際の会社、やることなすこと好き勝手。言い出したのは本店の総務課長だろうと思うのですが、今もって収支報告などは聞いたこともありません。今でも私の中ではミステリーです。

 そのキャンペーンの時に財務担当常務が、ある運送屋さんの社長に『買って』ってお話しをしたようです。運送屋さんですから女性社員が奥さん一人なので『アンタんとこの女性社員の住所と名前を持って来い』ってことになって、本店の総務2人と経理1人(この時には多い時に2人いた女性社員が私一人になっていた)の自宅にお花が届いたのです。

 送り主を見てスグに『あの社長さんだ!』って思ったのですが、裏事情を何となく感じたので翌日上司に報告し、相談の結果、お礼は言わなくてもいいのではないかということになりました。

 倒産間際と言うことは新規融資を受けることはできません。当時は非常に融資の審査が今よりも緩い状態でしたが、『Xデーは何時?』って得意先の間ではヘンなウワサが流れていましたから、完全に無理!だったのです。生き残る方法として①支払いを出来るだけ伸ばす②労働基準局や社会保険事務所、国税局などの役所は会社を倒産させることは出来ないので、無理矢理に手形や先付小切手をジャンプする③銀行以外からお金を借りる・・・などしかありません。毎日がこんなことの繰り返し。給料は20締の28日支払いが翌10日になり、それも傍から見てたら支払えるかどうかさえ疑問でした。そうヘタをすれば『タダ働き』になるかもしれない不安が毎日付きまとっていました。

 我々が『ノンバンク』と内輪で言っていたのが、その社長さんだったのです。以前は『時々』借りていたのが『頻繁』になり、社長さんも返済してもらわないと社長さんご自身の身も危うかったのです。バレンタインデーの前辺りから状況が厳しくなり始めました。正直『社長さんに申し訳ない』気持ちでいっぱいでした。同時に『なんで社長と会長、そして2人の専務が土下座しないんや!3人の常務と経理部長、次長、課長が何時も犠牲になって』って腹立たしくもありました。

 で、皆さんにお配りしたチョコよりも少し高価なチョコ(缶入り、クッキーとかも入ったアソートタイプ)を持って、夕方、お金の相談をされている常務ほか数名の所へ行って、『あの~社長の所へ今日、行かれますか?』『う、うん。なんでや』『これ、この前のお花のお礼。バレンタインやし買ってきたんです。社長へ届けて頂けませんか?』『え~よ』と常務が引受けて下さったのです。

 翌日、常務にお金のことで用があって社長さんから電話があり、その際に『アンタが『くり~ぃむ』さんか?(女性は私しかいないからスグにバレた)昨日ありがとうなぁ。こんなん貰ったん生まれて初めてや。ありがとう』って仰ったんです。今まで『怖い』人と思っていたのですが、これを境にお互いに仲良くなれたことが本当に嬉しかったです。

 この先、こんな感じの、いい意味でのバレンタインデーを過ごすことが出来るといいですね。