ノアとは渋谷のヘンミケンネルで出会いました。

ヘンミさんのお店に入ると
あらかじめ電話で確認したもうすぐ生後3ヶ月になるというアプリコットのトイプードルの子犬は
店に入って左側のケージの上段で寝ていて
お店のおばさんに
あんたに会いに来たんだよと声をかけられるとけだるそうに目を開けてから、

すっと細い首をあげて私を見ました




アプリコットのトイプードルという生き物を、そのとき生まれて初めて見ました。

本で見てきれいだなと思って決めた毛色でしたが実際に見ると、アプリコットとはつやつやとした薄い金色で、
私をじっと見つめるその子犬の小さな体は、
そのふわふわの金色の毛で覆われていて
耳の毛は毛先が濃くなる金茶色のグラデーション。
マズルと手先足先だけバリカンを掛けてあり、精巧にできた犬の人形のようです。

やっと来たんだね

瞬きもしない丸い黒々した瞳は
そう言っているようでした。

さあ、歩いてごらん

金色の子犬はおばさんに犬舎から抱いて出されて
床に下ろされ
もうひとりのおばあさんに促され小さな体で
私を見つめながら見事なプードルウォークで、まっすぐ私に向かって歩いてきました。

まるであなたの犬になりますと、ノアが決めていたかのように。



これがノアとの出会いです。

ノアがいなければ、クレールもコレットもいないでしょう。



私の人生の最もつらい時期をノアは寄り添って歩いてくれました。

考えごとをして、不安で心が押しつぶされそうになっていると
湿った鼻先で、優しく私のスネを二度ほどつついて
はっとしてノアを見ると

元気だしなよ、ママ

そう言いたそうな顔をして、静かにしっぽを降りながら私を見つめていました。


今はもう、あの金色の毛も湿った鼻先も触ることはできないけれど
ノアは私の中で生きています

誇り高くて、気が強くて、わからんちんで、ハイテンションで
優しくて可愛くて
私にしか懐かなくて
頑固で困らせてばかりだった、ノア。

わたしの最初の犬。
わたしが来るのを待っていて

わたしを選んだノア。

初めて胸に抱いたとき、二キロちょっとの身体すべてを私にすっぽりあずけて、この世界をノアは黙って眺めていました。

ノアの体温、子犬のにおい。
最期は必ず私の腕の中でと、そのとき私は固く固く誓いました。

16年後、その誓いは果たしました。


これが、ノアとの出会いです。

ここから私のプードルとの暮らしがはじまりました。


2003年の、年明けのことです。