治療は終了し、自分では完治したものと思い込んでいた。
高速道路にも急行電車にも難なく乗ることができた。
仕事も順調だった。ただ、時折突発的にやらなければならなくなる「クレーム処理」の前には、気休めとしてデパスを服用してから臨むことはあった。
プライベートでは、私は地元のある活動で役員をしている。土曜も日曜も祝日もそれに手を取られ、ゆっくりと自分のための時間を過ごしたり休息できる時間は、ここ数年ない。またこの活動の人間関係はドロドロしていて、ある意味で仕事以上に私にストレスを与えていた。
治療が終わって3ヶ月経った2011年3月。
普段顔もほとんど合わせることがない、会社の上層部から、急な呼び出しを受けた。
聞けば、異動の勧め。
社外の組織への出向、これからの私のキャリアアップのためにもよい経験になるのではないか、と。翌朝返事するように、と言われた。
入社以来、長年慣れた職場を離れる。
しかし、自分にはこの職場での経験しかなく、視野を広げることは必要。
単身赴任や転居はないが、それまで片道30分の通勤は2時間になる。
色々思いを巡らすが、いずれにせよ、上層部からの話を断るという選択肢は、サラリーマンである以上なかった。
翌朝一番に上層部を訪問し、
「昨日のお話しありがたくお受けさせていただきます。よろしくお願いいたします。」
と伝えた。