(BL/ON/妄想小説)

*SFファンタジー

 

 

(ニノちゃん側のお話はこちらから)

 

 

 

彼誰時(かわたれどき)とは、明け方の薄暗い時間帯を指す言葉。

夜が明けようとする、でもまだ陽が昇る前。

 

光が差さない、薄暗くて、周囲の景色がよく見えない時間。

(映画等から生まれた言葉だそうで、映画等では夕暮れに使われることが多い)

 

誰かがいても、顔の見分けがつかなくて。

「彼は誰?」から「彼誰時」という美しい言葉が生まれたそうです。

 

 

 

 

(1)

 

 

今は、まだ出会えない君に、ただ会いたい。

 

悲しい夜の帷の向こうの君の顔を、想像する。

 

今は、泣いてるかもしれない君の為に、奇跡を願う。

 

ただ、会いたいから。

 

……もう、君を愛してるから。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

2018年8月 side 大野智

 

 

最近引っ越したばかりのアトリエのある、海の見える家。

あちこち自分で修理してたら、うっかり右手を捻挫した。

 

「やべえ……」

 

しばらくは、右手が使えない。

ってことは、絵も。

冷やして湿布を貼るけど、結構痛い。

 

9月の展示会までに、もう1枚仕上げたかったのに。

 

「仕方ない、これも運だ」

 

頭の中を切り替えて、散らかった部屋を片付ける。

一人暮らしで、知らない田舎の土地。

この数日は、誰とも会っていなかった。

する事もなくって、早々に寝たけどすぐに目が覚めてしまう。

 

「ちょっと走るか……」

 

明け方の空は、まだ暗くて。

体が、鈍らないようにランニングしようと家の外に出たら、ガタンと大きな音がした。

 

朝霧の中は、すぐ近くも見えなくて。

音のする方へ歩くと、この家のポストだった。

まだ、郵便物も届いたことがないポストは古いから、その小さな戸を開けるとギシギシ鳴る。

 

「……?」

 

なんとなく、ポストを開けると手紙があった。

消印も、住所もない。

まだ新しい封筒だった。

 

「誰か、忘れていった?」

 

前の住人だろうか。

けれど、宛名を見て驚いた。

 

「大野智様……? お、俺?」

 

心底驚いて、しばらく立ち尽くしてその手紙を見つめた。

 

 

――――――

 

 

ランニングどころじゃ無くなって、手紙を持って家に戻った。

 

窓際の椅子に座って、すぐそばの小さなライトをつけた。

 

丁寧に封筒を開けると、綺麗な便箋が出てきて。

 

「えっ?」

 

その手紙は、驚くような内容が書かれてあった。

 

 

 

大野智様

 

今、どこにいますか?

とても会いたいです。

一緒に、またお酒も飲みたいし、一緒に眠りたい。

約束した旅行も、行きたい。

あなたがいないと、何をして良いかも、わかりません。

夢でいいから、会いに来て下さい。

 

愛しています。

 

あなたの恋人より

 

 

「恋人?」

 

今の俺には、恋人らしい人はいない。

まして、こんな手紙をくれるような人物も。

 

丁寧な文字は、知らない文字だったけど。

その一文字一文字に胸がギュッとなった。

 

 

「……誰?」

 

朝霧の見せた幻か。

 

悪戯な魔物の仕業か。

 

何度も読み返して、その切ない言葉に切なくなった。

 

 

窓からは、鳥の声が聞こえてきて。

 

部屋は、窓からの光で明るくなっていく。

 

 

 

 

それは。

 

奇跡の恋が始まった瞬間だった。

 

 

 

 

続く

 

 

 

おすましペガサス これも懐かしいお話。大宮さん編です。(保管庫②はお山さん編)

でもって旧作の最終回掲載直前で、ちょっと嫌なメッセージが来た思い出があります。笑

本当は、当時この先の3も考えていたのですが、やる気がなくなってしまって、書きませんでしたね。

なかなかモチベを保つのって難しいですよね〜。汗うさぎ

旧作もずいぶん掲載追いつきました。ちょっとホッとしています。