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*お話の全てはフィクションです。

 

 

(3)血の花

 

 

side 二宮和也

 

 

日に焼けて、ほっそりした長い手足の少年は、二宮和也という。

 

学校帰りにいつも通りの住宅街の角を曲がったところまで、 いつもと同じだった。

 

 

 

 

……なのに、気がついたら、血塗れで雪の上に倒れていた。

 

「……痛い、ここどこ? どうして……? っ……」

 

小さな顔も、身体も真っ赤な血に染まり、白い雪の上に咲く花のようだ。

 

 

 

子供ながらに、死ぬのかなと痛みの中考える。

 

でも、どうして? こんなところで、……こんな風に死ぬの?

 

少年の悲しみと絶望が、小さく音の無い音になって遠くに響く。

 

意識が、途切れる寸前に見たのは、美しい顔をした男の悲しそうな顔だった。

 

 

 

 

それから数日間、眠りながら時折目が醒めて、気がつくと、 いつも美しい顔がそばにあった。

 

その顔を見ては、また眠る。

同じようなことを、何度も繰り返し。

 

ハッキリ目が覚めた時、知らない家のベットの中だった。

あんなに痛くて出血していた身体は、綺麗になって傷も無い。

柔らかく、気持ちの良い布団の中で、生まれたままの姿で、 起きたくても力が入らない。

 

「ここ、どこ? 誰? 僕は、どうなったの?」

 

ぼんやり、声に出してみる。

何も分からなかった。

自分の名前と年齢は、覚えてる。

でも、他はまるで、最初から無かったように思い出せない。

 

そばに美しい男がいた。

静かにこちらを見ているが、何も言わない。

しばらくすると、その男はベットを覗き込み、問いかけて来た。

 

「生きたいかい? それとも、死にたいかな? 好きにしてあげるよ。言ってごらん?」

 

「僕……? 死ぬの? い、きたい ……死にたく無い……よ」

 

小さな声で、震えながら答える。

そう、分かったよと男は言い、少年はその声を聞いて気を失った。

 

何処の誰とも互いに知らない男と少年は、この日から家族になった。

 

 

 

――――――

 

 

 

少年・二宮和也は、大野智という青年と家族になっ た。

 

お互い何処の誰かも分からないままだが、大野は、大変丁寧に少年の世話を焼いた。

 

 

 

「あの、僕ここに居て良いの? お兄さん……困らない?」

 

大野は、無表情だが美しい顔で答えた。

 

「呼ぶのは大野でも智でも構わない。好きに呼べばいい。ここでは、おまえの好きにして良い。欲しい物は有るか?」

 

「……分かんない。あ、でも服が欲しいかも…… 」

 

少年を改めて眺めた大野は、小さな声で、なるほどと呟く。

 

傷が治るまで全裸で寝かされていた為、起きた時は大野の白いシャツを着せられていたが、ワンピースの様に大きくて、肌着も着ていなかった。

 

「こっちにおいで」

 

大野は和也をそばに呼ぶと、また着ているものを脱がせて、身体中を触って確認した。

 

「痩せてる気がするけど、病気では無さそうだな。どこか 痛いかな?」

 

「ううん、痛くない。お兄さんの手、気持ち良い。もっと 触って」

 

遠い日に、優しい手に触れて貰った気がする。

 

 

 

ずっと……ずっと、遥か遠い日の誰かの影だけが、浮かぶ。

 

 

 

大野は、ふーんと不思議そうに頷くと、赤ちゃんを触るように、優しく背中やお腹を撫でてやる。

 

余程気持ち良いのか、和也は、うっとり目を瞑った。

 

この日から毎日、寝る前に大野は、和也を撫でてやるのが日課になったのだった。

 

少年は、寂しがり屋の様で、手や足も撫でて欲しがった。

 

 柔らかい仔猫のように喜んでる様子は、大野には不思議だった。

 

自分なら、他人に触られるなんて考えられなかったからだ。

 

 

 

食事も和也のような年齢は、もっと食べるだろう。

 

だが少年は何を食べても少食で、大野は生き返って初めて他人の心配をする事になった。

 

「和也、もう少し食べた方が良いよ。お前は痩せすぎだから。美味しく無いのかな?」

 

「とても美味しいよ、でもたくさんは入らないんだ」

 

 

 

月日が経つにつれて、和也の日焼けしていた肌は、屋内ばかりいる為に透き通るように真っ白になった。

 

髪色も明るく変色して、人形のように美しく成長していく。

 

不死身になって初めて、大野が大切に育てた無防備な少年は、存在そのものが危なくなり始めていた。

 

美しすぎるその姿は、良くも悪くも目立ってしまう。

 

一人にすると、オカシナ者が近づくから、ますます外へは出せなくなって行った。

 

 

――――――――

 

 

……和也が眠ると、声がする。

 

それは、優しい声で。

 

優しい眼差しの人が微笑んでいる。

 

誰なのか、わからない。

 

けれど、夢の中で、その理由は分かっている。

 

それは、遠い日の約束だったと。

 

 

――――――――

 

 

続く