*嵐妄想小説

*BL小説

*吸血鬼幻想

*物語の全てはフィクションです。

 

 

※ 吸血鬼ナルセ=百年前の管理人の大野智である。

※ 由紀夫は、大野が後に出会う櫻井翔少年そっくりの青年。

*スミは、相葉くんによく似た少女。

 

 

 

 

(5)

 

 

その日。

 

由紀夫は体調が悪く、だるくて布団に寝ていた時に、突然目の前に男が二人現れた。

 

「……お前が、智久か?」

 

 

 

男が誰だか知らないが、明らかに物騒な人物だ。

 

彼らの探す智久は恩人だ。

 

躊躇わずに頷くと、口を手で塞がれて首を絞められた。

 

「悪く思うな、仕方ないんだ」

 

(……死ぬのか。良かった、せめて役に立てるなら……)

 

 

 

絞められたと同時に、智久とスミが飛び込んで来て助けられた。

 

意識を失いながら、これでナルセ(大野智)への恋から、逃げられると思ったのに。

 

 

『由紀夫』

 

 

久しぶりに呼ばれた名前が、この世へ由紀夫を引き戻す。

 

 

「違う……」

 

呟きながら、まだこの地獄が終わらないのかと……涙が溢れた。

 

吸血鬼の愛は、呪いと同じ。

 

愛された者は、不幸でしかない。

 

 

――――――――

 

 

由紀夫が、思ったよりも軽症だったのは幸いだが、襲った男たちの正体が分からない。

 

眠った由紀夫のそばで、スミと智久は一緒に休む事を決めた。

 

 

 

「スミ、明日からもっと警護を増やして貰おう。何かあったら、この薬を」

 

智久は、そう言ってスミに注射器と薬の瓶を渡した。

 

「毒ですか?」

 

「死なない程度のだ。ただ……新薬で、まだ使ったことが無いから」

 

「打ち方を教えて下さいませ」

 

「そうだな」

 

打ち方を、スミに教えながら、ふと呟いた。

 

「昔、私も姉に教わったんだ」

 

「お姉さま? お医者様ですか?」

 

「いや……薬の開発者だった。天才で優しかった。私は養子だったが、とても大事に育てられたんだ」

 

瑠衣との子供時代は、優しく美しい思い出ばかりだった。

 

誰かに愛されたことなど無かったから、優しい姉が全てだ。

 

思い出して口元を、穏やかに綻ばせている彼は珍しかった。

 

 

 

「お優しいお姉さまなんですね。だから智久様も、優しいんでしょうね」

 

「私は……姉のようには、なれないな。薬でこれからは、人を助けたい」

 

殺すのではなく、助けるための開発。

 

瑠衣の才能は、人を殺すのに特化した悪魔の産物だ。

 

自分にとっては優しい姉も、恐ろしい一族の長の顔があった。

 

それは言うわけにはいかないから、微笑んでそれだけを言った。

 

 

 

「これで、由紀夫様や誰かを守ります」

 

スミが、薬の瓶を眺めながら言う。

 

「ああ、でも危ない時は、無理せずに一人でも逃げなさい」

 

「いいえ、許せません。自分だけが逃げるなんて、後悔するだけです」

 

少女の凛としたその佇まいは、美しかった。

 

「そう……君の思う通りに」

 

言いかけて、思い出す。

 

男達の逃げる時に見えたもの。

 

その腕の見覚えのある刺青が、智久に犯人を教える。

 

 

 

「スミ……もしかしたら。……ここは危ない。裏切りかもしれない」

 

「私も……少し思っておりました」

 

スミも一族の子だ。

 

危ない客人を任された時から、万が一を感じていた。

 

スミは、後妻に厄介者扱いされてきた先妻の娘。

 

後妻は彼女を追い出すのに、この仕事がうってつけだと差し出した。

 

一族の長に貢献して、邪魔な子供を始末するチャンスだ。

 

 

 

「私が死ねば良いと……義母は思っているようですから」

 

「スミ……」

 

智久と同じような境遇で育った少女。

 

智久が、瑠衣に守られてきた様に、この子は守ってやろうと思う。

 

 

 

「大丈夫だ、必ずお前は死なせない。まず長の考えを聞かなきゃならないが……」

 

もしも、分かり合えないなら。

 

瑠衣のような手を使う事になるだろう。

 

「スミ、覚悟はいいか? これからはこの3人だけで、生きていく事になっても」

 

「嬉しいです、3人だけ……家族になるんですね?」

 

パッと顔を上げて、少女は嬉しそうだった。

 

その顔に瑠衣と似た表情を見てドキッとする。

 

瑠衣と遠縁の一族の娘だ。

 

(血か……? 瑠衣、あなたの血は繋がっているようだ)

 

 

 

少女と青年を守り生きて行く。

 

それが、これからの人生なのか。

 

落ち着いて考えてみれば。

 

瑠衣のいない今、養子で死んだ事になっている智久を、大切にする理由など無かった。

 

智久を殺して、瑠衣から預かった財産を守りたいのだろう。

 

 

 

(瑠衣……あなたの一族を殺すことになる)

 

美しくて天才で、誰よりも残酷な人。

 

人生をかけて作った弟がいえば、きっと、楽しそうに微笑むだろう。

 

『さあ、皆殺してしまえ』と。

 

その瑠衣の幻に、智久も微笑み返した。

 

 

 

続く

 

 

+++

 

 

暗いお話が続いて申し訳ない。^^;

 

当初、100年前の由紀夫とナルセ(大野さん)の物語は、チラッとだけ書くつもりでした。

でも、どんどん膨らんで、相葉くんへの大きな流れになったので、きちんと書くことに。

真夏の遠い旅先で(遊びではない旅だったのですが)忙しい中の早朝や夜中に、持ち込んだパソコンで書いていました。

 

昼間の山の中は、街中より10度も低い気温。

短い時間ですが、ひとりぼっちの朝の散歩で、誰もいない道を歩いてるうちに、美しい由紀夫が浮かびました。

 

さらに夕方、霧で見えない山の上へ車で行くと、あの世のようでした。

この霧の中に、大野さんが立っていたら、さぞ綺麗だろうなあと思いました。

 

消えていく自分の命を見つめながら、瑠衣ならどうするか。

永遠は、心の中に。

自分を愛してくれる人が、存在する限り、この命は続くのだと考えた瑠衣。

それは、私も真実のような気がします。

 

今も、大野さんには会えませんが、恋しい気持ちがお話の中で、その名前を刻んでいきます。全く別の形で、別の生き物で、逢いたい人の物語は、いまだに終わらないようです。

もうしばらく、お付き合いくださると嬉しいです。