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(2)不死の男

 

 

 

side 大野智

 

 

真っ白な壁の部屋。

 

ぼんやり無表情で、強い酒を飲みながら窓から外を眺めている男は、もう年齢を重ねるのを忘れて五百年。

 

上品で暗い輝きを持つ美しい姿は、人の目をひく。

笑顔になることも忘れた彼の名は、大野智という。

 

この名前も最近だ。

 

人の世は、永遠のように生きる者がいることを知る者が少ない為に、度々名前や身の上を変えなくてはならなかった。

 

元は、普通の人間だった。

 

……息絶える直前に、人では無い者に助けられた。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

姿は見えなかった。

 

声だけが、頭の中に響いてきた。

 

「遊びをしよう。助けてやるから」

 

もう、声など出せないから、心だけで返事する。

 

「……うるさい、助けてなど、いらない」

 

何か、気配だけで相手が笑っている気がする。

無様に死んでいく自分を笑っているのか。

 

「人間など……もうウンザリだ」

 

ただ、絶望していた。

助けられなかった命が浮かんで、悲しかった。

 

また、笑われた気がした。

 

「何なら、いいんだ?」

 

「……神になりたい。もう殺されるのは、御免だ……」

 

神様なら、あの可哀想な命も救えたかも知れない。

 

今度は、はっきり笑い声がした。

 

「いいだろう! 神のようにしてやろう。その代わりに遊びをするぞ」

 

承諾も、納得もなく、返事を待たずに宣言された。

 

すごい圧が身体中にかかったと思ったら、熱くなって、何かが入って来た。

体を巡ると、また出ていった。

 

痛みが引いていくのが分かる。

それで、初めて痛かったのか、と分かる。

 

「遊びのルールは、1つだけ。生き残れ。お前を殺しにやってくる奴らを殺せばいい」

 

「……なんの為に」

 

「人は、嫌なんだろう? 人で無くなるためだ。面白いと思わないか?」

 

「何が面白いんだ」

 

また、笑われた。

 

「じゃあ、私が差し向ける者に殺されるか? 私が差し向けた者には同じ目印がある。この目印のあるものだけがお前を殺せる」

 

「生き残ったら、どうなる?」

 

「ただ、生きていく。永遠にな」

 

それこそ、意味が無い。

 

「遊びだ。もし人間に戻りたくなったら、賭けをしよう」

 

「賭け……」

 

「おまえのために。『目印』を持った者をおまえが愛せれば、人に戻り死ねるだろう。私の思いやりだ。知っているか? 人は思いやりが有るんだろう?」

 

「……全部……死ぬ為じゃないか……」

 

 

 

今、死んで構わないのに。なんの為に?

 

その時、目が見えて全てが光の中だった。

 

眩しくて、目を瞑ったが、声は聞こえなくなり、また暗くなった。

 

体が動くようになって、立ち上がると、一人だった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

そして、今日まで五百年。

 

遊びは、まだ続いている。

 

確かに、大野は神のようになった。

歳もとらず、病気もせず、永遠のように生きている。

 

やって来る刺客を殺しても、殺しても、終わらないゲームが続く。

殺すたび、時が過ぎる度に、強くなり、人の感情が抜けて落ちて……消えていく。

 

「……飽きた」

 

一言、呟いた。

 

正確にいうなら、疲れたというのだろう。

 

人で無くなれば、終わりなのか。

殺されれば、死んで終わるのか。

それとも……。

 

大野には、わからなかった。

 

 

――――

 

 

窓から、風が入ってきた。

 

涼しくて気持ちの良い風が、頬を撫でても、何も感じる事は無かった。

 

 

 

 

 

「不死の男」<end>

 

続く