*嵐妄想小説
*ダーク・ファンタジー
*SFファンタジー
*潤翔妄想(大宮妄想)
*お話の全てはフィクションです。
「Before the beginning 」
(0)後編
(0)後編
桜の季節に、似合いの親友が遊びに来てくれた。
友人の刑事課にいる櫻井翔だった。
警察官の持つ、独特の圧も無く上品なオーラのある彼は、年々垢抜けていく。
大きな目と印象的なふっくらした唇と白い大きな前歯は、可愛らしくもある。
彼に会いたくて、彼の部署を訪れる後輩や女性は多かった。
「潤! 久しぶり!」
「翔、暇になったの?」
「あはは……そんなこと無いんだけど。顔が見たくなって」
「そっか」
出世する気の無い松本と違って、昇進試験を受けて現場から上がっていく途中の青年は、いつも明るくて元気をくれる。
櫻井は、いつも明るいオーラのようなものに包まれている。
温かくて、優しいオーラだ。
悲劇からは、一番遠い人物だろう。
松本潤は、上司の指示をきかないことでも有名だった。
独自のカンで、単独捜査をする事でも。
その手柄を上司たちに渡すだけで、本人はいつまでも、『町のお巡りさん』がいいという。
手柄をあっさりと渡すために、彼を追求する上司はいないようだ。
「この間も、なんか凄いのみつけたんでしょ? それで事件が解決したって聞いたよ?」
「この間……ああ、アレは……たまたまさ。運が良かったんだ」
「そう」
櫻井は、それ以上は聞かなかった。
ちゃんと言ったことが無かったけれど、松本の霊感には気が付いてる様だった。
松本も、櫻井も、今日は貴重な休みだ。
旅行好きな櫻井は、遠出しないかと言う。
「温泉に日帰りしない? 疲れてるでしょ? 美味しいもん食べて帰ろうよ」
「そうする? 俺はなんでも良いんだけど」
その時、何か音が聞こえて松本が立ち止まった。
「潤、どうかした?」
「……翔なんか言った?」
「なんも言ってないけど? 何か聞こえたの?」
公園の大きな桜が、風で大きく揺れた。
たくさんの花びらが舞い、木の軋んだような音がする。
松本の背中が、ゾッとした。
(なんだ、この嫌な感じは?)
二人のそばを背の高い美丈夫と言うのがピッタリの、彫刻のような体格をスーツに包んだ垢抜けた男性が、すれ違って去って行った。
「消毒薬の匂い?」
「本当だ、病院かなんかの人かな?」
男の背中には、無数の影がまとわりついていて。
多分、自分だけが分かる死臭がして、松本は気分が悪くなった。
……どこの誰かは、知らないが。
「……ああいう男が」
「潤?」
……悪魔かもしれないと、松本は思ったが言葉にはしなかった。
――――――
温泉旅館に着くと思ったより楽しくて、二人で泊まろうかと話していたら、浴衣姿の子供二人がそばを走り抜けていった。
「見たんだよ、あの木の下に幽霊がいたんだ!」
松本と櫻井がギョッとして子供達の背中を目で追った。
子供たちには、何もおかしな所は無い。
「子供と動物って、見えるって言うよね?」
少し黙った後で、櫻井が笑って言った。
「そうなの?」
じゃ、自分は動物に近いのかもと、松本は思った。
櫻井といると子供の時から知っている友人のようで楽しかった。
結局、二人で泊まる事にした旅館の部屋で、好きなお酒を呑んで寛いだ。
「翔といると、楽しいよ」
「本当? 俺、忙しすぎて怒られるんだよね。妹なんかがいつも怒んの。でも、めちゃくちゃ可愛いんだけどね」
「あ……」
「なに? どうかした?」
「いや。ちょっと……ほら明日の仕事の事思い出しちゃった」
櫻井の妹の話はよく聞いていた。
可愛くて、櫻井に懐いていて、すごく仲が良い。
まだ学生らしかった。
ただ、今は聞いた瞬間、引っかかった。
あまり、いい予感では無かったから、話せない。
「妹さん、翔に似てるんだろうなあ。美人でしょ?」
「似てないけど、めちゃめちゃ美人だよ!」
……今日は、色々感じることの多い気がする。
松本も、こんなに色々感じるのは久しぶりだった。
初めて何か始まるかもしれないと思った。
殺される夢を見ると言う少年。
桜から聞こえる不思議な声。
悪魔の様だった見知らぬ男。
そうして、櫻井の大切な妹。
(翔が、やはり関係ある気がする)
「翔、なんかあったら、すぐ相談してね?」
「え? 恐いよっそれって。なんかあるの?」
「無いけど、翔は友達だからね」
「ふーん……。変な潤」
窓をバタバタと蛾のような虫が叩いて、その話は終わった。
「桜の花びらが飛んでくるなら良いけど。虫は嫌だよねえ」
「まあ、虫なら何とかなるから良いよ」
……何とかならない事が、起こりそうで。
虫は、いつの間にか窓からは、見えなくなった。
窓の向こうは、雲が月を隠したのか、周りの灯りも消えて真っ暗になった。
それは、松本と櫻井が、ある事件に巻き込まれる少し前の夜のこと。
(0)<end>