*嵐妄想小説

*BL小説

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*吸血鬼幻想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

 

(3)

 

変貌した姉の瑠衣を守る為、弟である智久の苦悩は深くなっていった。

 

普段は、か弱く清らかで、少女のような姉。

 

その彼女は、自分を愛する男をベッドで残酷に殺すようになってしまった。

 

毎日では無かったが、月に1度程度、彼女は男を探しに外出してしまう。

 

いくら止めても、その変貌した日だけは、力でも彼女には敵わない。

 

細身の体から、怪物のような力が出るからだ。

 

部屋の外からかける鍵も、彼女は捻じ切るなり、窓から男を引き入れるなりしてしまう。

 

鍵は、智久からの彼女への嘆願のようなもの。

 

「もう殺さないで」

 

普段の彼女なら、願いを聞いてくれるけれど。

 

別人に変わってしまった日は、聞いてくれることは無い。

 

まるで、おとぎ話の中の怪物のようだった。

 

 

 

******

 

 

 

「瑠衣」

 

「ナルセ(大野智)?」

 

暖かな昼間、一人で街に出た瑠衣は、ナルセ(大野智)と再会した。

 

人気のない街角の影に、美しいスーツを着た紳士のような姿のナルセ(大野智)が、静かに立っていた。

 

美しい顔に、上品な華やかな佇まい。

 

どんな男性よりも、美しくオーラのある姿は、人混みの中でも見つけられそうだった。

 

「久しぶりだな、体の調子はどう?」

 

「さあ? 分からない」

 

そう言って微笑む瑠衣は、少女のような清らかさに見える。

 

髪の1本までも、サラサラと靡いて輝いて、所作すら可愛らしい。

 

その様子に、ふっと笑うとナルセ(大野智)は、ため息まじりに言った。

 

「……随分、殺したんだな」

 

「そうかしら」

 

興味もなさそうに、瑠衣が言う。

 

「たまには、俺と遊ぼうか」

 

「遊んで欲しいなら、約束して」

 

「何を?」

 

「私の弟には、手を出さないでね?」

 

「ああ……いたっけ。どうして?」

 

「私のものだからよ」

 

「そう、なら約束する、これでいいか?」

 

「ええ」

 

そう言って彼女は、ナルセ(大野智)に体を寄せて見せる。

 

彼女が瞬きすると、可愛らしい姿には似合わない、毒のようなオーラが溢れ出した。

 

「お前って、やっぱり変わってるな」

 

「変わった子は、嫌いなの?」

 

「いや、そうじゃない」

 

二人は見つめあって笑うと、そのままどこかに消えてしまった。

 

 

 

******

 

 

 

瑠衣と智久の家は、代々、毒を使う研究をしてきた。

 

その毒は、ある時は食中毒のような症状で人を殺し、または流行病に見せかけて、たくさんの人を殺してきた。

 

さまざまな毒は、国の要人たちが、使う。

 

時代を動かすキッカケを作ることもあった。

 

その毒と引き換えに、大きな報酬と立場を与えられて、何不自由なく一族皆が生きてこられた。

 

 

 

毒の一族の本家の当主とも言えるのが、瑠衣だ。

 

智久は、瑠衣の体が弱い為に、万が一の跡取りに、遠い親戚の知り合いから養子にきた子供だった。

 

瑠衣は、毒にも天才的な腕と知識を持っていたが、体が弱いのは、代々子供の頃から猛毒やウィルスに触れた副作用かもしれない。

 

彼女の体は、年々蝕まれていったが、病名や原因も特定できなかった。

 

たくさんの人の命と不幸で、繁栄してきた一族の業が、彼女へ一度に来たようだと噂されていた。

 

 

 

一族の毒の技は、瑠衣が智久に教えて引き継いだ。

 

すっかり体の弱った彼女が、毒を触るのはもう無理だからだ。

 

智久は、毒の生成やウィルスの研究をしながら、瑠衣の命を延ばせないか。

 

薬は作れないか、ずっと研究して生きてきた。

 

 

 

瑠衣は、初めてあった日から、智久に優しくて、賢く素晴らしい人だったから。

 

その愛する姉が、まさか怪物になる日が来るなんて。

 

想像だにしたことは、無かったのに。

 

「噂通り……呪われてるのかもな……」

 

一人、研究室で智久が、つぶやいて顔を両手で覆った。