*嵐妄想小説
*ダーク・ファンタジー
*お山妄想
*末ズ妄想
*お話の全てはフィクションです。
末ズメイン+お山(相葉君+中丸君+亀梨君+α)
『神さまのため息。蝶の葬送』(0)
前編「Before the beginning 」
(0)前編
春の夜は、寒くて美しい。
凍るような空気の中に、桜たちが怖いほど咲き乱れる。
この世と違う世界の境が、曖昧になってしまう。
伸ばされた手に触れてしまいそうになって、手を隠す。
触れたら最後、無事では終わらないから。
悪い予感は、見ないようにしていた。
……だけど。
――――――
何かが起こる前触れのような、真っ赤な夕焼けの日だった。
学校帰りの子供たちがたくさん通る川辺の近く。
川の向かい側には、町の派出所が、桜のそばにあった。
その前に、見回りからでも帰ったらしい警察官の大野智という男が、自転車を止めた。
日焼けした髪と肌、細身だが制服の下は鍛えた筋肉が隠されている。
警察官らしくなく、上品で美しいのが、印象的な男だった。
派出所に入ろうとしたら、可愛い男の子の声がした。
「おまわりさーん」
「おう、お帰り。学校終わった?」
「うん」
手足の細い華奢な男の子。
毎日のように派出所に寄って挨拶してくれる。
よく日焼けした小さな顔は、先ほどまで暗かった。
その顔が大野を見て輝いたけれど、それは本人すら知らない。
「学校、楽しかったか?」
「うん。ここに少しいても良い?」
「良いよ。お茶でも一緒に飲む?」
「うん!」
少年は、二宮和也という。
学校帰りに、大野へ会いにくるのは多分、家に帰りたくない理由があるのだろう。
だが怪我や、栄養状態が悪いなど怪しくない限りは、無理に話は聞かないようにしている。
「おまわりさん、いつも泥棒捕まえるの?」
「へ? そうだなあ、色々だなあ」
ふーんと可愛らしく顔を傾げつつ、大野の渡してやった湯呑みのお茶を飲んでいる。
(……またか)
少年の姿が、滲んだ様になってその後ろに、全く違う姿の者が、薄く浮かんで視える。
ハッキリしないけれど、確かな存在があった。
この子に憑いている誰かなのか、それとも。
「おまわりさん」
「ん? なに?」
「死んだ人って、見たことある?」
真面目な顔で、大野の顔をジッと見て聞いてきた。
「ああ、死んだ人も、死んだ体も見たことあるよ」
大野は、霊感があるようで、よく死ぬ前の人間を視る。
……人は死ぬ前に、会いにくる。
幽霊の様だったり、影だけだったり。
死んだ後に、会いに来る者とは別物だ。
ただ説明も、証明も出来ない。
だから、人に話したことは無い。
「ボクも、死んだら……死体になる?」
「……どうして、そう思うの?」
「夢を見るから。ボク殺されるんだ」
少年の後ろの影が、揺らめいた。
「なんで殺されるか、わかるの?」
「ボク、夢では違う人なんだ。綺麗な人に殺されるの」
淡々と、テレビドラマで見たことの様に話す。
他の子供なら悪い夢は良い夢なんだよとでも、言ってあげるところだったが。
後ろの影を見ている前では、とても言えなかった。
「おまわりさん、ボク死んじゃっても、また遊んでくれる?」
「っ……死なないよ! 大丈夫。でも、もしもだよ? もしも殺されると思ったらすぐに、俺んトコに来るんだよ? 必ず助けるから」
「うん。……悪い人が殺されるの?」
「そんなことないよ。殺す人が悪い人なんだから」
「ボクが悪いから、殺されるのかと思って。……良かった」
少しホッとした顔になって、明るい顔で少年は帰って行った。
笑顔で手を振ってやりながら、大野は自分の力のありようと使い方に迷っていた。
この日から少し後、少年は行方不明になる。
……この時は分からなかった。
影の正体は、その後もわからないままだ。
******
大野は町を歩く時も、電車ですれ違う人を見る時にも、薄い影や止まった光の視えることがある。
それは、感情の残像だったり魂が残した何かのカケラだったりに思える。
たくさんの人が通り過ぎていく。
その中には、明日は、いない人たちもいる。
なんとも言えないこの感情を持て余すしかない。
続く