*嵐妄想小説

*吸血鬼幻想

*KAT-TUN妄想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

 

 

(1)

 

 

薔薇の花びらが、たくさん舞う中で。

 

吸血鬼に会った事がある。

 

アイツに攫われる少し前だった。

 

 

 

***

 

 

 

ドサッと音がして、子供が振り返った。

 

本当の名前は別だが、後の亀梨和也と名前を貰う子供だった。

 

ただ、下の名前は同じカズヤだ。

 

子供は、音のする方へ走って行く。

 

庭園の薔薇の花がたくさん散って、花びらが舞っていた。

 

「だあれ?」

 

子供の声に、大きな影が振り向いて、息が止まりそうになった。

 

手足の筋肉も大きく膨れ上がっていて、獰猛な眼の光は鋭く、大きな爪も牙もあった。

 

「きゃ……」

 

小さく悲鳴をあげると、子供は腰が抜けたように座り込んだ。

 

「ああ……子供か」

 

その怪物のような大きな身体の者は、つぶやくと。

 

大きく膨れていた体は小さくなり、スルスルと姿を変えていった。

 

「やだ……」

 

子供が後ずさって逃げようとするが、その小さな手を握って離してくれなかった。

 

怪物は、細身で小柄な美しい男性の姿に変わっている。

 

声も優しく綺麗で、子供は驚いて声も出ないままだ。

 

男の足元には、人だったものが散らばっている。

 

この男の怒りをかったせいだった。

 

ゴミのようにそれらを足で避けると、話し出す。

 

 

「ふふ……怖がるなよ。この家の子供か?」

 

男の名前は、今は……ナルセという、のちに大野智と名乗る男だった。

 

 

 

***

 

 

攫うようにナルセは、子供のカズヤ(亀梨和也)……カズヤを抱き上げると、すごい速さで家から離れた丘まで移動した。

 

その速さと落とされそうな恐怖で、ぎゅっと抱きつくカズヤが、可愛かった。

 

「おまえ……可愛いなあ」

 

丘にカズヤを下ろして、ナルセも隣に座った。

 

薔薇の季節は、美しい。

 

空も、鳥の声も、誰もいない丘で。

 

ただ青く、ただ綺麗に聴こえていた。

 

 

 

「まだ、怖い?」

 

不思議そうにナルセを見上げるから、優しく声をかける。

 

「こわい人なの?」

 

子供らしい口調で訊ねると、ナルセは笑い出した。

 

「違うよ、こわい人ってどんなの?」

 

「僕を……痛くする人……」

 

ちょっと怯えてるような顔をする。

 

「……誰がおまえを、痛くするんだ?」

 

「……お父さん……」

 

 

 

ちょっと眉を顰めて、男は子供の腕を調べた。

 

新しい傷も、古い傷跡も多数あった。

 

「……いい子じゃ無いから、僕が悪い子だから」

 

そう言って悲しそうに幼い子が、うつむいた。

 

せいぜい、5、6歳に見える子だった。

 

「痛く」される理由など、無いはずだった。

 

ナルセは、優しく笑って両手で、幼い手をキュッと握ってやる。

 

 

 

「おまえは、悪いことして無いだろ?」

 

「でも……言うこと聞けないの」

 

「どんなこと?」

 

 

 

子供は、知ってる言葉で拙く話す。

 

聞けば聞くほど、ナルセは気分が悪くなった。

 

「おまえは、気に入ったから助けてあげる。俺とおいで?」

 

「どこ行くの?」

 

「おまえの行きたいところ」

 

 

 

気まぐれに殺す代わりに、気まぐれに救いもする。

 

吸血鬼と神は、似ているのかもしれない。