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(7)〜(12)last 同時にUP
第12章(11)「楽園に咲く薔薇」
大野の血で、ニノの体は助かった。
だが、浅間は灰になってしまった。
浅間の灰に縋って泣くニノに、心を痛める翔は、どうしていいか分からない。
泣く背中を、ただ優しく抱くしかできない。
「ニノ……」
潤が、そっと翔とニノのそばに立ち、苦しそうに見つめる。
「翔さん、カズは……助かったって思っていいの?」
「わかんない……でも、灰には、ならずに良かったよ」
本当にこれで良いのか、少年たちには分からなかった。
******
浅間を殺した男は、逃げ切って見つからなかった。
ユウイチがニノの身体を診てみたが、何が違うかは分からなかった。
ニノへ男が打った注射の効果も、分からなかった。
病気等しない吸血鬼には、浅間の様な医者は少ない。
いるとしたら、パリの医者のフリをした吸血鬼達だろう。
その後、潤がニノを引き取った。
大野が、許したからだ。
「ニノが望んでいたように、家に帰してやりたい」と。
翔たちは、大野の優しさだと思っている。
大野の考えは、まだ少年たちには、想像できない。
吸血鬼の考えなど、わかるはずも無かった。
やっと家に帰れたものの、ほぼ寝たきりのニノは、助かったとは思えない程に弱っている。
潤は、ニノが心配でずっと付いているらしく、学校にも戻っていない。
翔が見舞いに行くが、大抵、深い眠りに入ってるニノとは話せなかった。
潤は、思ったより落ち着いていて、何年かぶりに帰った従兄弟と静かに暮らしているようだった。
*********
大野は、たまにニノの様子を見に行くが、翔には何も言わない。
翔の前では、いつも通り明るくて、怠け者の管理人だった。
不安な翔は、雅紀に相談したかったけれど、彼はずっと学校を休んでいる。
翔が送るメッセージにも、スマホにも、連絡は無い。
教師に聞いても、家の用事だとかで、詳しくは教えて貰えなかった。
やっと、今日になって「来週帰ります」とメッセージが来ただけだ。
学生寮の部屋で、楽しそうにゲームをしてる大野のそばで、翔は落ち着かなかった。
楽しそうな姿、それは異様で、翔は堪らずに聞いてみた。
「大野さん、どうしたの? ずっと変だよ?」
「翔ちゃん、怖い顔してるよ? どうかした?」
大野は、ずっと上機嫌だ。前と同じように優しいけど、違う何かを感じて仕方ない。
「どうかしたのは……大野さんだよ。なんかずっと嬉しそうに見える」
「嬉しいもん。浅間が死んで、ニノも生き残って。なんで?」
「大野さん……。ニノを、ホントは可哀想に思ってるんでしょ? 目が覚めたらいつも泣いてるみたいだよ? 浅間さんを助ける約束だったんでしょ?」
「でも、死んだよ? 仕方ないじゃん。浅間が死んで、翔ちゃんも嬉しいだろ?」
「なんで? あんなに、ニノが辛そうなのに?」
「翔ちゃん、吸血鬼のことも、自分のこと分かってないからなあ……」
ゲームのコントローラーをその辺に捨てるように置くと、翔の腕をつかんで、ベッドに押し倒した。
「痛いよ! もうっ! 大野さん!」
大野は声を出して、笑ってるが腕を離してくれないから、起き上がれない。
自分に覆い被さってる大野は、楽しそうでよく分からなかった。
「ははは。翔ちゃんの気持ちは変わった?」
「変わったって?」
「俺のこと好き?」
「え。そりゃ……うん」
「もっと考えてごらん? もっと好きな子のこと」
「大野さん……どう言う意味?」
大野は、翔から手を離すと、ベッドに座り直した。
翔も、隣に座り直す。
笑顔で大野が、翔の顔を見つめながら話す。
「翔ちゃんはさ、最初からずっと変わらないんだよ。ずっと同じ子を見てる」
「大野さん、さっきから……」
「翔ちゃんが好きなのは、ニノだよ?」
「……へ? 何を言ってるの?」
クスクス笑って、大野はため息を吐いた。
「思い出してよ、初めて吸血鬼に会った日のこと。ニノを助ける為に、俺の家族になるって言ったんだよ?」
「あれは……思わず。大野さんがニノを殺そうとするから……」
「毎回、そうだね。俺って変わんない。今度もそうだった」
「殺そうとしたの?」
「うん。でも助けた。翔ちゃんの顔が浮かんだからね。翔ちゃんは泣かしたくない」
子供が自慢するような顔で大野は、笑った。
「なんで、殺そうとなんか……」
「俺から逃げるからさ。俺のモンなのに……そんなの許せないから。俺から離れて死ぬなんて、勝手はさせないよ」
「大野さん……」
吸血鬼らしい言葉に、翔は言葉が出て来なかった。
「翔ちゃん、考えてみて? いつもいつも……翔ちゃんは、必死でニノを助けて来た。今度もそうだろ?」
「大野さん、それは違うって。ちょっとニノにドキドキしたことあったけど、それは大野さん言ってたでしょ?吸血鬼を好きになるのは……」
「ニノは、翔ちゃんに何もしてないよ? 誘ってもないし、血も吸ってない。吸血鬼だから好きになったんじゃないよ。初めて会った時から翔ちゃんは、ニノだけを見てる」
「そんな……」
まっすぐな大野の視線を感じて、翔は混乱してしまった。