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(7)〜(12)last 同時にUP

 

 

第12章(7)「楽園に咲く薔薇」

 

亀梨は翔が帰った後、部屋にある死んだ吸血鬼が使っていたものを、あちこちから引っ張り出していた。

 

「確か……あったのにな」

 

捨てれば良いのにと思いながら、捨てられなかったあの男の使っていた物たち。

 

遊びで、人を殺すのに使ったと言ってた『おもちゃ』たち。

 

「あった」

 

何で出来てるかは、分からなかったが、綺麗な装飾のナイフの柄は見覚えがあった。

あの男は亀梨を襲ってきた人間を、目の前で切り裂いていた。

 

この柄に、描かれているのは、宗教画の天使だと笑っていた。

 

『天使に殺させるなんて、人間は分からないよ、ナイフを使うのは人間なのに』

 

男がそう、言ってトドメを刺していた。

 

呆然としている亀梨にナイフを持たせて、もう死んだ人間の体を使って殺し方を教えてみせた。

男の声が聞こえてくる。

 

『おまえを盗もうとする奴には、こうすると良い』

 

「アンタが最初に、盗んどいて……よく言うよな」

 

柄の天使は、死んだ吸血鬼に似て、美しかった。

男の大きな手も、よく響く声も、まだ蘇る。

色気があって、美しかった男の顔が浮かんだが、以前より辛く思わなくなっている事に、気が付く。

 

少しずつ過去になっているのだと、思った。

 

誰より吸血鬼に近い少年は、人の命の重さをまだ、わかっていない。

人と暮らしたことが無かったから、その姿・呼吸・気配は、吸血鬼そのものだ。

 

――その辺の掃除屋たちよりも強い暗殺者が、生まれようとしていた。

 

美しくて残酷な……死神のような。

 

 

 

*********

 

 

 

「浅間は?」

 

潤が、ユウイチに聞いた。

 

呼び出された別の隠れ家は、繁華街の真ん中のマンションで、潤は初めて来た。

 

「居場所を探していたけど、見つかった。今確認中だ。もうすぐ連絡が来る。……浅間を殺せばお前の従兄弟は、灰になる。本当に良いのか?」

 

「ああ。ただ最後を、看取ってやりたい。どうしたらいい?」

 

「攫ってくるしかないかな。浅間と一緒にいるか、どうか分からないけどな」

 

「……大野さんは?」

 

「どうかな、邪魔してくるかもな。だから、あの子に頼むよ。あの子を使おう」

 

「あの子?」

 

 

 

玄関で大きな音がして、タツヤと翔が入ってきた。

 

「翔さん?」

 

「潤……?」

 

お互い痩せてしまったが、二人とも目が異様に光っていた。

 

 

「翔さん、手伝ってくれるの?」

 

「え?」

 

翔が、タツヤを見ると、苦笑される。

 

「相談だよ、大野さんを止めないと勝てないからな。大野さんと取引だ」

 

「それって人質? ……俺じゃ無理かも」

 

ユウイチが、不思議そうに聞く。

 

「どうしてそう思うの?」

 

「俺……大野さんの家族でも、恋人でも、何でもないのに……」

 

タツヤとユウイチが、顔を見合わせると、明るく笑い出す。

 

 

 

「逆じゃん! 鈍いんだなあ、おまえって」

 

タツヤがゲラゲラ笑いながら言うから、翔がムッとする。

 

ユウイチが、翔の肩に手を置いて言った。

 

「吸血鬼が何の関係もない子を、今まで守って来たなんて凄いことだよ? 大切にして貰ってるじゃないか」

 

「あの人が、そんなに優しいなんて、気持ち悪い! 信じらんないよ」

 

タツヤも呆れたように言う。

 

翔は、キョロキョロして、実感が無いようだ。

 

潤が翔を見て、うなずく。

 

 

 

「翔さんだけが、わかってないみたい。カズが……やっぱりかわいそうだよ」

 

悲しそうに微笑んだ。

 

 

 

なぜ、可哀想なのか、翔は分からない。

 

それが、なおさら、潤は悲しかった。