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*お話の全てはフィクションです。
第12章
「楽園に咲く薔薇」(1)
……大野が黙って消えてから、半月経った。
ニノを連れた浅間も、行方は分からないまま。
『必ず、浅間を殺す』
そう宣言した潤は、あれから学校にも来ていない。
家にも帰っていないようで、連絡もつかなくなった。
少し前まで、みんなで揃って笑い合っていたのが、幻のようだった。
翔は、元気の無いまま、ただ淡々と、学生寮と教室を往復するだけの日々。
随分と、痩せてしまって口数が減ってしまった。
大きな可愛らしい瞳も、伏せがちで、ため息が絶えなかった。
翔が心配で、雅紀はこっそり大野の代わりに、翔の部屋に泊まって行くようになった。
亀梨も翔の部屋に、最近は遊びに来てくれる。
彼も、潤やユウイチたちとは、連絡が取れなくなったみたいだった。
「翔ちゃん今日はさ、一緒に映画観ない? アクションものでさ、凄い面白いから!」
「うん、そうしようか……ありがと」
雅紀の優しさが身に沁みる。
一人でいると、頭が変になりそうだった。
「あ、じゃあさ、亀梨君ち行こうよ? 映画のDVD持って。あの子も一人だし」
「そうだね」
毎日、大野と過ごした学生寮の夜が懐かしい。
いつも、大野はワガママで、子供のようで、誰より優しかった。
落ち込んだ日は、親が子供を慰めるように、添い寝してくれた。
……思い出すと。
泣きそうで……考えないように努めている。
*********
「うん……わかった。待ってるね」
雅紀からの電話で、翔と遊びに来ると連絡があった。
亀梨は、ユウイチたちと連絡が取れないことは、今までも多かったから気にならなかった。
だが、翔の元気が無いのを見ると心が痛む。
大野が、出て行くのを黙って見送ったのは、亀梨一人だったから。
(もっと、止めるとか、翔さん起こすとか、すれば良かった)
彼は、吸血鬼だけに育てられたせいで、人のことには疎かった。
誰よりも、心は吸血鬼に近い少年は、いつになったら人の事がわかるかと、ため息が出る。
潤を連れて浅間を狙いに行く前、ユウイチとタツヤに注意された。
「和也、一人の時は気をつけろ? 浅間を襲った男が来るかもしれないから」
「来たら……どうなんの?」
「お前は、一番吸血鬼が欲しがるタイプだからな。捕まったらすぐに人形にされるぞ」
「……殺されないの?」
「殺さない。永遠に縛り付けられる地獄が待ってる。もう、昔の様な、あんな生活は辛いだろ?」
「わかった。でももし、捕まったらユウイチかタツヤが、絶対に俺を殺してね」
「……絶対に捕まるなよ? 万が一どうなっても諦めるな。俺たちが必ず助けに行くから」
「ごめん」
(浅間を襲った男は、誰なんだろう……。タツヤが見たって言ったな)
亀梨は、気配や呼吸も、目付きの鋭さと気の強さも、育てた者のせいか吸血鬼にしか見えない。
本人は知らないところで、何度も狙われて、その度にユウイチとタツヤが片付けていた。
**********
どこかの大きな屋敷。
ニノが、血の眠りから目覚めると、浅間がそばで座っていた。
浅間は、半月前に負った怪我は、もう見当たらなかったが、今までのようなギラギラした目つきは消えていた。
「ニノ……」
「浅間さん……?」
優しく浅間は微笑んで、ニノはその顔をぼんやり見つめている。
まだ、記憶が混乱していて、今がいつなのかも、わからなかった。
ニノがゆっくり起き上がると、抱きしめられて、体が冷たくなって震えが止まらない。
「……私が怖いのか?」
浅間は、ニノの顎を手で掴んで顔を上げさせると静かに聞いた。
「…………」
初めて浅間に攫われた日を、思い出していたから怖くて声も出ない。
「僕……どうなったの」
「ああ、まだ混乱してるんだな。お前は私のものになって、もう何年も経つ。一緒に世界中歩いたし、いろんな事があったよ。忘れたのか?」
……忘れたのでは無かった。
覚醒して飛んだ記憶を思い出してしまったから、混乱してしまった。
「僕……人を殺したよね……?」
「ああ。素晴らしかったよ、お前の腕前はね」
「僕は……これからも殺すの?」
潤には人は殺すなと、何度も言い聞かされた。
彼がくれたウォークマンにも、そう話す彼の声が入っていた。
「私か、お前自身が、望めばね」
そう言って笑う浅間の腕の中は、絶望しか感じられない。
(きっとまだ、他の恐ろしいことを思い出すかもしれない……。潤君、僕、どうしたらいいの?)
潤がニノに言った、「待っていて」と言う声の聴こえた気がした。
続く。