*嵐妄想小説

*BL小説

*お山妄想・大宮妄想・末ズ妄想

*ロバ丸妄想(KAT-TUN)

*吸血鬼幻想

*お話の全てはフィクションです。

*文字数 8000前後

 

第11章「可愛い花には毒がある、

綺麗な薔薇には棘がある」

後編

 

 

 

 浅間が消えて、最初に口を開いたのは大野だった。

 

「……浅間だったな」

 

「大野さん……どうしたらいい?」

 

 

 

大野は、床に座り胡座をかいた。

 

「ニノに、自分から来させたいんだろう。目が覚めたら一緒に行くよ」

 

「目が覚めるのって……」

 

「数日かかるよ」

 

「潤は、それまで大丈夫?」

 

翔が不安そうだが、大野は慌てた風でもなかった。

 

「んー、わかんない」

 

亀梨はそっとニノのそばに座り寝顔を見ている。

 

「吸血鬼の家族になったら、こんな風になるんだね……」

 

本当は自分も、こうなったんだろうかと、考えた。

 

綺麗な死体のように眠る姿。

 

 

 

雅紀は、立ったまま呆然と亀梨の隣でニノを見ていたが、翔と大野の前にやって来た。

 

「吸血鬼って、何?! ……大野さんも吸血鬼なの?」

 

「雅紀君……」

 

翔が返事に詰まったが、大野は微笑むと優しい声で答えた。

 

「うん、そうだよ。君も、もう思い出したんじゃない?」

 

「……」

 

雅紀の瞳が、忙しく動いた後で目を瞑る。

 

大野がそっと雅紀のそばに立つと、その手を握って見つめる。

 

……霧が晴れていくように、記憶が戻ってきた。

 

「俺……吸血鬼に会ったよね? ……そうだ、ニノちゃんだったんだ、あの時の男の子」

 

去年の春、吸血鬼である浅間に、最初に会ったのは雅紀だった。

 

その後で、逃げてきたニノを保護したのも。

 

 

 

「……あの時も、逃げてきたってこと? で、また逃げてきたの?」

 

雅紀は目を開けると大野に尋ねた。

 

「去年はそうだったけど、今回は違うかもな」

 

「浅間さんて、ニノちゃんのこと虐めてんの?」

 

真剣に聞いてくるが、その返事は難しい。

 

「ニノの目が覚めたら、聞いてごらん?」

 

小さな子供に言うようだった。

 

雅紀は、黙って帰ろうとしたが翔に腕を掴んで引き止められた。

 

「雅紀君? なに考えてるの?」

 

「まだ、分からないよ。頭の中がぐちゃぐちゃで……」

 

「雅紀君……」

 

「翔ちゃん……俺だけ知らなかったんだね」

 

「ごめん! 本当にごめんね? 言いたかったんだよ? でも……」

 

「謝んないでいいよ、翔ちゃん。……でも今は帰るよ、ニノちゃん見てあげてね」

 

 

 

力無く笑った雅紀は、静かに出て行ってしまった。

 

 

 

 

「翔ちゃん、大丈夫か?」

 

「うん。俺……でもっと早く話してあげなかったんだろう」

 

先延ばしにしてしまった告白が、親友を傷つけた。

 

雅紀は、どうするだろうか。

 

亀梨がニノのそばに座ったままで、その様子を黙って見ている。

 

……大野は、ぼんやり何も無い空(くう)を見つめていた。

 

 

 

******

 

 

 

亀梨の部屋に、翔と大野は泊めてもらうことにして、眠ったままのニノを見守ることにした。

 

雅紀と潤が心配だったが、今は何もできなかった。

 

亀梨は、本当に気配も、姿も吸血鬼のようだった。

 

人間の少年のはずなのに、吸血鬼とだけ暮らしてきたせいだろう。

 

 

 

「本当に、人間じゃないみたいな子だなあ」

 

と、大野が呑気に笑っていた。

その横で、翔は元気がない。

大野は、翔が考え込むと、笑って元気を出させようと、色々話しかけてくれる。

 

亀梨は、そんな二人を微笑んで見ていた。

羨ましくは、なかったが、こんな人間と吸血鬼もいるんだと感心していた。

 

また、そんな風に吸血鬼のそばに居たくない気持ちもあった。

 

 

 

******

 

 

ニノが眠って3日経つ頃、雅紀がやってきた。

 

「ニノちゃん、どう?」

 

「雅紀君!」

 

駆け寄った翔に、雅紀はニコニコ笑って、何もなかったようだった。

 

「ごめん! 本当にごめん! 雅紀君!」

 

「謝んないでってば。その代わり、今までの事、ちゃんと教えて?」

 

二人が並んで座って話しているのを、大野は嬉しそうに見ていた。

 

翔は大野が吸血鬼で、浅間も吸血鬼なこと。

浅間に攫われたニノが、吸血鬼の家族で吸血鬼なこと。

元は、大野が大切に育てた子供だったこと。

 

記憶が無くなってしまったニノを、潤は受け入れて守っていること。

 

――そして。

 

「あのさ、俺、いつか大野さんの……家族に……なってあげる約束……したんだ」

 

「それって、結婚てこと? あの言ってたじゃん? 浅間さんとニノちゃんみたいな?」

 

「えっ! そ、そうなるかな……」

 

 

 

その時、亀梨が声をあげた。

 

「ねえ! ニノ、目が覚めたみたい!」

 

飛び上がって、雅紀と翔がニノのベッドまで走った。

 

「ニノちゃん!」

 

「大丈夫? 分かる?」

 

大野は、ゆっくり歩いて、そばまで来た。

 

「……ニノ」

 

ニノは、目が開いただけで、意識はまだ有って無いようだった。

 

大野は、ニノの白い手を両手で握ってやる。

 

「まだ、寝ていていいんだぞ? 動けないだろ?」

 

ニノは、大野の顔をじっと見ている。

 

「…………」

 

声にならない声で、何か言うが分からない。

 

大野は、優しく声を掛ける。

 

「ニノ……? どした? なにか、言いたいのか?」

 

ニノは涙を浮かべると、すっと手から力が抜けて、また眠ってしまった。

大野は、複雑な顔で目を伏せると、ニノに布団をかけ直してそばを離れた。

 

「大丈夫? まだ目が覚めないの?」

 

後ろについて来た翔が心配そうだった。

 

「翔ちゃん、ニノは記憶が混乱してるんだろ?」

 

「うん、一度に色々思い出したみたいで、怖がってた」

 

「浅間に会わせたら、殺されるかもしれない。いや、今度こそ人形にされるかもしれない」

 

「どうして、浅間さんが殺すの? あんなに大切にしてたのに」

 

「記憶が混乱したまま、浅間が許せないことを口にしたり……浅間を殺そうとするかも知れない。まだ殺された時の記憶で、さっき言ったよ。」

 

「なんて……?」

 

「殺して欲しいって。……俺が悪かったよ、俺の血なんか飲ませたせいだ。死なせてやれば良かった」

 

悲しそうに、大野が無表情に言う。

 

「そんなことないよ? 命が助けられるなんてスゴイじゃん! 死んでたら、ニノは潤にも再会してなかったよ? みんなにも会えなかった! 大野さんは間違ってなかったよ!」

 

翔がすごい剣幕でいう顔を、大野が驚いて見つめて――爆笑した。

 

「翔ちゃん、面白い顔だなあ」

 

「ひどいよ! 心配して言ってんのに!」

 

大野の肩を叩いて、顔を真っ赤にして怒る。

 

「あはは……ごめんごめん!」

 

大野を叩く翔の両手を捕まえて、宥めるように胸に抱き締める。

 

「翔ちゃんは、良い子だなあ」

 

大野は、翔を自分の人生に巻き込んだことを、後悔し始めた。

本当なら、吸血鬼も、恐ろしい出来事も、何も知らないまま生きていけたのに。

 

「……大野さん、俺は後悔しないからね。もし、ニノみたいになっても、例えさ……死んじゃっても。俺が選んだんだから! 俺が自分で大野さんの家族になるって」

 

心の声が聞こえたように翔が言った。

 

「翔ちゃんが死んだら、後悔するからやめてね? それに殺した相手を必ず殺すよ?」

 

大野がニッコリ笑ったその時、雅紀が驚いてあげた声で振り返ると、亀梨がニノを止めてるところだった。

 

 

 

「ニノ! だめだよ! 今、動いたら君が危ないからっ!」

 

ニノがベッドから走り出してどこかへ行こうとしている。雅紀が大野に駆け寄って叫んだ。

 

「大野さん! 翔ちゃん! ニノちゃんを止めて!」

 

ニノが突然、フッと動きを止めて、それを見た亀梨の力が抜けた瞬間だった。

 

 

 

「やめろニノ!」

 

大野が叫ぶより、ニノの動く方が早かった。

瞳を光らせてニノが、亀梨の首筋に思い切り噛み付いた。

 

亀梨は床に倒れ込んで、段々と動けなくなる。

抵抗していた腕がスルッと落ちて気を失った。

 

ニノが噛み付いたままの首筋から大量に出血している。

 

「ニノちゃん! やめて!」

 

雅紀がニノの腕をつかむが、全く離そうとしない。

どんどん、床に血が落ちていく。

亀梨の顔が真っ白に変わっていく。

白い顔に真っ赤な血が、綺麗に映えて恐ろしい光景だった。

 

「ニノ! だめだ!」

 

大野の体が膨れて大きくなり、異様に目が光る。

太くなった腕がニノの体を掴んで、亀梨から引き離した。

暴れるニノが今度は、大野に噛み付く。

 

「大野さん!」

 

大野は、少し顔を歪ませただけで抵抗しなかった。

しばらく好きにさせていると、花びらのような血を口からこぼしながら、気を失った。

 

「浅間だ……。ニノを呼んだんだろう」

 

人形は、その体にある主人の血の命令で動いてしまう。

眠った体は、意識が無い分、命令が届きやすい。

大野も、昔、ニノを呼んだことがあった。

 

 

 

「あまり待たせると、攫われたあの子を殺すかも知れない」

 

「大野さん……」

 

大野はニノを床に寝かせると、亀梨を抱き上げて傷を見る。

 

「翔ちゃん、家中に鍵をかけて。この子の血の匂いで、吸血鬼が来てしまうから」

 

「分かった……でも亀梨君は?」

 

「大丈夫、傷なら酷くない。ニノは、噛みつくだけで血を吸ってない」

 

雅紀は、震えながら亀梨の首にタオルを当てて血を拭いている。

亀梨のまつ毛が震えて、薄く目を開けた。

涙を流しながら、亀梨の傷を手当する雅紀に、問いかける。

 

「ニノは……?」

 

「大丈夫、止まったよ。痛いだろ? ごめんね」

 

「なんで雅紀さんが謝ってんの? もう……泣かないで……」

 

真っ白な顔で亀梨が、微笑んだ。

 

「俺は……痛いとか、慣れていて……平気だから。雅紀さん……泣く方が辛いよ……」

 

雅紀がそれを聞いて、さらに声を出して泣き出した。

 

「バカ! 平気だなんて言うな! こんなに血が出たら! 痛いに決まってんだろう!」

 

「ごめん……」

 

二人を見て翔も、もらい泣きしてしまった。

 

誰も悪くないのに辛い目に遭ってしまう。

 

吸血鬼がいるだけで、色々起こってしまう。

 

 

 

 

大野はニノを連れて、翔やこの子達から離れるべきか、思わず考えてしまう。

 

翔がいつの間にか、大野の腕を掴んでいた。

 

「大野さん……どこにも行かないで。俺に黙って居なくならないって、約束して」

 

「翔ちゃん、……うん、分かってるよ」

 

大野はそう言いながら、約束はしなかった。

 

いつだって彼は、約束はしてくれないと、翔は思った。

 

 

 

**********

 

 

 

音も無く夜を走る影が、ビルのそばで止まった。

 

金髪を揺らせて、一人が後ろの黒髪の人物に声を掛ける。

 

「ユウイチ、この匂い……和也の血だ」

 

「ああ、何かあったな」

 

美しい姿をした、和也の保護者の吸血鬼で、掃除屋と言われる暗殺者組織の二人だった。

 

「大野さんの気配もある……浅間か?」

 

「和也のところへ早く行こう?」

 

「いや、大野さんがいるなら大丈夫だから。先に浅間を調べよう」

 

そう言った黒髪のユウイチに、納得しない顔を見せる金髪が上田タツヤだった。

 

「……ユウイチ、もし和也が死んでたら、許さないからな?」

 

ユウイチは微笑んで、その時は俺を殺していいよと、笑った。

 

 

 

**********

 

 

 

潤が、ハッキリ目を覚ましたのは、攫われて3日後だった。

浅間の家のベッドに寝かされていた。

 

家の中は使用人らしい男たちが動いていたが、浅間の姿は無い。

誰も潤の問いかける声に返事をしないので、ここが誰の家なのか分からなかった。

 

3日寝ていた為に、体に力が入らない。

 

「どこなんだよ……」

 

ベッドから降りて、スマホの入っていたカバンを探すが見つからない。

 

すると、薔薇の生けられた花瓶のそばに光るものが有った。

ニノがつけていた、茜に貰った十字架のネックレスだった。

 

「カズの……? ここ、浅間の家なのか?」

 

気を失う前の記憶は、浅間がいた。

 

「カズは……?」

 

ネックレスを握ったままで、慌てて家の中を探すが、いるのは幽霊のように働く人ばかりで、彼らは潤には興味が無かった。

 

ただ、玄関に行こうとすると、すごい力で引き戻される。

 

「痛いよ! わかった! 出て行かないから離せ!」

 

黙って、潤から男は手を離すと離れていく。

はあっと息を吐くと、ネックレスを自分の首にかけた。

 

「カズ……よくここから逃げ出してくるよ」

 

純粋に感心していると、隣の部屋から大きな物音が聞こえて、爆発音が響いた。

 

 

 

 

「なんだ……?」

 

家中の浅間の部下らしい男たちが音のした方へ走っていく。

遠く、近く、破壊音が家中で、響き出した。

すぐ後ろの窓が割れて、大きな声が飛んでくる。

 

 

 

「こっちへ来い!」

 

窓には、金髪の美しい顔をしたタツヤが立っていた。

窓から飛び降りると、潤に走り寄る。

 

「おまえ! 早く逃げないと死ぬぞ! 和也の友達だろ!」

 

「あんたは……」

 

「いいから、こっち来い!」

 

細い体から出るとは思えない力で、潤を肩に抱えると窓から飛び出した。

飛び降りた地面に降ろされて、上を見上げると、窓から知らない男が覗いていた。

 

「あいつは……」

 

タツヤが驚いた顔で、その男と見つめ合う。

 

「おい! 浅間を狙ったの! もう殺したのか?!」

 

タツヤが怒鳴ると、その男はヒラヒラと手を振って笑うと、窓から消えて見えなくなった。

 

「え? 浅間が殺されたの?」

 

「いや、まだそんな気配はない。この先の事はわからないけどな」

 

「待って! 浅間が死んだら、カズも死んでしまう! 止めてよ!」

 

潤がタツヤの肩を掴んで、叫ぶがタツヤには響かない。

 

「なに? お前、浅間の子も知ってんの?」

 

タツヤが不審気に潤を見ると、ユウイチが走って来た。

 

「タツヤ! もう行くぞ!」

 

「ああ! おい、おまえも行くぞ!」

 

待ってと言った声は、聞いてくれずに、潤はまた抱えられて、浅間の家から離れた。

 

それを、またあちこち炎が上がる中から、静かに先ほど姿を現した男が見つめていた。

 

その口元は、笑っているが氷のように冷たい表情だった。

 

長身で、美しい小さな顔を持つ、栗色の髪の男は作り物のようだ。

 

 

「あれが、掃除屋か……」

 

男は楽しそうに呟いて、白いコートを翻すと、浅間の家を後にした。

 

轟音がして浅間の家は、炎に包まれて燃え上がる。

 

火柱が高く上がり、家の中の人形たちの断末魔の声が、爆発音と一緒にいつまでも聞こえていた。

 

 

 

 

**********

 

 

 

泣き疲れた雅紀と、翔がソファで眠っている。

 

亀梨をベッドに寝かせて、そばのソファで、大野は自分の膝にニノを寝かせていた。

 

……静かにドアが開いて、浅間が入ってきた。

 

「……待ちきれなくて、迎えに来たよ」

 

「浅間……どうした? 怪我してるじゃないか?」

 

「ああ、いきなり襲われた」

 

浅間の体のあちこちに血が滲んでいた。

 

「ニノを連れて行く。返してくれ」

 

「ニノは、動けないぞ? その怪我じゃ、二人とも危ない」

 

「……構わないよ。この子も連れて行く」

 

「……お前が拐った子供はどうした?」

 

「あの子は、掃除屋が持っていったらしい。そのうちここに戻るだろう。さあ、渡してくれ。」

 

「……だめだ、危ない。ここにいろよ」

 

浅間は、笑ってニノに声をかけた。

 

「ニノ、おいで」

 

大野の膝にいたニノが、眠ったまま、ゆっくり起き上がる。

 

「無理に起こしたら、危ないだろう? それにニノは今、記憶が混乱してて何をするかわかんないぞ?」

 

「どのみち、危ないからな。死んだって構わない。誰かに盗まれるのは許せないからな。貴方もそうだっただろう?」

 

大野は、嫌そうに顔を歪めた。

 

「俺は、変わったんだよ。可哀想なことは、もうしたくない」

 

浅間が、視線を落とすと低く笑った。

 

「変わってないさ。変わりたいだけで貴方は一ミリも変わってない。ニノや、その子供たちを残酷に翻弄して……遊んでるだけさ」

 

ニノが歩き出して、浅間がその体を抱き上げると振り返った。

 

「これ以上この子を構うなら、私の手でこの子を殺す。もう追いかけないでくれ。あの子供にもそう言ってくれ」

 

大野は、何も言えなかった。……浅間のいう通りだったから。

 

ーわかっているのに。

 

吸血鬼が人間に深く関わってしまったら、皆不幸にしてしまうと。

 

そのまま浅間は、静かに部屋を出て行った。

 

大野は、しばらく座ったまま考え込んでいた。

そして、何かを決心したように立ち上がると、そっと翔の顔を覗き込んだ。

 

「ごめんな……」

 

翔の頭を撫でると、大野は部屋を黙って出て行った。

そっと、その様子を、目の覚めた亀梨がベッドから見つめている。

 

「大野さん……」

 

翔が寝言で、消えた彼を呼んだのを見て、亀梨は心が、ツキんと痛んだ。

 

 

 

*********

 

 

 

「和也!」

 

大声がして、タツヤとユウイチが潤を連れて入ってきた。

 

眠っていた翔と雅紀は、その大声に驚いて飛び起きた。

 

「な……な、なに?」

 

「え……潤!」

 

また眠ってしまっていた亀梨は、ボンヤリしたまま起き上がった。

 

「……タツヤ……?」

 

「和也! なんだよ! この首! 噛まれてんじゃん!」

 

ベッドの和也に跨って、タツヤがさらに声を上げた。

 

「誰にやられたんだよ!」

 

「……大丈夫だよ。ちょっと怪我しただけだから」

 

「バカ! ちょっとってなんだよ!」

 

「タツヤ……怪我してんのに、跨って乗るなよ」

 

ユウイチが綺麗な手で、タツヤをベッドから引き摺り下ろした。

 

「潤! 心配してたんだよ? ニノも……」

 

ニノと大野の姿が無いことに、やっと雅紀と翔が気が付いた。

 

「どこ行ったんだろ? なんで……?」

 

「カズは、ここにいたの?」

 

潤が聞いてくるが、翔は一気に不安が押し寄せて、返事もせずに部屋を飛び出した。

 

 

 

「大野さん! ニノ!」

 

探しても、どこにもいない。ビルの外にもいなかった。

 

「大野さん。……ひどいよ」

 

翔は呆然と、立ち尽くした。

 

 

 

*********

 

 

 

大野も、ニノも、浅間まで姿が消えて一週間たった。

 

亀梨が、浅間がニノを連れて行ったこと、大野が一人で出て行ったことを告げたが、探しようがなかった。

 

ユウイチやタツヤは、大野の行方を探す気はないようだった。

心配で落ち着かない翔にユウイチがいう。

 

「大野さんも何か、考えがあるんだよ。ゆっくり待ってるといい。自由に幸せにって言ってたんだろう?」

 

「でも、それは、大野さんがそばにいるからって……。そう言ってたのに」

 

いつか大野がいなくなるかもとは、思っていたけれど。

 

「一緒にいるって、家族になるって……言ったのに」

 

翔の寂しそうな顔に、亀梨も、雅紀も心が痛む。

 

潤は、翔の気持ちが、わかりすぎて何も言えなかった。

 

「ごめんね……大野さんのこと止めなくて」

 

亀梨が謝ってくれるが、きっと止めても一緒だと思った。

 

「大野さん、どうせ、人の言う事なんか聞かないから。気にしないで?」

 

元気なく翔が笑う。

 

昔、ニノがいなくなった日を、潤は思い出した。

 

「浅間は……死んでないよね?」

 

潤が聞いて、ユウイチが答えた。

 

「死んだら、もうすごい噂になってるよ、特にうちの組織ならね。浅間は有名人だから。無事だと思うよ。」

 

「なら……カズも死んでないよね?」

 

「……うん。多分ね」

 

ユウイチは微笑んだが、タツヤは難しい顔で答えなかった。

 

雅紀が、皆の顔を見回して、ため息をついた。

 

(俺、何もわかんないし、何もできないなんて……。悔しい)

 

翔やニノが、可哀想で仕方ない。

それと別に、気になることがあった。

 

なぜか、潤が落ち着いているのが怖かった。

 

(潤……絶対変だよね)

 

潤は、ずっと静かだった。

 

きっといつもなら、ニノが心配で探し回ってるのに。

 

「潤……? なんか大丈夫?」

 

「雅紀さん。どう思う? カズは幸せだと思う?」

 

「どういう意味?」

 

「もうカズは生きてるのが、可哀想になってきたよ、俺」

 

翔が、潤を見つめる。

ユウイチとタツヤは、黙って聞いている。

亀梨は、潤の言いたい事が分かった。

 

 

「潤、ニノは浅間さんが好きだよ? 一緒にいたいから、怒ったり甘えたりしてただろ?」

 

「……攫われて、好きになる? 洗脳しただけだろ?」

 

亀梨が、ビクッと体を震わせた。

 

「対等じゃないんだから。暴力も振るってたし。大野さんと翔さんとは違うよ」

 

「潤は……何が言いたいの?」

 

「浅間を殺したい。カズを自由にしてやりたい」

 

「でも、そんなことしたら……」

 

「今も、死んでる……いや死ぬより辛いかも。もう終わりにしてあげたい」

 

「だ……だめだよ。ニノは死にたいって言ってないんだから!」

 

「翔さん、翔さんもニノみたいになるかもしれない。大野さんが離れたなら、忘れた方がいいと思う。」

 

雅紀と翔が息をのんで黙った。

 

 

「……本気なら、俺が手伝うよ。……どうする?」

 

ユウイチが、潤に向かって綺麗に笑った。

 

「ユウイチ! ダメだって! 浅間は危ないって!」

 

「やだよ! ニノちゃんを殺さないでよ!」

 

タツヤと雅紀が同時に反対した。

 

「タツヤ、浅間は今しか、殺せない。しかも別の男も狙ってた。うちの組織以外に殺されたら、困るんだよ」

 

「……どうだっていいじゃん! 誰かがいつか、殺す男なんだから! 俺たちがしなくてもいいだろ?」

 

翔は、どうしていいかわからない。

大野に相談したかった。

 

(大野さん、大野さんがいないと、ニノが死んじゃうのに。どこに行ったんだよ)

 

まだ、ニノへの不思議な気持ちが燻っている。

大野へとは違う、吸血鬼に惑わされた愛情だったが、それはもうどうでも良かった。

ただ、大野とニノに会いたかった。

 

大野がいない毎日は寂しくて、たまらない。

ニノが気になって、仕方ない。

 

「誰かが、殺すかもしれない。でも待っていたら、いつか……タツヤや和也も殺される。一度揉めた相手を、浅間は絶対に許さないからね」

 

潤が、頷いた。

 

「なんでもする。絶対に浅間を殺したい」

 

「潤!」

 

 

翔の声も、タツヤと雅紀の声も届かない。

 

亀梨だけが、静かにそれを眺めていた。

 

 

 

**********

 

 

 

綺麗な薔薇は、傷つけるが、殺さない。

 

ただ、可愛い鈴蘭が、命を奪うことがある。

 

その花で。

その茎で。

その葉で。

その隠した毒が、命を奪ってしまう。

 

フランスでは、5月1日に鈴蘭を贈る。

ただただ……愛する人の幸せを祈って。

 

 

<end>第12章へ。