*嵐妄想小説

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*吸血鬼・ダーク・ファンタジー

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*ロバ丸妄想(KAT-TUN)

*お話の全てはフィクションです

 

文字数7700くらい?(^^;)

長いから、お暇な時に読んでねー。

 

 

第9章

「薔薇の影。one last kiss」

(3)

 

 

黒い影が血まみれのニノの体を、抱き上げようとした時。

 

ドーンという音がして、窓から大野が飛び込んできた。

 

「ニノを離せ!」

 

サッと黒い影は、ニノを置いて飛ぶように去っていった。

 

「ニノ! バカ! 何で首なんか!」

 

首を必死で手で押さえて止血する。

どんどん溢れる血は止まらない。

 

ドアが開いて、10人ほどの浅間の部下らしい男たちが、駆け込んできた。

血まみれの惨状に驚いて、オロオロしている。

ニノの命では無く、浅間の怒りを恐れているのだろう。

 

「お前ら! 何を警備してたんだ! 役立たず!」

 

部下の一人が浅間に連絡する為走ったが、帰るまで保つとは思えなかった。

 

「……賭けるしかないか」

 

大野は、落ちていたナイフで自分の腕を切り裂くと、吹き出した血をニノの口に注ぐ。

 

「ニノ……飲むんだ……飲んでくれ!」

 

ニノの息は止まったままだ。

血を注ぐのを一度やめて、人工呼吸をする。

口から息を吹き込んで、胸を押して肺を何とか動かそうとする。

何度目かで、息を1つしたのを確かめて、また血を飲ませた。

 

少し飲み込んでは、残りが口元から流れてしまうが、根気よく続けるうちにコクコクと飲み始めた。

 

息が止まらないように、体を横にしてそっと膝に抱いて背中を摩ってやる。

 

少しずつ、生き返ってくるのが分かる。

 

 

 

「ごめんな、何度も死なせて」

 

大野は、ニノの閉じたままの瞼に、口付けた。

 

思い出の中の子供の頃と変わらない表情は、愛おしかった。

 

 

 

 

 

……せっかく、静かに暮らしているようだったのに。

 

暗殺の依頼者は、誰なのか。

 

腹が立って、憎くて仕方ない。

 

 

 

浅間を守ろうとしたニノの姿は、そのまま翔に重なってしまう。

 

翔を狙わせないようにしなければと考えていると、ドアの外で何人かの男たちの絶叫が聞こえた。

 

失敗した部下を、戻った浅間が殺したからだろう。

 

大きな足音を立てて、大野のいる部屋へ、浅間が飛び込むように入ってきた。

 

「ニノ!」

 

大野が、ニノを抱いたまま床に座っているのを見て、驚いた。

 

「どうして……? ニノは?」

 

「お前を守るために、自殺しようとして首を切ったんだ。何とか助かった。でも……悪い。助けるのに俺の血を飲ませた」

 

「なんだって?」

 

浅間が、ニノを覗き込む。

血まみれのままだったが、静かに眠りに落ちている。

 

「主人以外の血で助かるなんて、普通は考えられないが……。あなたの血がまだ残ってるのか……」

 

「そうかな……あとは、頼む」

 

浅間の腕にニノを返すと、大野は静かに部屋を出ていった。

 

血を与えられて、深く眠るニノを腕に抱いて、浅間は、依頼者と掃除屋たちへの報復を誓った。

 

「絶対に許さないからな」

 

怒りで昇り立つ、真っ暗なオーラが見えるようだった。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

浅間の隠れ家が狙われていた頃、翔は潤と亀梨で、学校の敷地内の芝生で休んでいた。

 

そこに、雅紀がバレーボールを持ってやって来た。

 

「お、みんないるじゃん! バレーしようよ」

 

亀梨は、眉を少し動かすと、黙って帰ろうとした。

 

「ええ? 無視して帰んないでよ? ほら、仲良くしようよ」

 

亀梨の細い腕を、雅紀が掴んで離さない。

 

「……帰る」

 

「なんで?」

 

「離せよ」

 

「遊ぼうよ、仲良くなれるよ?」

 

「仲良く? ……わかった、仲良くしてあげる」

 

雅紀の顔をジッと見つめると、白い両手で顔をつかみ、色っぽい流し目になって雅紀に深く口付けた。

 

「え”え”え”え”え”え”え”え”ーっっ!」

 

翔と潤が、腰を抜かしそうになって絶叫した。

雅紀は、そのまま本当に腰を抜かして、座り込んでしまった。

 

亀梨は、そんな3人を見て、不思議そうにしている。

何に驚いてるのか、分からないようだった。

 

「なに?」

 

「仲良くって、意味が違うだろう!」

 

「?」

 

「翔さん……ニノと同じかも。これって吸血鬼が教えんのかな」

 

「うーん。怖すぎる」

 

潤と翔がヒソヒソ話していると、影が走った。

 

 

 

 

「危ない!」

 

翔に、真っ黒な影が飛んで来て、亀梨が翔を庇って引き寄せる。

 

また影がすごい速さで、目の前を何度も走ったかと思うと、潤と雅紀が気を失って次々倒れた。

 

「どうしたの!」

 

翔が二人に駆け寄るが、気を失っているだけのようだ。

 

その時、静かで冷たい声が聞こえた。

 

「和也、その子を渡して?」

 

金髪の美しい吸血鬼が音もなく、亀梨の前に立っていた。

 

「タツヤ?」

 

「同じ組織の奴が、浅間を狙って失敗した。浅間の子を攫うのを大野さんが邪魔したんだ。今から、この子を使って、浅間や組織と交渉しなきゃならない」

 

「大野さんが……」

 

翔が、顔色を変えた。

 

「それで……大野さんは? どうなったの? ニノは?」

 

「教えたら俺の言う通りに、ついて来る?」

 

「ダメだよ!」

 

亀梨が、翔の前に庇うように立った。

 

「和也が、どうして止めるの?」

 

美しい吸血鬼が、悲しそうに瞳を揺らす。

 

――おまえは、味方だろう? といいたげに。

 

 

 

「ごめん、タツヤ。許してあげて? 友達になったんだ」

 

「……人間じゃん。お前は人間なんかとは付き合えないだろ?」

 

「でも……人間だよ、俺も。嫌なら俺を殺して」

 

亀梨が、無表情で言う。

 

「……お前を殺せるわけないだろ? あいつと俺たちが育てたのに」

 

翔が驚いて、目を見開いた。

 

「本当……? 亀梨君」

 

「……もう死んだ吸血鬼が、昔、俺を攫ったんだ」

 

風向きが変わって、冷たい風が吹き抜けた。

 

「ヤバい。あの人が帰ってきた。和也、一緒に来い!」

 

「やだって!」

 

嫌がる亀梨を無理矢理に腕へ抱くと、美しい吸血鬼は飛び去ってしまった。

 

呆然と消えた方を、翔が見つめていると大野が走って来た。

 

 

 

「翔ちゃん!」

 

「大野さん?!」

 

翔が駆け寄って、大野に飛びついた。

 

「大野さん! 無事だったの?」

 

「翔さん……?」

 

雅紀と潤の目が、覚めたようだった。

 

何があったかわからないまま、ぼんやり、まだ芝生に倒れている。

 

 

 

「掃除屋が来たのか? 皆よく殺されなかったな?」

 

「亀梨君が、助けてくれたんだ。掃除屋らしい人が、大野さんが邪魔したって……」

 

「ああ。ニノが襲われた。なんとか助かったけど。浅間の報復があるはずだ。アイツら先回りして翔ちゃんを拐いに来たのか?」

 

大野が潤を見ながら、聞こえないように翔に聞いた。

 

「多分……。でも諦めていなくなったよ」

 

「面倒だな。浅間は絶対に許さないだろうからな」

 

「ニノ……大丈夫? 怪我したの?」

 

「助けに行った時は、息が止まってた。思わず俺の血を飲ませて……何とか生き返った」

 

「スゴイ! そんな事あるの?」

 

「無いみたい、浅間が驚いてた」

 

何だか、自慢げで嬉しそうに、大野が笑った。

 

その顔を見て、翔も笑った。

 

「大野さん、嬉しそう。良かったね」

 

「翔ちゃんは優しいな、やっぱり良い子だな」

 

そう言って抱きしめられたが、起き上がった潤と雅紀が『えええええ!』と驚いて声を上げたから、恥ずかしくて真っ赤になってしまった。

 

「管理人さん! 翔ちゃんのこと好きなの?」

 

雅紀が、声をあげると大野が即答した。

 

「好きだよ! おまえら! 手ェ出すなよ!」

 

潤が、後ろを向いてゲラゲラ笑い出した。

 

さらに、メゲずに雅紀が聞く。

 

「ねえ! それって、両思いなの? 教えて!」

 

大野も、声を出して笑い出した。

 

翔は、恥ずかしくて、しゃがみ込んでしまった。

 

(ああ……どうしよう。雅紀君……何で聞くかな?)

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

金髪の美しい吸血鬼、タツヤに連れられて、亀梨は隠れ家についたが、ユウイチの姿が無かった。

 

「タツヤ、ユウイチは?」

 

「本部に行ったまま。和也、ユウイチが浅間に殺されるかもしれない」

 

「でも、襲ったのは違うメンバーでしょ?」

 

「でも、大野さんが出て来たから。ほら、ユウイチは大野さんと『挨拶』しちゃったからな」

 

「……俺のせいなんだ」

 

「そうじゃないよ。和也は関係ないから」

 

タツヤはそう言うと、心配そうな亀梨の頭を胸に抱いて、慰める。

 

「もし、死んでもユウイチは、怒んないよ? 俺もそうだよ。和也のためなら平気だからな? 気にするな」

 

どこまでも深い愛情と優しい言葉は、亀梨をさらに悲しませる。

 

「……何で、みんな……俺を残して死ぬの……?」

 

「……ごめん」

 

「誰か死ななきゃいけないなら、俺を浅間に差し出せよ。交渉に使ってよ」

 

「そんな事、死んでも出来ないよ」

 

タツヤの胸に縋って声も無く泣く亀梨を、あやすように更に抱きしめた。

 

愛されるだけ、絶望しなきゃならない。

 

それこそが、運命だった。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

眠った亀梨は、遠い昔の夢を見ていた。

 

まだ小さな子供の亀梨がいる。

 

自分は、誰かを探していた気がするけれど、分からない。

 

……気が付いたら、ひとりぼっちで薔薇の咲く庭に立っていた。

 

「おいで」

 

声がして振り向くと、たくさんの薔薇の陰に隠れていたらしい、美しい男が出てきた。

 

とても綺麗で、よく響く低い声で、氷のような瞳は、体が冷たくなるように恐かった。

 

怖くて後ずさる。声も出なかった。

 

「どうして逃げるの?」

 

それこそ、こちらが聞きたかった。

 

『どうして、僕なの?』

 

男は笑顔で近づいてくるが、冷たい微笑に鳥肌がたった。

力を振り絞って、逃げようと後ろを向いて駆け出した。

 

何かが音を立てて動いて、たくさんの薔薇の花びらが舞い散って、前が見えなくなった。

 

あっと思った時には男の腕の中で、『逃げられないよ』という声が聞こえ、そのまま気を失った。

 

 

 

 

****

 

 

 

「おはよう、和也」

 

家族も自分のことも、記憶にないまま、新しい人生が始まった。

何歳なのか、名前も分からなかった。

 

何の感情も湧かないまま、男と暮らす。

綺麗な洋服を人形のように着せられ、食事を与えられる。

味もよく分からないから、あまり食べられなかった。

 

鏡に映る自分が恐かった。

 

真っ白な陶磁器のような肌。

切長の冷たい、長いまつ毛が縁取る瞳。

薄くて赤い唇。

明るい色の緩く巻いた髪は、肩まであって少女のようだった。

 

――本に出てくる美しい魔物に、そっくりだった。

 

毎日、大きな屋敷の中から出られなかった。

自分は魔物だから、閉じ込められているのかと、思っていた。

 

魔物はいつだって、本の中では殺されてしまう。

自分はいつ殺されるのか、聞いたことがあった。

男は、驚いて、すぐ笑い出した。

 

「おまえは、殺さないよ」

 

「じゃあ……生きていかないとダメなの?」

 

「生きていたくないの?」

 

「何のために生きてるの?」

 

「したいことする為だよ」

 

「したい事が無いなら、どうするの?」

 

「じゃあ、俺が決める。お前は俺のために、俺が言うことだけを聞いて、生きてゆくんだ」

 

男は、そう言って少年を抱きしめた。

 

 

**

 

 

ある日、初めて男以外の生き物にあった。

 

ユウイチとタツヤだった。

 

吸血鬼で、凄腕の暗殺者で、和也の優しい保護者になってくれた。

 

この頃から、たまには外へ、出られるようになった。

 

男より優しい二人は、和也の喜びそうな場所に連れて行ってくれた。

 

笑い方を知らない和也を、笑えるように教えてくれた。

 

和也が二人と過ごした1日を、男に報告すると、ただ笑って聞いていた。

 

たまに機嫌が悪くなると、怖い目にあったけれど、記憶は曖昧で分からない。

 

ただ、男とユウイチとタツヤは、仲が良かった。

 

和也は、その3人を見ていると、少しだけ幸せな気持ちがした。

 

 

 

 

 

ある時から、男が和也を悲しそうに見つめるようになった。

 

「どうしたの?」

 

「和也、まだ……したい事は無いの?」

 

「したいこと? うん……わかんないよ」

 

自由などない生活で、望みを持てば死にたくなるだけだとは、まだ知らなかった。

身勝手な男は、そんな事すら、考えたことも無いだろう。

 

「俺がいない世界で、どうしたい?」

 

「いない……? そんなの想像できないけど」

 

「俺のものになって、一緒に消えたい?」

 

「……意味がわかんないけど、好きにしていいよ? 俺をどうしたいの?」

 

「永遠に、俺のものにしたい」

 

「……ずっと、あなたのものだけど」

 

「おまえが消えるのも、変わるのも、誰かに盗られるのも嫌なんだ」

 

和也の人生の全てが、男の意思で暮らして来たのに。

どういう意味か、分からなかった。

指先から、髪の毛一本まで、男の思うまま。

何かを自分で決めたことも、自由に外を一人で歩くことも無かった。

 

吸血鬼の身勝手さ恐ろしさも、意味は無かった。

吸血鬼に支配された人生で、他を知らないのだから、当然だった。

 

何を望まれてるのかなんて、愛情を知らない少年に、わかることは無くて。

 

男は長い……長い人生で、初めて手に入らない愛情を望んだが、何もかも遅かった。

 

 

****

 

 

それでも、ある意味で、男の望みが叶う日はやって来た。

 

夜明けに帰って来た男は、深傷を負って、死にかけていた。

 

「和也……おいで」

 

和也は、訳が分からないまま、男に抱きしめられた。

男は、ナイフで和也を殺そうとしたが、少し考えてやめた。

 

「なに……? どうしたの?」

 

和也は、彼が自分を殺さないのが、不思議だった。

自分の自由が、一番彼の嫌いな事だった。

 

「和也……愛してる……俺を忘れないで」

 

「俺を殺さないの? ねえ早く、殺してよ?」

 

出なければ、男だけ死んでしまう。自分一人残される、それが一番恐かった。

 

男は和也に口付けようとして、触れる瞬間には灰となって崩れて消えた。

 

灰に包まれて、頭が真っ白になった和也は、ショックでそのまま動けなかった。

 

 

**

 

 

そこから、しばらく記憶が無かった。

 

ユウイチとタツヤが、和也を助けてくれていた。

男の灰の中で、和也は息が殆ど止まったまま、見つけられたようだった。

 

目が覚めても、元気になっても、和也はどうしていいか分からない。

男に言われていたように、体を綺麗にして、美しい洋服を着て、美しく容姿を整えるともうすることが無い。

生きた人形のように、ぼんやり過ごす。

 

ユウイチとタツヤが、毎日優しく色々してくれるが、自由のない生活しか知らなかった少年は、男と一緒に死んだも同じだった。

それでも一年かけて、優しい二人のおかげで、少しずつ心が生き返っていった。

だが、長い時間とショッキングな終わり方の男が、心に大きな傷を追わせたせいで、普通にはなれなかった。

 

心は、攫われた日から育っていなかった。

愛情を知らないまま、強烈な愛情と執着で束縛されて、夢の中まで男が出てくる。

 

苦しくて、発作的に自殺を繰り返す。

 

何度も、助けられるのも辛かった。

何とか、ユウイチとタツヤの愛情がわかるまでにはなっていた。

 

自分が二人を苦しめるのが嫌で、元気になったフリを続けて、こっそり家を抜け出した。

そして他の吸血鬼のテリトリーに入る。

それは間違いなく、殺されるはずだった。

 

殺されなくても、そこで自殺するつもりだった。

ただ、そのテリトリーは、薔薇の女王と有名なヒルダと、彼女に溺愛されている茜のものだった。

 

 

 

****

 

 

 

……結局、死ねなかった。

 

ヒルダは、ユウイチたちと何か話し合ったようだった。

 

美しいまだ若い、吸血鬼になったばかりだという茜は和也に優しかった。

 

「あなたって、可哀想。二人目よ? 可哀想な男の子を見るのは」

 

綺麗で、頭の良さそうな茜は、何でもハッキリ話してくれる。

 

「あなたの吸血鬼って、最悪だわ! 攫っておいて、縛っておいて、人間のまま置き去りなんて許せない! 無責任じゃない!」

 

吸血鬼で、責任感の有るものなど、聞いたことは無かったが、彼女の話は面白かった。

 

「私、もうすぐ死ぬのよ? ちゃんとヒルダと一緒にね?」

 

死ぬ事より、ヒルダが好きなんだろうことだけ伝わった。

明るくて嬉しそうな彼女は、眩しいくらいだった。

吸血鬼になっても、人間と変わらない感情は、それだけヒルダが弱っていることが、理由らしかった。

弱った寿命が尽きる寸前のヒルダの力では、完全な吸血鬼の人形にはならなかったのだろう。

 

「吸血鬼になっても、人間のままの心を持った、私のような男の子がいたのよ。可哀想だったわ。無理矢理攫われて、大好きな吸血鬼から引き離されて苦しんでたのよ」

 

茜は、生きていく目的を作ってくれた。

 

「ほら。私達が灰になったら、この綺麗な薔薇たちが、勿体無いでしょう? 遺産と遺言を残すわ。それを使って生きていって欲しいの」

 

可哀想な男の子にと、箱を2つ預かった。

 

「一人は、櫻井翔って高校生。可愛い子で、大野智って吸血鬼がついてるわ。その吸血鬼に捨てられた男の子が、ニノよ。この子も、とても綺麗な良い子なの。大野に渡して? 一度会わせてあげたいの」

 

「捨てられた?」

 

「攫われて、そのままなんて、そういうことだわ。死にたがってるけど、生きて幸せになって欲しいの。わかる? あなたもよ? あなたは、特に人間なんだから。すぐ人生終わるわよ? ちゃんと愛する相手を見つけて、幸せになってよ。それが復讐になるから」

 

和也は幸せに、興味は無かったが、ニノには興味があった。

彼は自分のように、攫われたのか。

 

今はどんな風に生きてるんだろう。

大野たちに会うのが楽しみになった。

 

 

 

 

茜たちが、この世を去るのを見届けた。

 

彼女たちの最後は実に見事で、この世の一番美しい死だと思った。

 

その後、ユウイチに大野へ会いに行くと言ったら驚かれた。

 

 

 

「大野って、あの人だろ?」

 

「殺されるだけだぞ? とんでもなく悪い奴だったんだから!」

 

「俺を攫った人より?」

 

「ん? それはわかんないけど。アイツが酷いのは、和也にだけだったからなあ。本当に歪んでたよな」

 

「そうなんだ……」

 

「何度言っても、和也を外に出さないし。やっと自由になったんだから、もっと好きなことして欲しいよ、俺は」

 

ユウイチやタツヤのように優しい吸血鬼は、いないらしい。

 

二人は、昔、人間と交流があって、人のような性格になったそうだ。

 

 

 

****

 

 

 

和也は、結局、自分のせいでユウイチとタツヤを危険に晒してしまった。

 

後悔しても、どうしようもない。

 

自分が、二人と浅間や大野との縁を繋いでしまった。

 

 

 

 

どうしたらいいかと思っていたが、それは向こうからやって来た。

 

自分だけしか居ないはずの部屋に、恐ろしい浅間の部下が音も無く数人で立っていた。

 

「……連れて行けよ。その代わりに、他には手を出すな」

 

そのまま、和也は消えていなくなった。

 

 

 

*********

 

 

 

 

静かな寝室で、ニノが眠っていた。

 

大野に助けられてから、まだ目は覚めなかった。

 

浅間は、ニノの寝顔を見ながら、ワインを飲んでいた。

 

初めて会った日から、色々あり過ぎた。

だが、どんな思い出より強烈で、刺激があった。

 

恨まれたことも、逃げ出されたことも、遠い日になった。

 

いつも、想像の上をいく少年だ。

素直で大人しいと、灰になるような気がして恐かった。

 

愛されているのを感じるほどに、終わりの近い気がしていた。

その予感通りに、籠の鳥になった途端、死にかけた。

 

自分という主人の為に、首を掻き切るとは。

嬉しかったが、大野に助けられるなんて、複雑だった。

 

 

 

「本当におまえは、いつも何ひとつ、私の思い通りにならないな」

 

愛おしそうに、眠ったままの頭を撫でた。

 

ドアがノックされて、掃除屋が大切に隠している少年を捕まえたと報告されて、浅間は寝室を出て行った。

 

 

 

その時……ニノの指が、微かに動いて……大きく息を吐いた。

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

オーナメントオーナメントオーナメント

 

本当にこの章も、

最後の文字までどんな終わり方か

分からずに書いてましたね。

1発で書いていい内容じゃないのに。

魔法にかかったように、

書いていて。

それが今も、続いている感じです。

素人の強みですね^^;

次回が第9章の最終話です。