*嵐妄想小説

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*吸血鬼・ダーク・ファンタジー

*お山妄想・大宮妄想・末ズ妄想

*ロバ丸妄想(KAT-TUN)

*お話の全てはフィクションです

 

本文の文字数8000くらい?(^^;)

長いから、お暇な時に読んでねー。

 

 

 

第9章

「薔薇の影。one last kiss」

(1)

 

 

 

 

Kissだけ、残して消えた薔薇。

 

灰になった貴方の為に、今日も泣く。

 

これが、最後の涙に、なるように祈るだけ。

 

もう明日が来ない事を、……ただ祈るだけ。

 

 

 

***

 

(1)

 

「翔ちゃん、遊ぼう」

 

「ダメ」

 

「なんで? 試験は終わっただろ?」

 

大野が屈託無く笑うが、その顔に枕が飛んでくる。

見事に、顔面に命中した。

翔が、怒りながら布団から顔を出した。

 

「今っ、何時だと思ってんのっ」

 

「……えっと、何時だっけ? ああ、分かった1時だ。これでいい?」

 

「良くないっっ! もう寝るんだから邪魔!」

 

「えええ、寝てばっかじゃん!」

 

今は、平日の夜中で学生寮は静まり返っている。

一日中、高校生として過ごした翔は眠くて仕方ない。

 

「昼間、貴方みたいに寝てないんだから! 夜に寝るのは、普通なの!」

 

「授業サボれば良いじゃん、翔ちゃん毎日学校行くんだもん。俺、昼間は暇だから寝るんだ。ほら、翔ちゃんのせいだろ?」

 

悪気もなく、あははと笑う大野に頭が痛くなる。

 

「貴方は、学生寮の管理人なんだから、昼間は寝ちゃダメでしょう? 仕事してよ」

 

「でも、翔ちゃんが管理人代行だから。俺、仕事したくないし」

 

「はあ……? とにかく、眠いの! 寝る! おやすみ!」

 

「ええ〜……俺と全然遊んでくれないじゃん。つまんないなあ」

 

子供のように駄々をこねる大野は、実は吸血鬼だ。

千年以上の寿命と、恐ろしい牙と爪を隠し持つ。

本性を現すと、小柄な体は大きく変化して、モンスターのようになる。

その力と超感覚で、どんな地位や財産も手に出来るのに、わざわざ管理人としてひっそり暮らしている。

 

色々有って、翔は大野の家族になる約束をしている。

 

吸血鬼の家族になると約束したものの、大野は、翔が人間の一生を過ごして良いという。

 

『いつか、翔ちゃんがちゃんと、俺を好きになってくれるまで待ってる。その時が来たら、本物の家族になってくれる?』

 

まるで、プロポーズのように大野に言われて頷いたのは、最近だ。

 

大野は、布団を被って出てきてくれない翔に、呟いた。

 

「……もう、俺、浮気しちゃうぞ?」

 

大野の可愛らしい恨言は、ため息と共に、翔の夢の中に消えてしまった。

 

 

**

 

 

伝説の吸血鬼と本物の吸血鬼は、かなり違った。

 

長い寿命と恐ろしいほどの体力を持ち、年齢を重ねる程に超感覚や特殊能力を身に付けていく。

太陽と十字架も恐れる事はないが、長い寿命が終わると細胞が崩れ灰になって消える。

性格は、獰猛で残酷。わがままで自分勝手で、嫉妬深い。

テリトリーは絶対で、破れば殺し合いになる。

 

その性質から、殆どは単体で暮らし、世界中に隠れている。

財界にも大きな力を持って、経営者や資産家の顔をして人間の中に暮らすものも多い。

 

気に入った人間を家族にすることもある。

 

そのほとんどは、奴隷のような人形にして、僕(しもべ)となる。

家族にするには、生き血を全て吸い、一度殺してから、自分の血を飲ませて吸血鬼に生まれ変わらせる。

吸血鬼になった人形は、人間の時の記憶も消えてしまう。

 

主人の言う事を聞く為のみの生き物になる。

(ただ、ごく稀に人間の頃のまま吸血鬼として蘇るものがいる)

 

人間のように、主人の夜の相手もする。

主人の為に、その体で生贄の人間を誘惑して、攫うことも多い。

 

家族という人形は、自分で血を吸う必要は無く、主人の血を糧に生き続ける。

その血を拒否すれば、灰になって消えるだけ。

 

吸血鬼は病気こそしないが、不死身では無く、大怪我をすれば寿命を待たず灰になる。

家族になった者は、主人の命が消えれば、同時に灰になる。

運命は、主人そのものだ。

 

――大野は、翔を人形にするのは、躊躇っている。

人形になったら、その人生、全てのものを奪うことになるからだ。

 

ただ、今は一緒にいる時間を楽しく過ごす、それだけ。

それは吸血鬼が知らない、人だけが持つ愛情だと、最近知った。

 

ただ、守り、愛して暮らす。

静かな日々が、続く事だけを願いながら……。

 

 

******

 

 

美しい調度品に囲まれた天井の高い部屋で、14歳で時間の止まった少年が暇を持て余している。

少年の主人の吸血鬼の浅間から、外出禁止令が出されたからだ。

しかし、1日のほとんど主人は留守で、寂しくて仕方なかった。

 

「ニノ、外は危なくなった。掃除屋が動いているようだ。お前では歯など立たない。私が許すまでここに居なさい」

 

掃除屋は、吸血鬼の暗殺者達のことだ。

揉め事の多い吸血鬼の浅間は、狙われることも多い。

浅間本人は論外に強いが、掃除屋なら、まずはニノを狙うだろう。

それを心配してのことだった。

 

主人は絶対だ。

少年……二宮和也には、逆らうことは出来ない。

 

「潤君と遊びたい……」

 

唯一の遊び相手の人間の高校生、松本潤。

彼は、人間の頃の最愛の従兄弟だが、ニノは忘れたままに、再会して遊ぶようになった。

潤は、浅間とはまた違うが、大切な存在だ。

色々厳しい浅間が、なぜか潤に会うことは、許してくれていた。

 

ニノは、拐われて吸血鬼として蘇ったが、人間の感情の残った稀な者だった。

 

 

最初は、ハッキリ分かっていた人間の記憶も、『覚醒』した後は、他人の記憶のようで実感がない。

主人の浅間といる事だけが、幸福な時間になった。

その主人の不在の寂しさを、埋めてくれた潤に会えないのが、ただ辛い。

 

主人は、普段は特別に優しいが、逆らえば残酷で容赦が無い。

ベッドから起き上がることすら、出来ないようにされる位は、めずらしくない。

何度も、恐ろしい目にあってきた身には、外に出る事など出来なかった。

 

「潤君……会いたい……」

 

彼がくれたウォークマン。

ねだって録音してもらった、潤の声を聞きながらベッドに入る。

 

『カズ』

 

甘く呼ぶ声が聞こえる。

 

ニノは知らずに泣きながら、夢の中で彼へ会いに行った。

 

 

 

******

 

 

 

毎週のように雅紀と潤が、日曜日になると翔へ会うため、学生寮へ来てくれる。

最近は、管理人の大野も一緒に、遊ぶようになった。

 

「潤、なんか元気ないね」

 

「……そう?」

 

「お腹空いてんのか?」

 

大野からすると、皆ほんの子供だ。

 

お腹を空かせた仔犬くらいに、考えているのかも知れない。

 

「俺もお腹空いたあ。管理人さん、どっかにみんなで、食べに行ってもいい?」

 

雅紀が、明るく言う。

 

「翔ちゃんもお腹空いたのか? 行っても良いけど……ちょっと危ないから俺も行く」

 

「危ないって?」

 

「ちょっと最近変な奴が、ウロウロしてるんだ。絶対におかしな奴へ付いて行くなよ?」

 

「おかしいって、どんなの?」

 

雅紀が、聞くと冗談ぽく大野が笑いながら言った。

 

「やたら目立って綺麗な奴。例えば……吸血鬼みたいな?」

 

潤が、顔色を変えたのを見て、翔が心配で聞く。

 

「潤、もしかして……ニノのこと?」

 

「……うん」

 

「ニノちゃんて、行方不明の従兄弟だろ? どうかしたの?」

 

吸血鬼の事を知らない雅紀が聞くが、潤は言葉を濁すしか無い。

 

その日は、4人で遅いお昼ご飯を近くで食べて、解散になった。

コッソリ潤が、後で相談があるから家に来てと翔に囁いた。

 

「わかった。あとで……大野さんも一緒でいいかな?」

 

「うん、危ないからその方がいいよ」

 

 

****

 

 

潤の家に行く話をすると、大野が渋っている。

 

「相談て、ニノの事か?」

 

「多分。ダメかな? 俺一人で行こうかな」

 

「それは、危ないからついて行ってもいいけど。あの子を、ニノとはあまり合わせない方がいいぞ」

 

「うん……殺されちゃったら大変だもんね」

 

吸血鬼が、自分の人形を人間の元に通わせるのは、大抵は攫って殺す為が多い。

特に、浅間は恐ろしい。

 

もしニノが、彼が欲しいと望めば攫わせるし、浅間の気に入らなければ、潤を惨殺させるだろう。

記憶がないかも知れないが、従兄弟を殺させるのは残酷すぎる。

 

死んだはずの従兄弟。

2度と会えないはずだった最愛の従兄弟に再会して、幸せそうだった潤に、それを告げるのは辛い。

 

「でも、放っては置けないから……友達だもん。それにニノは大野さんの大切な子だし」

 

「もう……浅間の子だよ。翔ちゃんは気にしなくて大丈夫だから」

 

「だって……」

 

大野が、3歳から大切に見守って、家族にするはずだった少年は、突然攫われて失った。

 

やっと諦めのついたらしい大野が笑顔を見せても、そのことを思うと、翔の胸は痛んで仕方なかった。

優しい大野を慰める方法を、誰かに教えて欲しいと思う。

そう思う、心の綺麗な翔の存在が、慰めになっていることは分からないでいる。

 

「俺には、翔ちゃんがいるから大丈夫だよ」

 

大野はそう言うと、微笑んで抱きしめてくれた。

 

 

****

 

 

夜の闇を、音もなく影のように走る。

 

長すぎる人生の、暇潰しの趣味のように、依頼人と取引をして暗殺を請け負う。

掃除屋は、かなりの強さを持つ吸血鬼たちだ。

 

彼らが闇夜に走り出すと、人間のふりをして暮らす吸血鬼が、一人、二人と灰になって消えて行く。

依頼があっても、気まぐれな彼らは、気に入らなければ請けてはくれない。

もしくは、自分の利益や興味のある案件だけを受ける。

 

浅間は何度も、狙われたがその強さは凄まじく、掃除屋はいつもその報復を受けて消えてきた。

かなりの数の仲間の仇でもある。

この組織を作ったのは、人間と言う噂があった。

吸血鬼の持たない仲間意識が存在するのも、そのせいかも知れなかった。

 

ただ、今度は勝算があった。

浅間が溺愛している存在がいると噂があった。

それが勝敗を分けることになりそうだ。

 

 

 

「……終わったな」

 

黒い影が、月に照らされてその姿を現した。

背の高い痩身に黒髪、大きな瞳の目鼻立ち。

美しい手を持った上品な男だ。

灰になった吸血鬼を、確認すると男がホッと息を吐いた。

 

 

「ユウイチ、やっぱり浅間を狙うの?」

 

「まだわからないよ、本部から連絡無いし。どうして?」

 

男に、金髪の西洋人のような姿の青年が話しかけた。

感情をハッキリ顔に出すから、喜怒哀楽で印象がコロコロ変わる。

ただ、二人ともかなり目立つ垢抜けた容姿だ。

金髪の青年は、彫刻のような細身に筋肉が綺麗に巻き付いている。

 

「浅間は、強いんだろ? パリで凄かったって聞いたし。ユウイチ……危ないじゃん、断ろうよ」

 

「タツヤは、心配しなくていいよ。とりあえず、請けた仕事はここまでだから。しばらくゆっくりできるよ。遊びにでも行く?」

 

「うん! 和也に会いたい。どうしてるかなあ」

 

子供のように、嬉しそうに笑う彼を連れて、青年は闇の中に消えて行った。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「カズに会ってるの、知ってたんだ……」

 

潤が、ニノに会っていた話に驚かない翔と大野を見て、潤が苦笑いを見せた。

 

「うん……一度見に来たんだ、心配で。そうしたらニノがいた。二人でいるの可愛かったよ、幸せそうだった」

 

翔が言うと、潤が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに俯いた。

 

「でも、突然カズが来なくなって、心配で。十日も来てない」

 

「突然?」

 

翔が、潤と心配そうに話していると、大野が黙って考え込んだ。

ニノが来ないのは、最近、おかしな奴らが、ウロついてるからだろう。

 

浅間は、あれでもニノを可愛がっているはずだ。

危険を感じて、外に出せないだけだろう。

 

 

「……ニノに会うのは、もうやめとけ」

 

大野が重い口を開いた。

ハッとして、潤と翔が大野を見た。

 

「ニノが最近来ないのは、違う吸血鬼がウロついてるからだ。掃除屋って言われてる暗殺者で吸血鬼の組織だ。それにもう、ニノは人間じゃない。それもあの浅間が付いてる。会い続ければ、必ず殺される日が来る」

 

「カズは……これから、どうなるの? やっぱり人を殺して生きていくの?」

 

「……浅間が命令すれば。だけど必ずじゃない。どうなるかは、誰にも分からないよ」

 

大野は、暗く淡々と語った。

潤は、表情を歪めて大野に聞いた。

 

「吸血鬼は、どうすれば死ぬの? 浅間を殺せばいいの?」

 

翔が驚いて声をあげる。

 

「潤! だめだよ! 浅間が死ねばニノも灰になっちゃう!」

 

「そんな……。じゃあもう、助けようが無いじゃん……」

 

 

 

 

重い沈黙が続いた。しばらくして沈黙を破ったのは大野だった。

 

「忘れろ。それしか生きて行く方法が無い。ニノにお前を殺させたく無いだろ?」

 

「カズが俺を殺したいなら、構わないよ。でも、カズがずっと人を殺して怪物になってゆくのは、嫌だ」

 

潤が悲壮な顔で言った。

 

大野がため息をついて、言葉を絞り出すように潤に告げた。

 

「もう、とっくに怪物だよ。お前の前では可愛い男の子だろうけど。吸血鬼に覚醒したんだ。ニノ本人は、記憶も無くしてるから、罪悪感も無いんだ。気にするな」

 

「できるわけないだろう!」

 

「潤! 落ち着いて? 大野さんは、潤が心配で言ってるんだ、わかってよ」

 

大野に掴みかかりそうな勢いの潤を、翔が止める。

 

そんな二人を、大野が静かに見つめている。

 

 

 

「……吸血鬼だって、立派なこの世界の生き物だ。人間とは違うけどね。人間だって人を殺すじゃん。殺さなくても生きていけるのに。ニノや俺たちは怪物でも、たとえ寿命が長くても、同じ人生だ」

 

大野が静かに話す声に、潤は息をのむ。

 

 

 

「ニノが静かに暮らせるよう、お前が身を引いてやるしか、今は何も出来ない。この世に絶対は無い。何があるか分からないんだ。希望が見えることだってあるかも知れないんだから、もうあまり、思い詰めない方がいい」

 

大野が、静かに話す言葉は、説得力とこの世の哀しみが滲んでいた。

 

長い人生で、様々なモノを見てきた者の言葉だ。

 

「……それでも、カズと会いたい……」

 

「うん……そうだと思うよ。決めるのは、お前の自由だから。俺たちにそんな権利も無いしね」

 

大野の言葉に、翔は潤にかける言葉が無くなった。

吸血鬼の人生。

 

翔は、そんな事を考えたことが無かった自分に腹が立った。

この世は、人間だけのものじゃない。

人間だけの正義や常識なんて、傲慢すぎる。

 

「潤、あまり悩まないで? なんでも俺に言って? なんでもするから」

 

「ありがとう、翔さん。ごめん、今日はもう帰って。一人で考えるよ」

 

それでも、分かり合うのは難しいだろう。

同じ世界にいながら、まるで違う人生だ。

人と人ですら、難しいこの世で、どうすればいいか分からなかった。

 

帰り道、大野は何も無かったように、翔と月夜を歩く。

 

「翔ちゃん、元気出せよ。悩んでも一緒だぞ? ここからは、あの子が決める事だ」

 

「いや……潤のことだけじゃ無くて。ごめんね、大野さんも人生がある事、考えてなかったよ、俺」

 

大野は、立ち止まって驚いた顔をしている。

 

「翔ちゃん、どうしたの?」

 

「大野さん俺に構ってたら、勿体なくない? 他にいっぱい出来ることあるんじゃない?」

 

大野は、明るく笑い出した。

 

「人間て、面白いこと言うなあ。俺はしたい事しかしないんだから! 浅間も吸血鬼は皆んな、そうだ。したくも無いことで悩むのは、人間だけだよ」

 

「ええっ? そうなのかな?」

 

「ああ。人間が一番、人生を勿体無い使い方してるんだよ? ずっと見てきた俺が言うんだから、間違いないよ」

 

翔は、言葉に詰まっている。

 

「俺は、構いたくて仕方無いんだから。翔ちゃんは、やっぱり可愛いなあ」

 

「可愛く無いよ……」

 

元気なく言う翔に、それが可愛いんだよと、大野は楽しそうに笑った。

 

 

*********

 

 

よく眠れないまま潤が登校すると、見たことのない生徒が制服姿で、校舎の入り口で迷っているようだった。

 

朝早い為に、まだ人も少ない。

 

高校生男子にしては細身で、青いくらい白い肌に、柔らかく巻かれた明るい茶色の長めの髪。

 

後ろ姿は女性的だが、振り向いた顔の切長の瞳の光は、恐い位にキツかった。

 

(美人だけど、キツそうな子だなあ。転校生?)

 

 

 

「おはよう。何か困ってる? 転校生?」

 

「……アンタ誰?」

 

せっかく親切に声をかけたのに、迷惑そうに睨みつけてくる。

 

「1年の松本潤。ってか、お前こそ名乗れよ」

 

「……亀梨和也。今日からココの1年。職員室ってどう行くの?」

 

これだけ態度が大きいと、いっそ清々しいかも知れないと思って潤は、小さく笑った。

 

「……何? おかしい?」

 

「いや、生徒手帳見せて? 一応、生徒と関係者以外は、立ち入り禁止だから」

 

黙って亀梨は、生徒手帳を差し出した。

 

亀梨和也……『和也』の字に、手が一瞬震える。

 

読み方は違うが、あの子と同じ字の名前。

 

 

 

「カズナリ……いや、カズヤか」

 

不審気に潤を見つめる亀梨に、笑って手帳を返す。

 

「和也君か……これも縁だ、仲良くしよう?」

 

「……ああ。……?」

 

職員室に案内して、潤は先に教室へ向かう。

ニノに会えなくなり、同じ名を持つ生徒に出会う。

 

これも、縁というものだろう。

やはり、ニノとの縁は切れていないと確信した。

 

 

(縁があれば、いつか……助けてやれるのかな)

 

 

 

亀梨は、潤と同じクラスで驚いたが、その容姿で皆の注目を浴びても彼は無関心だった。

転校生なのに、いきなり午前中から全授業を寝て過ごし、昼休みにやっと起きる。

声をかけた生徒には、頷くくらいで愛想もない。

 

ふと立ち上がると真っ直ぐ、潤の前にやって来た。

 

 

 

「ねえ、櫻井翔って知ってる? それか、大野智」

 

「……おまえ、なんの用で聞いてんの?」

 

「知ってるんだ? 会いたいんだけど。ダメなら自分で探しに行く」

 

亀梨は、表情を変える事もなく淡々と話す。

まだ、一度も笑わない。綺麗な良く出来た人形のような姿は、吸血鬼のようだった。

教えてくれない潤に、背を向けて去ろうとするが、その手を慌てて掴む。

 

「教えてくれないなら、離せよ」

 

亀梨が手を離そうとするが、潤の方が力は強かった。

――思ったより、非力で安心した。

吸血鬼では……なさそうだった。

 

「教える。その代わりに俺も同席する。いいな?」

 

「……わかった」

 

「放課後、連絡して待ち合わせるから。それまで待って」

 

わかったと、無表情で言うと亀梨は教室を出て行って戻らなかった。

放課後まで、サボる気だろう。

やはり普通の転校生では、なさそうだ。

 

(でも、翔さんと管理人さんて……。なんの用があるんだ?)

 

 

**

 

 

翔の部屋で、ダラダラ過ごしていた大野が、ふと思って窓を開けた。

 

……影が走った。

 

明らかに、吸血鬼の気配がした。

 

(こんな所まで……全く面倒だな)

 

翔のことが心配で、すぐに部屋を出た。

 

「大野さん?」

 

部屋を出ると翔がいて驚いた。

 

「翔ちゃん? 早くない? なんかあった?」

 

「あの、潤が大野さんと俺に、会いたいって子が来たって」

 

「そいつかな? また、ウロついてるのがいる」

 

「え? でも転校生だって。生徒だよ?」

 

「じゃあ……誰だろう」

 

潤が待つ、校内にある公園へ向かった。

 

 

 

****

 

 

 

外で時間を潰していた亀梨が、校門まで戻ったところで、呼び止められた。

 

「和也」

 

「……なんか用?」

 

振り返らずに、返事をする。

 

亀梨の後ろに、音も無く男が一人で立っていた。

 

少し前の月夜に現れた掃除屋。

 

黒髪に大きな瞳と綺麗な手を持つ、美しい吸血鬼だった。

 

「ここは、『あの人』のテリトリーだ。危ないぞ?」

 

つまらなそうな顔で、やっと亀梨が振り向いた。

 

「関係ないし。俺、人間だから」

 

「でも、危ないから……わかってるだろ? 殺されたら、どうする?」

 

亀梨は、俯いて苦笑した。

 

「別に構わない……殺されたら。俺の事なんか、すぐ忘れていいから」

 

「人形にされたら、どうするんだ? また繰り返すぞ」

 

「その時は、ユウイチが必ず俺を殺して」

 

「……バカ、早まるな」

 

亀梨は薄く笑って踵を返すと、校門に入って行った。

 

……ユウイチと呼ばれた男の姿は、もう消えていた。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

+裏話+

 

とうとう登場のKAT-TUN。…の薔薇の影の始まりでした。

初稿は、コロナ禍の春くらい?に書いたと思います。

それこそ「one last kiss」聴きながら。

 

さらに、人間関係が複雑に。

この章の亀ちゃんは、吸血鬼の残酷さをハッキリ教えてくれる人です。

大野さんとの因縁や関係も後々のお話で出てきます。(この章では出ませんが)

 

Ameba初掲載時、この章が始まってすぐに。

大野さんを心配したメッセージが、結構来た思い出があります。

掲載後すぐの夜に「大野さんは死にませんよ」と記事を投稿しました。

今でも、書かない方が良かったかなと思う案件です。

 

書き手としては、ネタバレは良くないと思うんですけど。

「気になって暮らせない」とか。

「ずっと泣いてしまう」とか、メッセが来たので。

 

今よりさらに、読者さんの反応に、私も慣れていなくて困惑しました。

お名前の威力ですよね。

お話でも、死ぬのは辛いんですよね。

わかる、でも、困った。

 

どうしても、最後まで私は書きたい。

しかし、ここの保管庫に置くべきかは、悩みました。

こんな暗くて重いのは、自分のフォルダに置いておく方が良いかな?と。

(そう思って、しばらくpixivからも下げていました)

でも。

誰も読んでくれなくても、私が読める場所が欲しい。

できたら、画像とか綺麗に飾れる場所で。

それで、またAmebaの保管庫に並べることにしました。

(飾るのが楽しいというのは、大きいです♡)

幸せな完結編に向かっているので。

(たった一人でも読んでくれたら、嬉しいし)

 

加筆したり編集し直すうちに、今は結構楽しくなってきました。

やはり、推しの名前で書くと、勢いが変わってくる。

登場人物一人づつに思い入れが大きくて。

その分、楽しいです。(相変わらず拙いですが^^;)

 

辛い話も、重さも盛り盛りですが、気が向いた時に読んでもらえたら。
 

前のアカウントは、読者さんの声に耐えられませんでしたが。^^;(消しちゃった)

でも、わかりました。ちょこっとですが、勉強になりました。

色々な方が来る。でもきっと少数派なんですよね。声が大きいだけで。

気まぐれに来て、気まぐれに叫んで去っていかれるのが、分かったので良かったです。

いいねとかで、お顔も見せてくれないお方ほど、文句だけ言われるのですよね〜。

 

だから、良いんです。

良い方って、何も言わず読んでくれているのが、分かったので。

(いつもありがとうございます)

 

所詮、こんな隠れた自分の小さな世界なので、書いていこうと思います。

推しの色々なことも、去年よりは落ち着いてきたように思うので。

(ダメなら、下げれば良いしねっ)ラブラブ

趣味の合う方、良かったら、よろしくお願いします。ニコニコ飛び出すハート

(でも無理はしないでね?)イエローハーツ