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*お話の全てはフィクションです。

 

 

第8章「夜の薔薇」後編

 

 初めて、ニノが潤の前に現れた時は、驚いた。

 

突然、夜道で立っていた。

一瞬、身構えたが、別荘地で会った時のような、恐ろしい瞳はしていなかった。

 

「一緒に遊んでくれる?」

 

小さな子供のように、笑ってそう言った。

どうして良いか分からずに、家に連れて帰った。

 

ニノが自分を覚えてないことは、すぐ気が付いた。

 

 

 

「カズ、俺のことは潤君て呼んで?」

 

「潤君……どうして『潤君とカズ』って呼ぶの?」

 

「ああ……。だめかな?」

 

「いいよ……好きにして?」

 

そう言って首に抱きついて来て、潤の首筋に舌を這わしてきた時は、驚いた。

身体中痺れるように、感じたからだ。

 

真っ赤になって、ニノを、自分から引き剥がした。

驚いた顔で、ニノが見つめていて、いつもしてるだろうことが、分かってしまった。

 

 

 

「いつも、こんな事してるの?!」

 

カッと、頭に血が上って怒鳴ってしまう。

だが、驚いてるだけで、ニノには、怒っている意味が分からないようだった。

幼いまま時間の止まった従兄弟が、何をされて来たのか分かって、目眩がするほど混乱してしまう。

 

「ごめん、カズが悪いんじゃないのに」

 

「潤君、僕が嫌いだから怒ったの?」

 

グシャッと、胸の潰れそうな気がした。

思わず、抱きしめて慰めるように頭を撫でる。

 

 

「……違う。大好きだから、怒るんだよ」

 

 

そうして、ニノは、潤の家に、毎日来るようになった。

 

少しずつ、話を聞いて、ニノがどうやって過ごしてるか分かって来た。

 

日本での昼間の浅間は、よく留守にするようで、その間は家に一人で寝かされてるようだ。

夜も一度帰った浅間が、また出かけてしまうらしく、日付が変わる頃やっと浅間と過ごす時間になる。

意外と浅間は優しいらしく、ニノは浅間と過ごす時間が楽しみで、幸せなようだった。

 

 

 

「明日は、お昼にね、一緒に出かけるの」

 

そう言う顔は、本当に嬉しそうで、複雑な気持ちがした。

 

普段は、自由には出られないが、今は、潤には会ってもいいと許されている。

 

籠の鳥の休息が、潤との時間のようだった。

 

あれから、一度もニノが人を殺してる様子は無かったが、潤は不安だ。

吸血鬼の本性を出したニノがまた、誰かを殺しそうで。

 

 

 

 

「潤君、これなあに?」

 

ニノの声で、現実に戻された。

どこからか、探してきた小さなウォークマン。

昔、ニノがプレゼントしてくれたまま、使わずに大切にしまったままだった。

プレゼントされた日が、大昔のように思えて泣きたくなった。

 

「これは……。カズにあげる。曲とか聞いたりする?」

 

「聞いたことない」

 

「じゃあ、色々流行りの曲入れてあげるね? 一人で退屈な時に聞きなよ」

 

「浅間さんが退屈したら、たまになら誰かを殺して遊んでおいでって……」

 

そこまで言いかけたニノに驚いて怒鳴った。

 

「ダメだ! 殺すなんて許さないからな!」

 

初めて、ニノの瞳が揺れて、涙がこぼれ出した。

 

「ごめんなさい……。潤君、怒らないで」

 

震えて顔を両手で覆うと、俯いて泣き出した。

 

「ごめん! 違うんだ。いや、違わないけど」

 

震えているのは、怒られると恐ろしい目に、遭ってるのかもしれないと思って、心配になる。そっと、抱きしめて背中を撫でて慰めながら、思い迷う。

 

 

 

どうしたら、助けてやれるのか。

 

 

 

 

ただ、二人の時間は、幸せで仕方なくて。

 

……このまま、ニノを連れて、消えたかった。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

「翔ちゃん、俺が帰るまで部屋を出るな。危ないから」

 

「なに? 何する気? 秘密は、もうヤダよ! おいていかないでよ」

 

留守にされた時のことを思い出して、不安が蘇る。

 

大野が黙って、危ない目にあうかもと怖かった。

 

必死な翔に大野は驚いたが、諦めたように笑った。

 

 

 

「なんか、やっぱり翔ちゃん、変わったね。俺、好かれてるみたいじゃん」

 

「なに言ってんの! 好きに決まってるだろ!」

 

翔は必死すぎて、自分が何を告げてるか、分かっていない。

 

大野が心配で、正直に言ってるだけだった。

 

 

 

嬉しそうに大野は笑って、言った。

 

「じゃあ、一緒に行こう。おいで?」

 

学生寮を二人で抜け出した。

 

 

 

*********

 

 

 

二人で潤の家に、忍び込んだ。

 

そっと、庭の窓から覗くと、二人が見えた。

 

 

 

「ニノ……泣いてる?」

 

子供のように泣くニノを慰める潤が見えた。

 

泣いてる理由は分からないが、切なさが……こちらまで伝わるようだった。

 

しばらくすると、ニノが笑って、潤とウォークマンを触って遊んでるようだった。

 

 

 

「仲良いね……。なんか可愛い」

 

「そうだな。血も吸う気は無いみたいだな」

 

可愛い二人の姿は、神聖で優しい光景だった。

 

「……浅間は、いないみたいだけど。……どうするかな」

 

大野は、ニノが潤に近づかないように、警告するか迷っていた。

 

ニノは別れた日より、姿は数段綺麗になって変わっていたが、表情は子供にかえっていた。

 

子供の頃から知っている大野は、昔のままの顔を見てホッとしたし、懐かしかった。

 

 

 

 

 

……色々な思い出が、頭を過ぎっていく。

 

「……翔ちゃん、今日は帰ろうか。まだあの様子なら、大丈夫かもしれない」

 

「うん、邪魔したら可哀想だね」

 

 

 

そっと二人が帰った後、入れ違いに浅間が、ニノを探しに来ていた。

 

幼い子供のように、寄り添う二人をしばらく眺めると、苦笑して立ち去った。

 

――浅間もまた、迷い始めていた。

 

自分の手から生まれた薔薇が、さらに愛おしくて、仕方なかったから。

 

 

 

*********

 

 

 

「ニノ、それはどうした? あの男に貰ったのか?」

 

「うん。退屈な時に、聞くんだって」

 

「そう」

 

浅間はそれっきり、その事は言わなかった。

 

潤に貰ったウォークマン。

たくさん曲を入れてくれたけど、聞くのは1つだけ。

ねだって録音してもらった、潤がニノに話す声。

 

優しく、諭すように、教える声だった。

 

 

 

 

『カズ。誰も殺さないでほしい。どうしても殺したくなったら、俺の所に走って来て』

 

『悲しい時や、辛い時、俺の言ったことを思い出して』

 

『カズ、大好きだから、俺を信じて待っていて』

 

『絶対に、一人で灰にならないと約束して?』

 

(……待つって……なあに? 潤君……)

 

 

 

 

「ニノ、おいで」

 

ソファに座る浅間の膝に、小さな頭を乗せて、ウォークマンの彼の声を聞きながら。

目を瞑ると……ゆっくりと夢の中に落ちていく。

 

 

愛する主人のそばで、大好きな人の声を聞いて、幸せだった。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

学生寮に帰ると、大野がニコニコして、言った。

 

「翔ちゃん、もう1回言って?」

 

ドタバタ、パジャマで明日の授業の用意をカバンに詰めていた翔が、フリーズした。

 

「……なんの事?」

 

大野の言いたいことは分かっていたが、言いたく無かった。

 

「忘れたの?! 酷えなあ。俺、嬉しかったのにぃ」

 

ムウっと大野がつまらなそうに、ベッドにあぐらをかいた姿勢のまま、後ろに倒れた。

 

「でもさ俺の事、好きになった?」

 

「……俺、もう寝ないと。大野さん、どいてって」

 

誤魔化して、大野を退かせると、急いでベッドに入る。

 

「ねえ、なんで寝るの? 遊ぼうよ」

 

「ダメ」

 

「えええっ……つまんねえ」

 

翔が、布団を被って寝たふりをするのを見て、大野が微笑んだ。

 

……ニノが潤と幸せそうなのを見て、心からホッとした。

 

自分も翔と、幸せになってみたいと、思っても許される気がした。

 

 

 

 

「俺も寝る」

 

寝たふりの翔を後ろから抱きしめて、布団に入る。

大野の腕は温かくて、安心できたから。

翔は……一瞬で眠くなった。

 

 

 

**********

 

 

 

……毎日の記憶が、

夢の中で愛情に変わる。

 

愛情は、眠りながら、

こっそり育ってゆく。

 

愛おしい薔薇を、

皆それぞれが想いながら、

夜の海に沈んでいった。

 

 

 

<end>第9章へ。

 

 

 

 

 

 

+裏話+

 

自分で書いたんですが。(3年前くらい?)

なんて悲しい話なんだ(泣)とか思ってしまいます。^^;

 

でも、最後のニノちゃんが潤くんの声を聞いて、浅間さんの膝で眠るシーンは好きなんです。

吸血鬼に出会ってから、人生の殆どを悩んでばかりだったニノちゃんの、数少ない安心した眠りのシーン。

 

このシリーズはBL抜きでも色んなCPが存在します。

(っていうか、かなり後半まで色っぽいBLは少ないので)

 

末ズが1番純粋なCPかもしれません。

翔くんやニノちゃんの未来を危惧する相葉くんとか。

純粋な人ばかりだと、さらい難しいっていう難題ぶり。^^;

 

pixivで、加筆修正した過去の章(夢小説版)を全部UPして、新章は、pixivとAmebaで同時に掲載するべきか。…ちょっと迷ってます。汗うさぎ(いっそ全部pixivが良い?かなーとか)

 

2度目で読んで下さってる方が多いのでは?と思うので。

初めて読んで下さってる方って、どれくらいいらっしゃるのか。

閲覧数では、全然分かんなくて悩ましいです。汗うさぎあせる

(初めて読んでますって方、良かったらコメントで教えて欲しいです。この辺りまで、pixivで読んだよーとか。アメーバでここまで位とか、全部読んだよーとか。非公開希望と書かれていたら、非公開で載せませんから)

 

このサイトも他のサイトも、お休みついでに、あちこち変更中です。

(お話じゃない記事は、ここからは全て下げました。他のサイトの更新メモも、プロフィールから消しました)

 

もう少しお時間かかります。。。ごめんね。