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第7章「薔薇の悪戯」(3)
(3)
森で見つかった死体を見つけて、増田は倒れた事になった。
警察で、潤がそう言った。
ニノの話は、しなかった。
増田自身が、その日のことは覚えてなかったからだ。
探しに行った事すら、覚えてなかった。
家に帰る気にもならずに、増田と別れて翔へ会いに行った。
LINEを見て、翔は心配して追いかけようと思ったが大野に止められた。
厳しい顔で、行くなと言う。
大野を超えて、行くことが出来なかった。
「潤! 大丈夫だった? ニノはいたの?」
翔の部屋に入るなり、潤は座り込んだ。
大野は二人を見ながら、黙って座っている。
「ああ。でも。もういないのと同じだった」
「どうしたの?」
潤の憔悴した顔が、苦しそうに俯いて声を絞り出した。
「もう、別人だった。男を殺して、友達も殺そうとした、俺の前で」
「な……」
大野が、静かに立ち上がって、潤の前に跪いた。
「おまえを見ても、分からなかったのか?」
「多分。……無表情だった。悪魔みたいに綺麗だったけど」
翔が、大野と潤を見つめて息をのんでいる。
「もう、ニノには会うな」
大野が、低い声で言う。
「覚醒したのかもしれない。もし会えば殺されるだけだ」
潤と翔が言葉を失っている。
「あいつ……浅間が弄んでるんだ。ニノも俺たちの事も。気まぐれで遊んでるんだろう。覚醒させたことを知らせたいんだ」
ゾッとするような怒りを込めて、大野が呟いた。
*********
別荘の1つに、浅間がニノを連れて滞在していた。
ニノの陶磁器のような肌と白い顔の口元は、赤い血で濡れている。
浅間の血を与えられて、ほとんどもう、意識は失っている。
「無理をさせたね。しばらく休むといい」
吸血鬼の主人から血を与えられて、人形はしばらく眠る。
血が体に馴染むまで。『血の眠り』と言われている。
覚醒が始まって、浅間は喜んだ。
やっと自分のものになった事を、知らせたかった。
特別、何が目的でも無かったが、ニノをどれくらい自由にできるか試したかった。
あんなに恋焦がれて、家に帰りたがっていたのに、愛しい従兄弟にもニノは反応しなかった。
ただ、それが嬉しかった。
気が遠くなるほど長く退屈な人生は、歪んだ感情を育ててしまう。
色々、試したくて友達も殺させた。
男も誘惑させて、惨殺させてみた。
元の心の美しかった少年の変貌こそが、長すぎる人生に飽きた男を慰める。
自分と同じ悪魔のように、育てようとしていた。
美しくて獰猛で、残酷な吸血鬼の遊びは、いつだって、たくさんの命と引き換えだ。
「ニノ、おまえを手に入れて良かった。素晴らしいよ」
……浅間は、眠る人形の額に口付けた。
*********
潤は、あれから元気がなかったが、自分で折り合いをつけたようだった。
大野は潤の話を聞いてから、翔にその話は2度としなかった。
「大野さん。……大丈夫? その、辛くない?」
大野は、相変わらず翔の部屋でゴロゴロ遊んでいた。
「なんで?」
翔は、なんと言って良いか困ってしまった。
「翔ちゃん、良いんだよ。翔ちゃんは気にしなくて」
そんな翔に、大野は起き上がって笑いかける。
「でも……」
ニノが、攫われただけでなく、変わってしまって辛いはずだった。
「翔ちゃんはやっぱり、優しい子だな。俺も翔ちゃんに会わなかったら、浅間みたいだったと思うよ」
大野はベッドに寝転がって、うーんと伸びをした。
寝返りを打って、翔の腰掛けた方に、向きを変える。
「俺も、浅間も、人間はオモチャで、血を吸う為のものだった。俺だって最近だよ。可哀想だとか助けてやりたいとか、人間みたいに思うのは」
「前は、違ったの?」
「人間じゃないからな、俺たちは」
そこは、翔にはピンと来ない点だ。大野は人間に近いから。
「俺は、翔ちゃんが好きだけど、ちゃんと好かれたいんだ」
「え……?」
ニコニコ笑って、子供のように言う。
「いつか、翔ちゃんがちゃんと、俺を好きになってくれるまで待ってる。その時が来たら、本物の家族になってくれる?」
小さな子供が、可愛い好きな子にするプロポーズするようで、翔は真っ赤になってしまった。
「……うん。でも俺で良いの? 俺には……何もないけど」
「え? 変なこと言うなあ。人間だからかな? 好きに理由っている?」
大野は明るく笑って、翔の頬に軽く、口付けた。
「わっ! 大野さん!」
「好きって意味わかってる? 大事だって事だから、絶対危ないことしないで? わかった?」
「あの……はい」
赤くなった翔は、とても可愛くて、大野は手に入れたくなったが我慢した。
このまま自由で幸せに、普通の人生を過ごして欲しいから。
そんな自分の変化を、感じるのが、今は楽しい。
浅間とニノには、また何処かで会うことになるしれない。
その時に、翔たちを守れるのは、自分だけだ。
その時にもしも、自分に何かあっては、残した翔が可哀想だった。
純粋な翔は生きていられないだろう。
まだ特別な存在になるわけには、いかない、そう思った。
*********
薔薇は生まれた場所で、
それぞれ違う色、違う棘を身につける。
美しいもの、可愛らしいもの、
薔薇に見えないもの。
手折るのは容易いが、
育てるのは難しい。
薔薇を手折る資格があるとすれば、
育てた者だけだろう。
新しく咲く薔薇たちは、
これから季節の本番を迎えようとしていた。
<end> 第8章へ。
+裏話+
文字数多いかな?
1話の文字数の正解が分からない。
初めて読んでくれてる方とか、
長いなあって思うのかしら。
旧作読んで、また読んで下さってる方も、
どうなんだろう〜?って思います。
読みやすさや、楽しさは、
短い方がきっと良いですよね。
明日の場面はここかなあ?とか
想像できるし。
でも、過去章って
第23章までと番外編もある。
このペースだと時間がかかるなあ。
ちょっと、文字数が
多くなるかも知れません。^^;
次の第8章の末ズの場面が、
私は、大好きなんですよね。
また、読んでいただけたら
とっても嬉しいです。