*嵐妄想小説

*BL小説

*吸血鬼・ダークファンタジー

*末ズ妄想・大宮妄想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

第6章

「薔薇とチョコレートと白い薔薇の蕾」

 

(7)

 

 

帰って来た浅間に茜が来たことを言うと、想像以上に驚かれた。

 

「あの娘が来てたのか?」

 

「うん。なんか……励まして貰っちゃった」

 

「全く……。人間は時々、分からないことを平気でする」

 

違うテリトリー、吸血鬼の縄張りで、人間の子が好き勝手にして帰るなんて聞いたことがなかった。

 

ニノが、何だか嬉しそうに少女の話をするのが不思議だった。

 

「あの子が気に入ったんだな? 貰ってこようか?」

 

笑いながら、浅間が冗談で言う。

 

「絶対ダメ。あの子は、あの人が一番好きなんだから」

 

ニノが何気なくいう言葉にも色々考えて、浅間はため息を吐いた。

 

「そうだな」

 

その横顔が寂しそうだったので、ニノが後ろから浅間に抱きついた。

 

「……ごめんね」

 

「何に謝ってるの?」

 

「……色々」

 

まだ、過去に未練の残る自分が、浅間を傷つけてる気がした。

 

……もう、ジュンには、会わない。

優しくなった浅間に、辛い思いをさせたく無いと思った。

もし、自分がもうすぐ死ぬなら、尚更だった。

 

一人残された浅間を想像して、胸が痛んだ。

 

 

 

**********

 

 

ニノの部屋から帰ると、茜はすぐに帰ったばかりのヒルダに、言い出した。

 

「ヒルダ、日本に行きたい。大野って言う吸血鬼に会いたい」

 

「大野?」

 

「浅間の連れた子から匂う血の持ち主の名前なの」

 

ヒルダは、心底、驚いた。

 

「あなた、どうやって聞いたの?」

 

「ヒルダが出かけてる間、ずっとあの子の部屋でおしゃべりしてたの」

 

「……っ信じられない。本当に? 殺されるわよ? 人間て怖いわね」

 

「そう?」

 

ヒルダは、茜の顔を愛おしそうに撫でると、声を出して笑った。

 

「さぞ、浅間は驚いたでしょうねえ! その顔が見られなくて残念だったわ!」

 

「そんなに、面白いこと?」

 

茜は、不思議そうだった。

美しい顔は、ヒルダといると、益々輝いて、可愛らしくもなった。

 

ヒルダは、しばらく声を出して笑って、茜に約束した。

 

「あの人……日本にいるのね。名前まで変わって。面白そうね。あなたの好きにしてあげるわ」

 

ヒルダには、最後の旅になるだろう。

できるなら、茜をこのまま救う方法を探そうと考えていたが、茜の意思は堅そうだ。

 

……大野との再会に賭けようと、ヒルダは思った。

 

 

******

 

 

 

ニノが、チョコを買いに行くことは無くなった。

浅間が、連れて行ってやろうと言っても、行きたく無いという。

 

「どこか、他の所に連れてって」

 

「そうか、どこが良いかな」

 

「どこでもいいよ。でも、行ったことないとこが良い」

 

ニノが、最近は浅間に良く甘えてくるようになった。

同じ部屋にいる時は、必ず浅間にべったりくっ付いて座っている。

嬉しかったが、愛おしさが増すほど、弱った体が心配になった。

 

血を与えると、元気にはなるが、そうするとしばらく動けなくなる。

血を飲ませると、何日も意識が無くなって、体に血が馴染むまで目が醒めない。

ニノは特に、時間がかかるようだった。

今は、それより危なくなったパリを、早く出なければならなかった。

好奇心の強い、長い人生に飽きている吸血鬼に、狙われているはずだった。

 

「パリを出て、違う国でゆっくり休もう。そこで元気になったら、遊びに行こう。それでいい?」

 

「うん」

 

ニノが笑うと、嬉しいなんて、やはり自分が吸血鬼じゃないようだ。

 

ただの人のようだと、浅間は改めて思った。

 

 

 

+裏話+

 

pixivで、初稿の掲載当時。

「ニノは幸せですか?」

って心配する声がありました。

 

浅間さん(PDの刑事)は、

私の中ではニノちゃん=PDの神楽なので。

幸せですよ〜って、返事した気がします。

(納得されてはないと想うけど)

 

今度は別の声が。

「潤君は?」って。

 

おお、なるほどってなりました。

そうだわ。潤君だなあって。

私の中のイメージで書いた、

正義感の強い優しい潤くん。

 

他の長編でも潤君は、

自分が死んでも人を殺さない、

そういう人に書きました。

 

第6章までの潤君の幸せは、難しい。

なんとかしなければっ。

 

潤君が従兄弟のニノちゃんを想う純粋さ。

そこを書いていると、さらに長くなりました。

 

献身的な潤君の幸せも、この物語のゴールです。

もっと……がんばらんと。^^;