*嵐妄想

*BL小説

*お山妄想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

 

(4)

 

「俺の?」

 

「はい。貴方が駅の裏の公園で、黒人の子供さんと歌いながら踊っているのを見たんです」

 

「……ああ、時々。一人で留守番してる子供がいて、一緒に遊んでやってるんだ」

 

ここは外国人の多い町だ。

 

仕事に追われている両親が、小さな子を留守番させている事も多い。

 

友人になったミンと一緒に、その子の親も知り合いだから、たまに子守りもしたりする。

 

子守りって言っても、一緒に遊んでるだけだけど。

 

「ミン君が、貴方を見て自分の兄だって……」

 

「それで、俺も外国人だと思ったの?」

 

「はい……すみません」

 

「全然似てねえけど?」

 

「それも、言いました。でも、似てないけど兄だって」

 

俯いて恥ずかしそうな彼。

 

ミンの適当な日本語は、細かい説明は無理だったのかも。

 

「そっか……ごめん。俺こそ、感じ悪い返事して」

 

「いいえ! 勝手に親近感覚えて、話しかけちゃって。初めてお話しするのに……」

 

彼は、何度かクリーニング屋に来て、その度に俺を見かけたらしい。

 

「……すごく、綺麗な声ですよね? 音楽とかされてるんですか?」

 

「いや、全然。歌ってたのは、外国人の子供に教えてもらっただけで」

 

一緒に歌って踊ろうって、いつも子供らが言うんだ。

 

「ええ? すごく上手かったですけど?」

 

キラキラした瞳で、俺を見つめて言う。

 

こんな可愛い顔で、言うなんて反則だと思う。

 

「……そ? ありがと」

 

何か、恥ずかしい。

 

どんな風に見てたんだろう。

 

 

 

でも、駅は目の前。

 

駅まで送ったら、俺の役目は終わり。

 

 

 

 

「じゃあ、ここから一人で帰れる?」

 

駅の改札の前で、思わず言った俺に彼が笑う。

 

「はい、ここからは大丈夫です」

 

「あんまり、来ない方がいいよ? ここは危ないからさ。他にクリーニング屋なんて、いくらでもあるし」

 

「……俺、ここに来るのってダメですか?」

 

「……え? そうじゃないよ? きみ、その……綺麗だから危ないと思うから……」

 

「き、綺麗っ……?」

 

「あ、あ、ご、ごめん! 変なこと言った! 忘れてね!」

 

彼は、真っ赤になってるし、俺も赤くなりそう。

 

「……」

 

恥ずかしそうな彼がいう。

 

でもよく聞こえない。

 

「何? 何か……」

 

「あのっ、名前聞いてもいいですか?」

 

「え? 名前? 俺の?」

 

赤くなった彼が、大きく何度も頷く。

 

「大野智。……きみは?」

 

「……櫻井翔と言いますっ。あの、名刺ありますっ。お渡ししても良いですか」

 

「ああ。俺、名刺ないけど」

 

「構いませんっ」

 

その時、風が吹いて、そばの桜の花びらが空高く舞い上がった。

 

舞い上がった花びらたちが、俺と彼に降ってくる。

 

二人で黙って、その綺麗な花びらを見つめていた。

 

……すごい綺麗だなあ。

 

彼がくれた名刺。

 

その名前の上には、ピンクの綺麗な花びらが。

 

……櫻井翔。

 

この桜と同じ、綺麗な人だと、また思った。