*嵐妄想小説

*末ズ妄想・大宮妄想

*吸血鬼・ダークファンタジー

*物語の全てはフィクションです。

 

 

第6章

「薔薇とチョコレートと白い薔薇の蕾」(3)

 

 

 

 パリの観光というよりは、ジュンのお気に入りの店や場所を巡りながら、ジュンの身の上話を聞いた。今年で28歳だという。

東洋人の上に、スタイルの良さと上品な物腰で、すれ違う人たちが振り返る。

 

 

 

「仕事はさ、なんでも良かったんだ。お菓子を特別好きなわけじゃ無かったから、最初はバイトでね」

 

「日本人でしょ? いつパリに来たの?」

 

「10年前かな。家出してそのままフランスで、ウロウロしてた。絵を描いたり、音楽を勉強してみたり」

 

「凄いね……!」

 

「このフランスで知り合った恋人が、全部面倒見てくれたんだけど、どれも楽しく無かった。恋人と揉めて別れて、諦めて違う国に行こうかと思ったけど、今の菓子店のオーナーに会って雇って貰ったんだ」

 

「オーナーさんて、良い人?」

 

「良い人だよ。ついでに言うと俺の恋人だし。オーナーは結婚してるけどね」

 

「えええっ……。なんかヤダ。そういうの」

 

ニノは、それは愛人と言われるやつじゃ無いかと、心の中で思った。

 

「ニノは、まだ子供だから仕方ないよ。大人になったら分かるかも」

 

「わからないよ、……大人にはならないからね」

 

冗談ぽくニノが言うと、ジュンも笑った。

 

 

 

 

14歳で止まった時間は、二度と進めない。

 

大人になる日も、来そうに無かった。

 

 

 

「でも、お菓子は合ってるみたいでさ、楽しいんだ。お客さんが喜ぶ顔を見るの楽しいし、ニノみたいに可愛いお客さんもいるしね」

 

そう言って綺麗な顔で、口説くように微笑まれると、恥ずかしくなった。

 

「……ジュンは、モテるんじゃない?」

 

「ああ、もちろん。『すごく』モテるよ」

 

「ふふ……自信家なんだね」

 

「違うよ。正直なだけさ」

 

 

(……潤君も、すごくモテてたっけ。でも、もっと繊細でシャイだけど)

 

自信家で、自由で、楽観的な青年は、従兄弟とはタイプが違っていた。

 

(でも。顔は潤君にそっくり。どうして『ニノ』って言ったんだろう。『カズ』って呼んでって言えば良かった)

 

皆が『ニノ』と呼んでも、従兄弟だけは頑固に『カズ』と呼んでいた。

 

 

 

「オーナーにニノの話をしたら、知ってたよ。君の……家族? それともパトロン? 彼と知り合いだって」

 

「パトロンて、何?」

 

ジュンは爆笑して、ごめん、悪かったと言いながら笑いが止まらない。

 

「ねえ、ちゃんと言って?」

 

「いや間違えただけだから。忘れて? そうだよね、ニノの性格じゃ、あり得なかった」

 

 

外のカフェで、楽しそうな二人は、可愛らしくて目立つから、皆がチラチラ見ていく。

パリの夏は、日が長い。夜の9時位まで、明るいから二人は時間を忘れてしまっていた。

 

「あ、今何時? パーティー遅刻だ!」

 

浅間に呼ばれたパーティーは、とっくに始まっていた。

 

 

 

**********

 

 

 

パーティーは、始まっていたが、人の出入りの激しいカジュアルな立食形式だった。

 

浅間は友人と談笑しながら、調べさせたあの青年の店のオーナーが、ここに来ることを知って目で探していた。

 

(世間は狭いな。知り合いだったとは)

 

急に出入り口の辺りの声が高くなった。

どうやら、有名な女性が絶世の美少女を連れて現れたらしい。

 

「浅間、彼女が来たよ。何年ぶりかな、パリで見るのは。君も久し振りだろう? 今度は美少女か。いつも凄い子を連れてくるな」

 

知人の医者が浅間に、嬉しそうに話す。

興奮しているのは、彼女のファンだからか。

浅間は彼女をよく知っていたが、苦手なタイプで、できるだけ関わりたく無かった。

 

女性は、艶やかなグレーにも、白銀にも見える髪を綺麗に結い上げ、薄いグレーの瞳には獰猛な光があった。

高そうなドレスを着た細い腰には、飾りのように、美少女が纏わり付いている。

 

真っ白な肌に、赤い唇。

20代に見える姿の影は、千年以上生きた者のものだ。

 

連れの美少女は、真っ黒な美しい長い髪の日本人で、細い体を白い薔薇を思わせるデザインのドレスで飾り、その瞳には冷たく光る敵意が宿っている。

 

同族なら、決して見間違えることの無い、その女性は吸血鬼そのものだった。

 

 

 

(ヒルダか……厄介な女が来たもんだ……)

 

ニノが来たら、すぐに帰ろうと思ったところへ、真っ直ぐにその女性、ヒルダは浅間に向かって来た。

彼女の獲物を狙うような視線に、普通の人間は気が付かないが、浅間は気分が悪くなった。

 

「ごきげんよう」

 

浅間の知人に断りを入れて、二人で話す為に会場の奥へ強引に浅間を移動させた。

 

「やっと、会えた。今日は、あの男の子は連れていないの?」

 

「……どういう意味だ?」

 

ニノを連れて、公の場に来たことは無かった。

パーティーに呼んだのも、今日が初めてだった。

 

「あなたの連れた男の子に会いたくて、ここに来たのよ。少し前に、二人でいるのを見かけたの。……驚いたわ」

 

「……残念だが、お前に紹介する気は無いよ」

 

「わかるわ。私なら勿体無くて、危なくて、同族の目には付かない場所に隠すもの」

 

「盗みたくて来たのか? それとも殺しに来たのか?」

 

ヒルダは、クスクス笑うと、連れの少女にドリンクを取りに行くように言った。

 

 

 

 

「あなた、変わったわね。昔だったら私の一言でグラスを捨てて出て行くか、その辺の人間の首を折っていたのに」

 

「お前こそ、わざわざ、私に会いになど来なかっただろう。どこで見たか知らないが、お前とは会わせないよ」

 

「まあ残念。じゃあ、どうやってあの子を『作った』の? もうこの辺じゃ、みんな知ってるわ。私もそれを聞くために来たんだから」

 

その時、また少し離れた場所で、人が動いて響めいた。

 

 

……待ち人たちの到着だった。

 

 

 

 

+裏話+

女吸血鬼ヒルダと美少女はお気に入りです。

別のシリーズで女吸血鬼を書いたくらい。

残酷さ、美しさ、賢さ、獰猛さ、それゆえの愚かさ。

 

愛情を知って愛する人を持ってしまった吸血鬼と美少女。

儚く散って消える彼女たちは、最後は幸せだったのか?

(第4章「白い薔薇の蕾」に登場。その後も登場するんですが)

今も、それは正解が分からないままです。

 

何が幸せなのか、それを考えながら書く機会の多いシリーズです。

その疑問も。答えのない答えも。

彼女たちが消えた後でのシリーズでは、由紀夫が引き継いでいます。

その最後を知っているあの亀梨少年とナルセ(大野)の出会いも。

過去に由紀夫と出会った吸血鬼ナルセ。

ナルセと由紀夫の複雑さ。

それは結局、翔くんとの出会いを呼んだんですよね。

翔くんこそが、最後の答えになるかも知れません。

 

姿や名前が似ているのは。

この世の出会いや因縁のサインだと思っています。

スミちゃんと相葉君が似ていたこともそうです。

2人は直接血は繋がっていませんし。

 

どうしてそう思うの?って思いますか。

それは、私がこれまで見てきた事だからです。

自分の事だけではなく、知り合った人々からの答え。

 

色々な答えを考えながら書いているようです。

ようですって言うのは。

書いているときは無意識なので。

自分で読み返して、これがそうか。

そう思うことが多いです。

歳をとるのも悪くない。

答えを見つけた日は、いつもそう思うんですよ。

 

ただ、吸血鬼の答えは難しい。

残念な事に吸血鬼じゃないので。

 

(^^)いつもありがとうございます。

 

2024/3/30(土)