『雪の女王に抱かれて』その後。

*嵐妄想小説(大宮妄想)

*BLよりもブロマンス寄りの妄想。

*pixivには夢小説(CP変更可能)で掲載。

*6500超文字なので ^^; お暇な時にでも読んでいただけたら嬉しいです。

 

 

 

 

※このお話の登場人物等、全てフィクションです

 

 

 

 

心臓に刺さったカケラが無くなって、

凍った心臓は動き出す。

 

冷たくて悲しい、雪の女王の城は遠くなった。

 

だけど……新しい人生のその先を。

 

彼らは、まだ……知らなかった。

 

 

 

『雪の女王は知っている』

 

 

 

智と和也 が再会してから2年経ち、高校を卒業して同じ大学へ通うことになった。

 

結構な難しい有名な大学へ合格するために、二人で猛勉強した。

そのお陰で晴れて揃って大学生だ。

勉強嫌いの智が頑張った事を、1番喜んで祝ってくれたのは所属事務所の相葉社長だ。

 

「智、凄えよ。お前とは思えない。絶対落ちると思ったもん」

 

「オレが、本気出して落ちる訳ないだろう?」

 

「まあね。元々、頭良いもんな。偉い偉い」

 

この2年で智は、さらに有名になってドラマや映画にも出るようになった。

背丈も伸びて、体も鍛えるようになったせいで、筋肉もすごい。

一方、和也の背丈は少し伸びたけれど、食も細く華奢なまま綺麗になった。

 

事務所で相葉と智は、打ち合わせの後、二人で簡単にシャンパンで乾杯した。

 

逞しくなり、男っぽくなった智だが、中身はそう変わらない。

 

「で、大学のそばにマンション借りたんだろ? いつ引っ越してくんの? 和也ちゃん」

 

「卒業式終わったら。和也の親父、4月から転勤らしいから、その前に」

 

「一緒に住むのに、いい口実できて、ラッキーだったな? ホント運が強いよ、お前」

 

「それは自分でも思うよ」

 

智はご機嫌で、話しながら和也にLINEしている。

 

相葉は、それを見て……ちょっと間を置いて聞いてきた。

 

「お前と、和也ちゃんてどうなの? 1回さあ、聞いとこうと思ってたんだけど」

 

「どう? 何が?」

 

「どういう関係なの?」

 

「は? なに? 親友だよ?」

 

「いや、仲良いのは知ってる。〇〇してんのかって話……」

 

言いかけて途中で、智が怒り出す。

 

「おい! エロ親父、何言い出すんだよ?」

 

はあああっと、相葉が頭を抱えてため息をついた。

 

「お前、まだ分かんないの? 和也ちゃんお前のせいで死にかけるほど、好きじゃん。責任取らないの?」

 

「責任て。取ってるよ? この2年は過保護なくらい、大事にしてるじゃん」

 

「じゃあさ、和也ちゃんに恋人出来たら、ちゃんと離れてあげれる?」

 

「恋人できたって、関係ないじゃん。一生一緒にいるんだから」

 

芸能界で15歳からデビューして散々遊び回ってきた男だが、和也の事は小学生時代と変わらない気持ちのようだ。

 

「和也ちゃんも、自分の気持ち分かってなさそうだしなあ。お前ら、親友で良いなら良いけど。でもお前は遊びまくってるから良いかもしれないけど、和也ちゃん……まだ恋人いた事ないんだろ? 大丈夫?」

 

「だって、和也は興味ないみたいだし」

 

「じゃあ、俺が色々教えてあげようかなあ。変な奴に引っかかって怖い目に遭っても困るだろ?」

 

「変態はお前だろ! 手ェ出したら殺すから!」

 

相葉は、ゲラゲラ笑いながらシャンパンを注いで一人で飲んでいる。

 

「智は、面白えなあ。まあ先のことは二人で考えなよ。困ったら和也ちゃんなら、俺が家に預かってあげるから。」

 

「子供に何する気なんだよ、変態め」

 

相葉は意外と大真面目だが、智には誰かに和也を預けるなんて考えられない。

 

一生一緒にいるつもりだ。

 

(大学卒業したら急いで稼ぐし、海外で会社作って二人で暮らすんだから)

 

 

 

和也は、もう二度と離さない。

 

もう寂しいのは、耐えられないから。

 

智は恋人なんて遊び相手で、お互い溜まった欲求を吐き出すだけの関係しか無い。

 

今だって、適当に遊ぶ相手には困らない。

 

(でも和也が……もし、恋人ができて結婚したいって言ったら……)

 

この世で家族だと思っているのは、和也一人だけだ。

 

……初めて智は不安になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

和也は、天然なところがあって、今ひとつ異性や恋愛にも興味が無い上に鈍くもある。

 

18歳になろうかという男子としては、ある意味不健康だった。

 

たまたま、2歳上に仲の良い潤と翔がいて、この二人もモテるのに特別女の子と付き合っては無いようなのも影響している。

 

卒業式までの休みに入って智が泊まりの仕事でいないから、潤と翔と夕飯へ出かける事になった。

 

「和也。毎日、智と会ってんの?」

 

「うん。晩御飯は、智ん家で食べてるよ」

 

美味しいと評判の洋食屋に3人でテーブルに座る。

3人とも、それぞれアラカルトで、食べるのに苦労しそうな品数の料理を頼んだ。

 

 

 

「潤と話してたんだけどさ、和也は大学出たら何すんの?」

 

「え? あ、智が一緒に仕事しようって、会社立てるって言ってる」

 

熱々のシチューやエビフライ、シーザーサラダに大きなハンバーグ等がテーブルに並んだ。

 

「ちょっと多いなあ。こんなに食べられるかな」

 

「和也、もうちょっと食って太れよ。痩せすぎだよ」

 

潤と翔も、兄弟のように和也に優しい。

2年前和也が死にかけてからは、特に過保護になってしまった。

和也もこの二人だと、何でも話せるので気が楽だ。

 

 

 

「あのさ、二人はどうやって断ってるの?」

 

「何の話?」

 

「付き合ってって……言われた時」

 

「女の子?」

 

「う……ん。男もいる」

 

「まあ……誰か気に入らなきゃ、決まった人がいるって言っとけば?」

 

「断ってるんだけど。付き合わなくて良いからって、昨日もさ……」

 

 

 

 

最近始めたアルバイト先の高校のOBの男に、迫られてどうしても離してくれない。

 

和也には、何が良いのか自分に迫る男の気がしれない。

 

場所も悪かった。

 

みんな帰って二人きりの店だった。

 

客席のソファに強引に寝かされて、ちょっとだけと体を触られた。

 

面倒で好きにさせてるとエスカレートして、仕方なく足で蹴って逃げ帰る羽目になったのだ。

 

 

 

「ひ〜っ! お前! 何を触らしてんだ! 恐いよ!」

 

「そ、それ、智に言ったのか?」

 

「バイトの事は言ってなかったから、言ってない」

 

「言わない方が良いかも。ヤバそう。ってか和也も鈍いぞ? 何かされてからじゃ遅いんだぞ?」

 

「え? 何かされんの? 男でも? ……次は気を付けるよ。……触らせちゃダメなんだね。(知らなかった)別に男同士だから大丈夫かと……」

 

「危ない以前に、お前はちょっと怖すぎる!」

 

寿命が縮まるよと二人に言われて、やっと危ないかもと思った和也だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

和也を家に送った潤と翔は、帰り道で心配していた。

 

「潤……俺、和也が心配だわ」

 

「俺も。……智と付き合ってんのかと思ってたよ。はっきりとは聞きにくいからさ」

 

「そうだよな? あの二人仲良すぎんだもん」

 

「でも、これから大変なんじゃね? 和也はあの調子だし」

 

自分たちの仲の良さには、気が付いていない二人も和也と同類かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

地方の仕事が終わって、智が和也にお土産でも買おうと、駅前のビルに寄ると。

 

なぜか和也が店員としてレストランにいるのが見えた。

 

考える前に、体が先に動いて店に飛び込んだ。

 

サングラスにマスクの智は、有名人だとはバレないが、美しい影とスタイルの良さは隠しようが無かった。

 

「和也! 何やってんの?」

 

「え……? 智……なんでいるの?」

 

「聞いて無いんだけど? バイトしてんの? もしかして?」

 

「あの、うん……」

 

「何時まで?」

 

「あと20分かな……もう終わりだから」

 

「……わかった。待ってるから一緒に帰ろう」

 

明らかに怒っている智に、和也はオロオロしている。

 

ホールのリーダーらしい男が、和也を見つめている。

 

その視線に気がついた智が男を冷たく睨んで店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

智は、和也がバイトを終えて出てくると無言で腕を掴んでタクシーに乗ってマンションに帰った。

 

 

 

 

「和也、先にシャワー浴びておいで」

 

「あの……」

 

「早く。……オレもシャワーするから」

 

「うん……」

 

和也が、智の顔色を伺いながら風呂場に向かう。

 

智はイライラと荷物を片付けながら、和也を見ようとしない。

 

 

 

 

すぐにシャワーを済ませた和也が、パタパタと濡れた髪をタオルで拭きながら、Tシャツとスウェットに裸足で智のところへ戻ってきた。

 

「あの……ごめんね? 言おうと思ってたんだけど。誰かに聞いたの?」

 

「……偶然通ったんだ」

 

「そっか……」

 

ホッとしたような和也に、勘のいい智が気が付く。

 

「何か隠してるだろ?」

 

「何かって……?」

 

動揺した和也がフラついて、智が腰を抱いて支えると、T シャツの裾から肌に薄く残った手形が見えた。

 

「っ?」

 

智の視線の先に気が付いて、手で隠そうとするが先にシャツを捲られる。

 

「これ、どうしたの? 誰の手形? 大きいじゃん、男?」

 

「だ、大丈夫! お、……いや何も……されなかったよ?」

 

「はあ?!」

 

「ちょっとだけ……あの付き合ってとか言われて、触られて。で、でも足で蹴って逃げたから!」

 

「ちゃんと、話せっ……!」

 

キレそうになりながら、和也を壁に押し付けて両腕で囲い逃げられない体制にすると、睨みつけて責めるように聞く。

 

「何にも無いから。ほら、オレ男だから大丈夫だったよ……?」

 

「隠し事されんのは、許せないんだよ!」

 

真剣に瞬きもせず見つめる智に、どうして良いかわからない。

 

「ごめん……」

 

 

 

はあっと、智が息を吐いて、和也をソファに座らせた。

 

相変わらずの自分の勝手さや、短気さに気がついたから。

 

 

 

「和也、なんでバイトしてんの」

 

「え? みんなしてたから」

 

「みんなしてたら、するの?」

 

「お小遣いは自分でと思って」

 

「金ならあるよ」

 

「智が会社するためのお金だもん」

 

「違うよ、会社は暮らす為だけのものだから。良いんだよ」

 

自由に和也と暮らせたら、何でも良いんだとは、彼は分からない。

 

この2年間、お人形のように和也は、智の言うことだけ聞いてきた。

 

それだけに、急に和也が変わり始めそうで……恐かった。

 

「急に怒ってごめん、和也」

 

「オレが、言わなかったから……ごめんね? 疲れてたんだよね? 仕事だったんだもん」

 

 

 

「いや……。あのさ……和也は好きな子とか、恋人が欲しいとか思わないの?」

 

「え? いらないけど……。智は欲しい? それとも……いるの?」

 

「え?」

 

驚いた顔で、和也に聞かれてドキッとする。

 

「特別なのは、いないけど……」

 

歯切れ悪く答える智に、和也が何かを察して俯いた。

 

 

 

「いるんだね。そりゃいるよね。スターでカッコイイんだもん」

 

誤魔化すように、和也を抱き寄せた。

 

和也が目に見えて、がっかりしたように元気が無くなった。

 

「和也が嫌なら、全部切るよ?」

 

「……ダメだよ、それって『……処理』なんでしょ? 知ってる、教えてもらったから」

 

「どういう意味? 和也はその……そんな気持ちあるの?」

 

和也は、智の腕から離れようとするが、離してもらえない。

 

智は、自分より小柄な和也の顔を覗き込んで聞いてみた。

 

「ね? どういうこと? 誰に……」

 

潤たちは、そういう話題は嫌うようだから、違うだろう。

 

そうなると、この2年間、狭い人眼関係しか持たせなかった和也のそばにいるのは。

 

「……うちの社長に、何て教えて貰ったの?」

 

「疲れたり……酔うと、色々したくなるんだって。ほら、昔、毎日相葉さんとこにいたでしょ?」

 

ここまで聞いて、嫌な感じしかしない。

 

「オレ、あの時お酒飲んで毎日おかしかったから、相葉さんが『教えて』くれたよ」

 

「……何を?」

 

和也は、罪悪感も薄いようで、その問いの重さも感じないようだった。

 

「みんながする『処理』……仕方とか分かんなかったし、オレも酔っ払ってて。……あんまり覚えて無いんだけど。」

 

 

 

智は腹の底から、何かグラグラしてくるのが分かった。

 

それを堪えて聞くが、声が低く変わるのは抑えられなかった。

 

「どんな風に教えてもらったか、教えて?」

 

小さな子供に聞くようにできるだけ優しく聞く。

 

「えっとね……」

 

和也は真面目に答えようとするけど……何だか嫌だった。

 

「いや、それは後で聞くよ。それより和也は……社長の事好き?」

 

 

 

「好き? 普通? わかんないけど……。オレが特別に好きなのは、智だけだよ」

 

 

 

なんでも無いように、当たり前のように言う。

 

「だから、ずっと一緒に居たい。でも迷惑かけたり……智が嫌なことは……したく無いんだ」

 

智は、驚いて言葉が出なかった。

 

和也は、どう思って言ってるのか、それは智にしか伝わらないだろう。

 

嘘偽りなく、一言ずつ愛されてると信じられる響きが感じられる。

 

 

「和也……」

 

 

音が消えて、静かな感動があった。

 

智の孤独を、唯一癒せるのは和也だけに違いない。

 

 

 

「……和也は、オレにどうして欲しい? して欲しいことある?」

 

「無いけど。でも一緒にいたい。いても良いんでしょ……?」

 

「ああ、当たり前だよ」

 

智は、和也の恋愛と性への考えがまだ育っていないことに驚きながらも、どこかで喜んでいた。

 

欲しいのは、智だけだと、こんなに望まれて嬉しいと思うことは無かった。

 

和也に手を出してきた男にも、相葉にも殺意に近いものが、湧き上がったが。

 

 

 

一番和也を傷つけそうなのは、自分でしかない。

 

 

 

 

 

……これは、恋愛なんだろうか。

 

それとも、友情の深いものなんだろうか。

 

お互いが、まだ何も欲を持たずに寄り添っている。

 

ただ、愛してるだけで。

 

運命の相手とは、こういうモノなんだろうか。

 

 

 

しばらく、智は黙って、和也を抱きしめていた。

 

和也も、智の腕から、逃げることは無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和也の卒業式が終わって、智との暮らしが始まった。

 

生活は変わらずに静かに過ぎてゆく。

 

これから、どう変わっていくかは分からない。

 

 

 

智は自分の嫉妬深さが怖い時もあったが、和也がまるでそれを当たり前に受け止めてくれている。

 

相葉とは、ひどく揉めて喧嘩になったが、想像よりも大した内容では無かったことを確認して収まった。

 

和也には、自分以外と出来るだけ長くいないように誘導している。

 

お互い、この世で唯一の運命の相手だ。

 

そんな智も、間違っても雪の女王のように和也を、氷の宮殿に閉じ込めないように肝に命じた。

 

……例え、本人が望んでも。

 

 

 

暖かく、春が来る世界に、二人で暮らしたい。

 

世界が変わっていくのを、二人で見届けたい。

 

智は、長く暗い子供時代を乗り越えて、やっと新しい人生が始まったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、和也が時々何か考えて、黙ってしまうことがある。

 

智は、それに気が付いて声をかける。

 

その時は、この世の中で和也にだけ見せる、1番優しい笑顔を向けてくれる。

 

今日も二人の住むマンションで、智の出ているラブストーリーの映画を観ていたら、和也の様子が変わって黙ってしまった。

 

ちょっとずつ、智の隣から、離れようとする。

 

 

「……? どうしかした?」

 

「……ううん。何か……ううん。何でもない」

 

何だか和也が、赤い顔で落ち着かない様子だ。

 

「風邪ひいたとか? 顔、熱があるみたいに赤いけど……」

 

和也の額に、智は自分の額を当ててみる。

 

智の手が小さい頭を押さえてるので、和也は固まったように動けない。

 

「熱はないみたい? 大丈夫?」

 

熱が無いことにホッとしたように、智がゆっくり和也を解放する。

 

でも、和也は落ち着かない。

 

「……? ちゃんと、何かあるなら言えよ? 和也」

 

「変なんだけど……。何かドキドキしてくんの。二人でいると。智がカッコ良すぎるからかなあ……」

 

不思議そうに、真剣に言う和也の顔を見て、智が一瞬、時間がとまる。

 

 

 

「和也……。おまえって、本当に……」

 

そこまで言って、クスクス一人で笑い出した。

 

「ええ? なんで笑うんだよ!?」

 

「いや、何でも無いけど」

 

智は、嬉しくて笑いが止まらない。

 

子供扱いされたことが伝わったようで、和也の顔が膨れっ面になる。

 

ヨシヨシという感じで、華奢な体を強引に抱き寄せた。

 

 

 

「一生このままでいて?」

 

色っぽい低音で智が囁いて、和也が腕の中で動け無くなってしまう。

 

何か言い返したいけど、息が詰まる。

 

何でか、言葉にならない。

 

 

 

 

智は……、和也が自分で気が付くまで、そっと大切に守っていこうと思って微笑んだ。

 

その時、二人はどうなるか。

 

それは、その時考えよう。

 

時間は、まだ十分ある。

 

 

 

あの日の雪の女王なら、この先を知っているかもしれない。

 

和也(子供のカイ)を攫った雪の女王こそ、自分の一面でもあるのだと。

 

……そう思った。

 

 

 

 

 

<end>