オリジナルBL小説(全てフィクションです)

これとは別に妄想編(アメンバー限定)夢小説編(pixiv他)があります。

 

 

(1)

 

あるところに、麻生という名の男性がいました。
明るくて爽やかな、モデル体型の美形という以外は、普通の人に見えました。

 

けれども。

 

これは秘密なのですが。
実は麻生くんは、忍びです。

忍者に、近い組織の末裔です。
 

でも、隠れるのが苦手な忍びは、ポンコツなので、厄介者扱いされていました。
大きな失敗が続いた為、跡取りにも関わらず、本家を追い出されて、店を出しました。

お店は小さいですが、オフィス街のはずれで、富裕層が通う、有名店になりつつあります。


 

***


 

「こんな場所に、こんな店あったっけ?」

 

「さあ……知らなかったね」

 

会社員や女の子が噂する、オフィス街のはずれの路地には、可愛いお店があります。

犬と猫の可愛い看板。
店の名前は、「愛luvPet」
高級なペットの服やペット・グッズを売っています。

 

一着が数万円から100万するペットの服は、大人気でお客様は、絶えません。
オーダーメイドは、さらに高いけれど。
ステータスとばかりに、お金と暇を持つ客は、買いに来ました。
犬や猫、たまに猿や、フクロウまで連れてきます。
代金は、必ず、現金です。

 

そして、裏のお仕事があります。
ペットの服を買うふりで、お客はそれをメインに、やってくるのです。

洋服と一緒に依頼する案件は、一件100万円からです。
 

案件は、誰かを失脚させる資料を盗んだり、事故を起こしたり、黒くて怖い仕事です。
ややこしくなると。
……時々、人も消えてしまいます。

裏の組織の末端の店でありました。


 

***


 

「麻生さん……良い加減にして?」

 

「ごめんごめん、ちょっと張り切ったから」

 

「毎回っ言ってるじゃん! なんで、顔バレすんの? だめでしょう?」

 

「なんでかなあ……俺、隠れんの苦手なんだもん」

 

「忍びなのに、ありえないからっ!」

 

店が閉店してから、パソコンで経理するのは、バイトの拓くん。

デスクワークの苦手な麻生くんが、雇いました。

 

「この仕事って、忍んで隠れてナンボなんですよ?」

 

「そうだよねえ。でも、無理なんだよねえ」

 

明るく笑う麻生くんに、経理は頭が痛かった。

 

店のペットの服は、富裕層に受けて飛ぶように売れる。

それだけで十分な収入だったが、裏の依頼も多かった。

引き受けて、仕事はできるんだけど、麻生の情に厚い気性が、いつも失敗を呼ぶ。

困った人は、放っておけないから。

 

やばい現場のそばで、倒れた人を助けて救急車を呼ぶし。

迷子を見つけたら、親を探しに行って、現場に入る時間が遅れるし。

徘徊してる老人を、警察に送り届けてしまう。

 

優しい行動は、そのまま自分達の命に関わってしまう。

拓が怒りながらも、危険な仕事を麻生とこなすのは、人として尊敬してるからだ。

 

しかし。

命もお金も大事なので、麻生に忠告するのは毎日になった。

失敗の後始末は、ものすごく、お金がかかるからだ。


 

***


 

「昨日の案件は、200万貰って、赤字になりました。今月は俺の給料も出ません」

 

「俺の分あげるよ、それでいい?」

 

「アンタの分もないんですっ!」

 

「え?そうなの?」

 

店は、倒産の危機でもありました。
月間売り上げ目標は、裏表で五千万円。平均七千万円の売り上げなのに、赤字です。
麻生くんの失敗は、即、赤字になるのでした。

 

「……仕方ない、では済まないから。年末を乗り切って、正月を迎えるには、あと、700万は要るんです」

 

「えええ? 時間も、依頼も無いじゃん。無理だって」

 

「なんとかしろっ! 社長だろっ。忍びのプロだろっ」

 

「そんな無理だって……困ったなあ」

 

忍びの忍びの麻生くん。

隠れるのは、苦手だし、お金儲けは、まだ考えた事も無かった。


 

***


 

お昼も過ぎたビル街を、青年が走るように歩いて行く。

綺麗に黒髪をなびかせて走るスーツの美人は、睦月という有名企業の社員だった。

 

「この地図……全然分かんないんだけど……」

 

頼まれた買い物の店は、オフィス街の外れにある。

高級ペットグッズ・ペット服専門の店で。

店の名前は、「愛luvPet」

 

「この名前……誰がつけるんだろう……?」

 

冗談みたいな名前のお店。

そこには、彼の運命の人が待ってるなんて、まだ知らなかった。

 

 

(つづく)