*嵐妄想小説(ブロマンス)

*大宮妄想です。

*長文5500超文字

*登場人物等全てフィクションです

 

雪の女王に抱かれて。前編

 

 

心臓が痛い。

心臓に刺さったカケラが取れない。

いつまでも、いつまでも、

心臓から血が流れて止まらない。

 

 

***********

 

 

あるところに、大変仲の良い少年と少女がおりました。

少年の名前は、カイ。

少女は『ゲルダ』といいました。

 

ある日のことでした。

悪魔が不思議な鏡を作り出しましたが、空から地上に落としてしまいました。

悪魔の鏡は、美しいものは醜く、間違った物が正しく見えるのです。

 

地上に落ちた鏡は割れて、たくさんのカケラになりました。

そして悪魔の鏡の「カケラ」が、カイの目と心臓に刺さってしまいました。

 

カイの心臓は、冷たくなって、心まで冷たくなりました。

目は美しいものが、見えなくなりました。

ゲルダの優しい心も、見えなくなりました。

 

「お願いカイ! 私の言う事をどうか信じて!」

 

カイは、もうゲルダも、誰のことも信じられませんでした。

 

ー普通に暮らせなくなったカイを、見ている者がありました。

 

「カイ、氷の宮殿にいらっしゃい」

 

そんなカイに魅入られた雪の女王は、氷の国の宮殿に攫って行きました。

 

それは、カイを探す少女ゲルダの旅の始まりでした。

 

ーアンデルセン童話 『雪の女王』より。

 

 

 

**********

 

 

昔から、サトシはスタイル良し顔良し、人気ありの男で、中学生時代からのニノの友達だ。

先輩にも人気があって、可愛がられてる。

 

高校に入学する頃には、雑誌のモデルをしながら夜のバイトを始めて忙しいらしく、会うことも無くなってしまった。

 

噂では、芸能人の多い学校に入学したらしい。

 

ニノには、ショウとジュンという2歳上の生徒会コンビの幼馴染がいて、その二人のいる学校に進学した。

 

――本当は、サトシと同じ学校に行く約束してたんだけど。

 

(もう、オレなんか忘れられたのかな……)

 

ニノ、15歳。

寂しい気持ちを抱えて高校生活がはじまった。

 

 

 

**********

 

 

 

「ニノ〜。飯食った?」

 

ジュンが、放課後になるとショウと二人でニノを呼びに来る。

 

「コーヒー飲んだよ」

 

「飯は?」

 

「パンを……ちょっと食べた」

 

「なんか、痩せたんじゃないの? もっと食えよ」

 

ショウとジュンは優しい。

クラスに、今ひとつ慣れないニノを心配している。

いつも一人でいるニノだが、生徒会コンビのお気に入りということで、困ることは無かった。

 

3人で下校する姿は、美形3人の為に学校中で噂になっていた。

帰りにどこか行こうかと、ニノたちが話しながら歩いているとすぐ近くでタクシーから男二人が降りてきた。

 

背の高い、スタイルの良いサングラスの男と、……サトシだ。

 

「あれ、サトシじゃん?」

 

「ホントだ、ニノ、友達だろ?」

 

「え……でも最近会ってないし……」

 

ニノは、ずっと会いたかったサトシが突然現れて、子供のように立ち尽くしている。

 

「なんだ、サトシの知り合い?」

 

「え?」

 

サングラスの男が笑顔でニノに近づいて来る。

いきなり、大きな手でニノの頬を触りながら、ジッと顔を覗き込む。

 

「高校? 中学? 華奢な子だね」

 

「あ……の……」

 

ニノの頬を触る男の手を、サトシが無言でつかんで放った。

 

「マサキ……! いきなり子供を触んなよ、エロ親父」

 

ニノを見もせずに、サトシが低い声でサングラスの男を冷たく見る。

 

「子供って……同じ年じゃん……」

 

ニノが真っ赤になって思わず声に出した。

 

「え? サトシと同じ年? めちゃめちゃ可愛いねえ」

 

サングラスを外して、ニノを触ろうとする。

キッとサトシが、男を睨んでその腕を掴んだ。

ジュンが、ニノを自分の後ろに隠してやる。

 

「なるほど、姫なんだね」

 

「マサキ、もう行くぞ」

 

「はいはい」

 

サングラスをかけ直して男は、先に歩き出したサトシを追いかけて行った。

ショウとジュンがホッとしたようにニノに声をかける。

 

「なんか、ビックリしたなあ」

 

「あいつ、変わったなあ、ニノ、大丈夫か?」

 

「……うん。サトシ……変わったみたい……」

 

一度もニノを見なかった。一度も話しかけてくれなかった。

 

(もう、オレなんて眼中に無いんだな……)

 

想像していたよりも、遠くに行ってしまったサトシを感じてニノはショックだった。

 

 

 

*********

 

 

 

雑誌の取材が終わって、サングラスの男ーマサキと、サトシは自分たちの会社の事務所で、次の仕事の打ち合わせだった。

マサキは、事務所の社長で、サトシをスカウトした本人だ。

ひと段落して、二人でコーヒーを飲みながら、世間話になった。

初めてあった時から、サトシは社長にタメ口で、マサキはそれも面白がっていた。

 

「……サトシさあ、さっき道で会ったあの子と、どれくらい仲良いの?」

 

「は?」

 

「うわ、恐い顔っ」

 

「手ェ出すなよ? ニノは、まだ15なんだからお前が捕まるぞ」

 

「別に関係ないんじゃない? ふふ……可愛いよね。サトシの事見て、泣きそうだったじゃん」

 

「……ずっと会ってないし。オレなんかと違うから」

 

「お前も、16じゃん。大人ぶんなよ」

 

マサキは笑って、興味をなくしたように、違う話題になった。

 

 

 

**********

 

 

 

モデルの仕事を始めたのは、サトシが学校に内緒で夜の店で働き出して、スカウトされたからだ。

 

急に大人ばかりの世界になって、カルチャーショックの連続だった。

嘘も常識。汚い手も当たり前。

弱肉強食の世界に、正義や情も関係なかった。

負けず嫌いが、ここまで続けた原動力だった。

やられたら、やり返す。

傷つけられたら、傷つけた。

 

モデルに加えて事務所が、(マサキが)そろそろ本格的にタレント活動しないかと16になって言われた。

別にどうでも良かった。

仕事なんて、なんでも良いし。

なんでも出来る自信があった。

失くして恐いものなんて、持って無かったし。

 

ただ、ニノの事だけが気になっていた。

 

いつも、昔は二人で過ごしていた。

何でもない日が、幸せだった。

その頃は、母子家庭のサトシは、大学を出て起業するのが目標だった。

ニノを連れて、世界に出ていくつもりだった。

 

でも突然、母親が再婚して世界が変わってしまった。

 

少しずつ母親たちと溝が出来て大きくなっていった。

それでも、ニノはずっとそばに寄り添ってくれていた。

寂しいサトシの喜ぶ顔を見たくて、色々してくれる。

 

でも家には、もう居場所なんて無かった。

信用できるのは、ニノだけだった。

 

「サトシ、家を出てどこいくの?」

 

家を飛び出すと決めたあの日、泣きそうな顔でニノは、サトシに縋ってきた。

 

「仕事してるし、どこでも行けるよ」

 

「学校は? 一緒に行くんでしょ?」

 

「……ニノ、一緒においで」

 

「え……?」

 

「二人で、遠いところで、暮らそう?」

 

「ここじゃダメなの?」

 

ニノはまだ幼くて、サトシの言う意味がよく分かっていなかった。

 

「もう、ここじゃ無理なんだ。明日、待ち合わせよう? 分かった?」

 

「サトシ……」

 

まだ暑い、9月の夜だった。

綺麗な涙を零しながら、ニノを見つめるサトシに、ただ……泣きながら頷いた。

 

何も分からないまま、小さな鞄1つ持って、ニノは待ち合わせた駅でサトシを待っていた。

何時間待っても、サトシは来なかった。

半日待って、ニノは泣きながら、一人で家に帰った。

その日から、サトシは携帯も通じない、どこに行ったかも連絡もないまま、高校入学を迎えた。

 

 

 

 

 

 

「……ニノ、ずっと会いたかったよ」

 

ー誰もいない部屋でサトシが呟いた。

 

 

 

**********

 

 

 

高校も、夏休みが終わり、秋になった。

ニノは、相変わらず一人でいることが多かった。

別に同級生たちとは、それなりにやっていたが、仲良くなることには臆病になっていた。

 

あの、待っても来てくれなかった9月の日を、まだ忘れられないでいた。

せめて、理由だけでも、言い訳でもききたかった。

けれど、再会したサトシは何も言わなかった。

まるで何も無かったように。

 

ただただ、今もそれが悲しい。

 

サトシと家を出て行こうとした事は、誰にも言わなかった。

 

悲しくても、最後の思い出だと思ったから。

これからも、大切に心に仕舞い込んで、封印する。

できることは、それだけだった。

 

 

 

*********

 

 

 

「ショウ、女ばっかり見てないで、手伝えよ!」

 

「見てねーってば、ジュンは、何怒ってんだよお?」

 

「暑いんだよ!」

 

生徒会は、本当ならもう引退だが、推薦で大学が決まっているショウとジュンは、生徒会の仕事で忙しかった。

文化祭前日で、まだ出来ていない門の看板を作っていた。

ニノも一緒に手伝っている。

 

先輩二人のいる高校は、忙しく賑やかだ。

知らずに、そばにいるとニノも笑顔になった。

 

「ニノ、あれからサトシに会ってないのか?」

 

「うん」

 

「昔、いつも一緒だったのに」

 

「コマーシャルに、やたら出てんな〜あいつ」

 

サトシは、あっという間に人気が出たようで、ビルの看板やテレビのコマーシャルに、その姿があふれていた。

 

「ニノお前、顔色悪いぞ? もう帰った方がいいぞお?」

 

「ああ、ちょっと夏バテでさ……」

 

華奢な体で、残暑厳しい炎天下は、堪えたようだった。

先に、帰宅することになった。

 

「送らなくて大丈夫か?」

 

「うん。ありがと、ごめんね」

 

二人に声をかけて、学校を出た。

残暑の町は、人通りは少なかった。

 

サトシの看板が見えて、ジッと見つめる。

知らない笑顔にピアス、ネックレス。

隣に外国人のモデルがしなだれかかっていた。

 

(もう、スターみたい、いやスターか)

 

「……ニノちゃん? ニノちゃんだよね?」

 

急に肩に大きな手が置かれて、飛び上がりそうになった。

あの時、サトシといたマサキだった。

 

「あの……サトシの?」

 

「そうそう、覚えてくれてた? 良かった! 一人? ちょっとおいでよ」

 

笑顔で強引に車に乗せられた。

暑い外は、倒れそうだったから、涼しい車内はホッとする。

 

「暑いよねえ、学校の帰り?」

 

「はい、あの……サトシは?」

 

「ああ。あの子、今日は撮影で地方かな?」

 

「そうなんだ……」

 

ニノがガッカリした顔で俯く。

 

「可愛い……ふふっ」

 

マサキが微笑んで、小さな頭をポンポンと撫でるように叩く。

優しい笑顔にニノは、知らない間に心の隙を突かれていた。

 

「俺、今日は仕事もう無いんだあ。一人で寂しくってさあ、ご飯一緒に食べてくれない?」

 

ニノは、マサキの大きな手で、自分のほっそりした頼りない手を握られて、思わず頷いていた。

 

マサキの知り合いの和食の店で食事をしたけど、ニノの食の細さに驚かれた。

 

「高校男子は、もっと食べなきゃ! 緊張してる?」

 

「いつも、こんなですけど……」

 

「サトシは、食事制限してても、もっと食べるよ?」

 

「サトシともココに、よく来るんですか?」

 

「あらら……本当に可愛いね、サトシの事が気になるんだ?」

 

家においでと、誘われた。サトシの仕事の写真や、色んな面白い話を教えてあげるからと。

ちょっと迷ったけれど、サトシの話が聞きたくて、ついて行くことにする。

 

(サトシ……何してるかなあ……)

 

頭の中は、サトシでいっぱいだった。

 

 

 

*********

 

 

 

マサキの住むタワーマンションに行くと、もう外は暗かった。

 

未成年だからと、店ではお酒は飲まなかったけど、少し飲みなよとシャンパンを渡された。

 

「飲んだ事ないし……」

 

「怒られちゃう? じゃあ、バレないように、ここん家に泊まるって電話しなよ? 今日は朝まで楽しく遊ぼうよ」

 

何でもないように、優しく言われて、家に電話を入れると、あっさりOKが出た。

友達の家だと思ったんだろう。

 

友達……? この男は誰になるんだろうと、シャンパンで酔ってしまった頭は答えが出ない。

 

サトシの出た雑誌や、撮りためた撮影の様子のビデオ。

1つ1つ、説明してくれて会えない間にサトシが、頑張ってきたことがよく分かった。

 

「アイツは負けず嫌いだからね、絶対に人の言うこと聞かないんだ。この後の食事会でカメラマンと喧嘩になったんだよね」

 

楽しそうに、色々話してくれて、彼とサトシとの仲の良さが伝わる。

 

急にハラハラと、ニノの目から涙がこぼれ出した。

 

「どーしたっ?! ええ? 具合悪い?」

 

「ううん。違う……あの……」

 

酔っ払ってしまって、感情が抑えられない。

消えたサトシを心配して、探していた頃の冬の雑誌のサトシは、綺麗に笑っている。

捨てていったニノのことなど、思い出さないだろう。

 

そう、思ったら辛くて泣けて仕方無かった。

 

(もう、オレは一人になっちゃった……。サトシ……もう会えない)

 

もう別世界の人間になってしまった。

どこかで、少しだけ、期待してた自分がいる。

いつか、あの時はごめんねって、また一緒にいようって言ってくれるんじゃないかと……。

 

「何でか知らないけど、可哀想に……」

 

泣きながら眠ってしまった少年をベッドに寝かせてやり、自分も隣に潜り込む。

人肌が恋しいのか、眠りながらマサキに寄り添ってくる。

 

「でも……可愛い子だなあ。気に入っちゃったなあ……」

 

しばらく、サトシには秘密にしようとマサキは思った。

 

 

 

**********

 

 

 

翌日、学校までマサキに送ってもらうと、ショウとジュンが飛んで来た。

 

「ニノ! 大丈夫か? 昨日、お前んちの母ちゃんが俺に電話して来て、怖かったよ」

 

「ごめん。急に泊めてもらったから、多分、親はショウさん家だと思ったんだね」

 

「適当に話を合わしといたけど、気をつけろよ?」

 

「うん。ごめんね……」

 

それから、ニノは明るくなった。元気になったように見えた。

 

ショウとジュンと、毎日一緒に帰っていたけど。

 

途中で寄り道するからと、どこかへ行くようになった。

 

「ニノ……大丈夫かなあ」

 

元気になったはずなのに、ニノの影はドンドン薄くなっていった。

 

 

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