嵐妄想小説です

お話の前に。

このお話は、お名前をお借りしている方々とは、もちろん関係ありません。
妄想小説で全くのフィクションです。

しかし、このお話の中で、Nさんが亡くなっています。
恋愛要素や、BL要素は全くありません。
許せる方だけが、お読み下さいますようにお願いします。

 

 

 

3月がキライ・桜晴(花束は永遠に)

 

 

(1)

 

side リュウ

 

まだ肌寒い、3月。
僕は、小学校の卒業式だった。
桜はまだ蕾ばかりで、咲くのはもう少し先のようだった。

 

「リュウ君!」

 

「先生……? え! 卒業式に来てくれたのっ?」

 

会場に、僕が入院していた時の担当のお医者様の櫻井先生と、その親友だという花屋のお兄さんの大野さんが来ていた。

 

「うん。来られるかどうか、ギリギリまで分からないから言えなかった。ごめんね?」

 

「リュウ、ちょっと大っきくなったな!」

 

先生は、いつも優しくて。
入院中も高熱でうなされてると、よく夜中に、見に来てくれた人だった。
 

その親友のお兄さんは、小柄で陽に焼けた健康そうな面白い人。
二人は、退院してからも、時々こんな風に、突然会いに来てくれた。

入院ばかりで、ほとんど親しい子がいないまま卒業する僕は、先生が来てくれたことが嬉しかった。
僕をニコニコして見ていた大野さんが、言う。

 

「やっぱ、似てんなあ」

 

「そうだね……」

 

先生は時々こんな風に、嬉しそうなのに、悲しそうな目で、僕を見る。
僕は、先生の亡くなった親友に似てるそうだ。

しかも、僕は治ったけど、同じ病気でその人は、亡くなった。
その人や、たくさんの人の努力と治験のおかげで、出来上がった新薬が僕の命を救った。

 

まだ、咲かない桜の木の下まで、三人で歩いて来た時、先生が言った。

 

「リュウ君、ちょっとだけ……抱きしめても良いかな?」

 

「うん、良いよ?」

 

先生は時々、優しく抱きしめてくれて、僕はそれがすごく嬉しかった。

僕は、両親がいなかったから、家族のように抱きしめてくれたのは、櫻井先生だけだったから。
すごく風が吹いて、寒かったけど……心が、ジンって……あったかくなった。

 

「リュウ君……卒業おめでとう。元気になってくれて、本当にありがとう……」

 

先生の優しさは、全身を走って滲みていくようだった。

 


(2)


side 櫻井翔

 

リュウ君という子供の患者さんに初めて会った時は、びっくりした。
一瞬、息が止まった気がする。

 

亡くなった親友のニノ……二宮和也に瓜二つだった。
 

同じ病気で、家庭環境まで似ていて、顔が似てると人生まで似るのかと思った。

これは、ニノに出来なかったことへのリベンジで、神様がくれたチャンスだと思った。
 

リュウ君は、大人しい男の子だけど、明るいところや、優しいところまでニノにそっくりだった。

 

 

 

大野さんや相葉君に、早速、話した。

 

「へえ! そうなんだ」

 

「すごい、巡り合わせだよね?」

 

「絶対に、助けようと思ってる」

 

「応援しかできないけど、出来ることが有ったら言って?」

 

「ありがとう。それと、これは潤にはしばらく内緒にして?」

 

相葉君と大野さんが、え? と言う顔になった。

 

ニノが死んで、俺より潤はもっと辛かったはずだった。
 

一人で、ニノが高熱や痛みに苦しむ姿を見て、最後はその腕に抱いた命を見送ったんだから。

 

「ニノとそっくりな子が、また同じ病気で何か有ったら、辛すぎるから。でも治ったら会わせてあげたい。いや、絶対に合わせるつもり!」

 

「……分かった! 頑張れよ! 翔ちゃん! 死なせんなよ!」

 

「おう! 任して!」

 

その日から、患者さんには平等にしなきゃいけないと思うものの、リュウ君が気になって度々、病室に顔を見に行った。
 

寂しい境遇のリュウ君は、見舞いもあまり来て貰えないようで、それも心配だった。
小児病棟は、皆、それぞれの親御さんが付いている場合が多いから、ひとりぼっちで寝ているのは、心細いはずだ。
 

一人で窓の外を見つめる顔は、ニノにしか見えなかったから、尚更だった。

 

「リュウ君、ご飯食べられたかな?」

 

「先生、う……ん。あんまり食べれない、ごめんなさい」

 

俺が行くと、リュウ君はいつも嬉しそうに笑ってくれるが、体調は悪化していたから、それを自分が悪いかのように、謝るのが可哀想だった。

 

「リュウ君は、何にも悪いことしてないんだから。もう謝らないで? これ約束ね?」

 

「うん……わかった」

 

そっと、手を握って言い聞かせると、ホッとしたように、リュウ君が微笑んだ。
リュウ君が笑うと、ニノが笑ってくれたようで、嬉しかった。

 

その後は、一進一退で、治る見込みが見えない入院生活だった。
患者さん本人も、辛くて不安定になる時期だった。
段々、リュウ君も笑顔が消えていった。

 

 

 

 

ある日、影が薄くなったリュウ君が、ポツンとベッドに座っていた。

 

「……リュウ君? 起きていて、大丈夫?」

 

そばに寄ると、俯いたままリュウ君は言った。

 

「……先生、何で……僕……生まれてきたのかな。なんの為に生きてるんだろう」

 

それは、そのまま似たことを、昔ニノも言っていた。

また今、こんな小さな子が言ったことはショックで、心臓が軋んで止まりそうに痛かった。

 

「リュウ君……」

 

「僕……何の役にも立たない……生きてても……仕方ないんじゃないかな……」

 

リュウ君が、そのまま黙って泣き出した。
言葉が浮かばないまま、俺は小さな体を抱きしめて、ただ泣かせてあげるしか出来なかった。

 

「大丈夫だよ、俺が必ず治すから、もう少し頑張ろう? 俺のこと……信じてくれる?」

 

リュウ君は、泣きながら、腕の中でかすかに頷いた。

 

「ごめん、俺まで泣いちゃって……」

 

こんなに悲しいのは、こんなに悔しいのは、終わりにしてやると、改めて思ったら涙が止まらなかった。

 

「俺は、リュウ君に生きていて欲しい、どんなに辛くても生きて、幸せな大人になって欲しいんだ」

 

そう言うのが精一杯だった。

 


(3)


side リュウ

 

高熱が続いて、眠ってるのか、起きてるのか分からない夜だった。
もしかしたら、このまま一人で死ぬのかな。

 

せめて……先生にもう一度会いたいな。
 

そう思っていると、誰かが手を握ってくれて目が覚めた。

暗いベッドのそばに座って僕の手を握ってくれる白衣の男の人がいた。

 

「……先生?」

 

「大丈夫だよ、治るからね? 諦めないで」

 

その人の冷たい手は、気持ちよくて、優しく額を撫ぜてくれた。

 

「……治るの?」

 

「うん、治るよ。先生が新しい薬を持って来てくれるからね?」

 

よく見えないけど、その人の声は優しくて、信用できた。
微笑んでるように感じられてホッとしたら、急に楽になって眠ってしまった。

 

それから、夜中に時々、その人はやって来てくれるようになった。


 

 

***


 

 

side 櫻井翔


リュウ君は、高熱が続いて一時は、危なかった。
このままだと、ニノみたいになるかと思った頃、急に体力が持ち返したようだった。

 

「リュウ君! がんばったね? 偉かった……辛かっただろ?」

 

「うん……でも、夜来てくれた先生が、治るって言って手を握ってくれたら、楽になったよ」

 

「夜……? どんな先生?」

 

「暗いし、目がよく見えなかったけど、優しい先生」

 

「誰かな……?」

 

看護師全員に聞いて見ても、そんな医師はいなかった。
高熱で見た夢なんだろうか。

気になって、夜になってコッソリ、病室を覗くとリュウ君は、眠っていた。

 

「やっぱり……夢なのかな」

 

帰ろうとしたら、白い白衣が目の端に見えた。

 

「え……?」

 

一瞬だけ見えたその人は、ニノだった。

 

「ニノ?」

 

微笑んだニノが見えたのは一瞬で。
けれど、確かにニノだった。

 

ーニノ、また助けてくれようとしてるの?
 

幻でも、もう一度会いたいよ。

 

新薬の投与が始まる前日のことだった。

 

 

(4)


side リュウ

 

また、優しい先生が僕の手を握ってくれているのが分かった。

その時、櫻井先生の声がして、目が覚めた。

 

「ニノ?」

 

誰? この優しい先生のこと?

起きたら、いるのは櫻井先生だった。

 

「……先生?」

 

「リュウ君、今、来てた人なの?」

 

「うん……いつも優しいよ」

 

「そう……ありがとう。君のおかげだよ、俺も会えた」

 

先生は、笑っていたけど涙が溢れていた。

 

「先生、どうしたの?」

 

「治るよ、絶対に。リュウ君」

 

素直に、僕は助かるんだとその時思った。

 

そして、実際に翌日から始まった新薬の投与のおかげで、僕は回復していった。

 

 

 

***

 

 

 

side 松本潤

 

翔さんが、カズそっくりな男の子を連れて来てくれてから、10年経った。

 

翔さんは変わらず、医者で忙しいが、大野さんと仲良くしてるようで、カズの月命日に合わせて二人でやってくる。
 

変わらない花束と、なぜか、最近は、リュウ君も一緒だ。
この子はもう、親戚のようだった。

 

リュウ君は、奨学金と翔さんの援助で医大に進んで、医者を目指している最中だ。
日に日に、カズに似てきて、不思議な子だった。

大野さんと翔さんの隣の席を取り合いっこして、今も目の前で騒いでいる。

 

「大野さん、先生の隣に座んないでよ!」

 

「何だよ、リュウ! 翔ちゃんに、お前はくっつき過ぎ!」

 

「ええ〜大野さんのが、ひどいじゃん!」

 

「俺、リュウ君と座るから、大野さん譲ってあげてよ?」

 

見かねた翔さんが、大野さんに譲らせる。

 

「翔さん、もうリュウ君の親みたいだね?」

 

「先生は、僕のだからね」

 

嬉しそうに、リュウ君が笑って、翔さんも嬉しそうだ。
そんな二人を見て、大野さんも微笑んでる。

 

前に、この子へ会いに来たカズを見たって、翔さんが言ってた。

全く、羨ましいよね。

カズってば、俺んとこには、来ないでさ。

 

『ごめんね、潤君』

 

「カズ?」

 

「ニノだ!」

 

突然、声がして俺たちは口々に叫んだ。

 

窓から大きな風が入ってきて、カズのための花束が揺れて、音の無い音が鳴った。

リュウ君だけが、聞こえないのか、キョロキョロして俺たちを見る。

 

「ああ、リュウ君ごめん、カズの声が聞こえたんだ」

 

「それって、あの優しい先生? そこにいるけど……?」

 

「え!」

 

リュウ君が指差す方向を見たけど、誰も居ない。

 

「消えちゃった……笑って立ってたよ。昔と一緒だった」

 

リュウ君が、微笑んだ。

 

「多分、いつもココにいるみたいだった。だから、話しかけたり、思い出してあげたら良いと思う」

 

「リュウ君、よく、他の場所でも色々、視えるんだって」

 

翔さんが不思議そうに言う。


「1回、死にかけて危なかった日から、……優しい先生が見えた日からだと思う」

 

「そうなんだ……。じゃあ、カズも……」

 

俺には見えないけど、ココに居るってことは、心配かけてたのかな。

 

カズ、いつまでも優しい従兄弟。

 

いつか、ちゃんとまた会えるよね。

 

花束は、必ず一生君のために、用意するから。

 

会える日まで待っていて。

 

 

 

 

数年後……リュウ君がカズの代わりに、翔さんの隣で医師となる。

 

それもきっとカズが、起こした奇跡だと思ってる。

 

でも俺は、悪いけど、おまえから卒業する気はないからね。

 

 

 

穏やかな晴れた3月の日。

 

可愛い花の向こうのカズが、綺麗に笑った気がした。

 

 


 

 

「桜晴。〜花束は永遠に〜」<end>

 

 

読んで下さってありがとうございます。