嵐妄想小説です

お話の前に。

このお話は、お名前をお借りしている方々とは、もちろん関係ありません。
妄想小説で全くのフィクションです。

しかし、このお話の中で、Nさんが亡くなっています。
恋愛要素や、BL要素は全くありません。
許せる方だけが、お読み下さいますようにお願いします。

 

 

3月がキライ・Another ③(M)

 

 

side 松本

 

「翔さん、お花持って帰ってよ」

 

カズの命日に届く花の意味を、翔さんは知らない。
この花を見るのも、辛いかもしれないけど、渡すしか無かった。
 

翔さんが、前を向くまで、この花の意味は伝えられない。
今の翔さんに花の本当の意味は、伝わりそうにも無いから。
かえって、重荷になってしまうだろう。

 

「ありがとう、家に飾るよ」

 

辛そうに笑って花を受け取る。
ごめんね。きっと辛いよね。
 

どうしたら、翔さんを立ち直らせることが出来るんだろうか。
そもそも、俺だって、まだ立ち直ってないし。

 

あんな風に親友を亡くしたら、死にたくなると思う。
自分を責めて暮らしているかと思うと、心が痛い。

 

 

 

こうなるとカズには分かっていたんだろう。
自分が死ぬというときに、俺たちを心配ばかりしてた。
痛くて苦しくても、笑顔を見せるカズ。


「違うよ、……潤君を独り占めして……嬉しいんだよ」


その言葉で分かった。
長い間、寂しがってたことが。


もっと早くから、そばにいてやれば良かった。
何でも、我慢する子なのは、知っていたつもりだったのに。

何でもないというように、クールな顔に騙されて見過ごしてしまっていた。
 

きっと、カズの時間は、母親を亡くした日に止まっていたんだ。

 

 

 

 

毎月カズの花を届けてくれるのは、明るい人で。

来るたびになぜかお土産を持ってきてくれる。

 

「魚、俺が昨日釣った奴なんだ。食べてよ」

 

時々、中華料理を出前してくれて不思議で、聞いても笑って気にしないでという。

 

「アンタが元気ないと、あの子が心配するぞ」

 

カズと一度だけ話したという人。
何の話かは教えてくれなかったけど。
カズが、気に入っただけあって、明るくて優しい人だ。

 


最後の瞬間を見せないために、翔さんに花を買いに行かせたカズ。
 

どっちが残酷なのか、俺には判断できなかった。

 

最後の瞬間は、俺の手を握りしめて。

 

自分の頬にその手を持っていくと、大きく息を吐いて静かになった。

 

 

 

悲しくてたまらないけど、やっとカズの苦しみが終わったことにホッとした。
 

子供のように眠るカズの顔を撫ぜた。

 

「カズ……。ごめんな」

 

なんて言っていいか分からなかった。
 

ただ、謝ってやりたかった。
 

この長い苦しくて悲しい時間を、忘れるなんて一生無理だ。

でも、泣いてはいられない。
もうすぐ、翔さんが戻って来るはずだ。
 

その日は、その後のことは、他人事のように記憶が薄い。
俺も翔さんも、精魂尽きていたんだろう。

 

 

 

***

 

 

 

幾つかの季節が過ぎて、翔さんの立ち直る日がやって来た。

不思議な巡り合わせが、前を向かせるきっかけになった。
 

花屋の大野さんが、そのキッカケになった。

 

何とか前を向いた翔さんが、今、必死に治療しているのが、カズと同じ病気の少年らしい。

カズが試した新薬は、進化して、今は治療に使われているそうだ。
 

実を言うと、俺だけが、立ち直れてなかった。

この手に抱いて消えた命は、重過ぎて、尊過ぎた。
27年の思い出が、時々苦しめる。
 

いろんな思いが、今も昨日のように、辛かった。

翔さんが、大野さんと今度の月命日に来ると電話してきた。

 

「お土産があるからさ、楽しみにしていてね」

 

晴れた日曜日だった。
何か、予感のような、声のような、不思議な感じがした。
仏壇の水をかえながら、カズに話しかけた。

 

「カズ、何か俺に言ったかな?」

 

カズを看取ってからも、葬式が終わっても、涙が出なかった。
病室では、毎日泣いていたせいか、それとも悲しすぎると泣けなくなるのか。

玄関のチャイムが鳴って、扉を開けたら、そこにいたのはカズそっくりの少年だった。

 

「カズ……?」

 

「こんにちは」

 

12歳くらいの時のカズに、そっくりな少年だった。
翔さんと大野さんが後ろで嬉しそうに立っていた。

 

「似てるだろ? この子だよ。治ったんだ、ニノの薬のお陰でね」

 

「無駄じゃ無かったんだよ。良かったな。あの子がこの子を助けたんだよ」

 

「じゃあ、治療してる子って……」

 

カズに似た少年を助けることが出来たのだ。
あの、命懸けの治験の成果だった。

 

「ありがとうございますって、言いたくて来たんです」

 

はにかんで、少年が恥ずかしそうに笑った。
笑い方まで、カズにそっくりだった。

 

きっと、誰かの役に立つからと、言っていた。
それを目の前で見せられた。

 

「カズ……」

 

もう、膝から崩れ落ちた途端、涙が溢れて止まらなかった。

本当は、どこかであの薬を恨んでいた。
あの治験が、弱ったカズにトドメを刺したようなものだったから。

 

「カズ、やっぱりお前は、凄いよ」

 

カズの笑った顔が思い出された。
最後の苦しんだ顔じゃない顔が浮かんだのは、久しぶりだった。

 

花を届けてくれていたのは、俺の為でもあったのか。
綺麗な花のように、カズが生き返ったような喜びが届けられて。
 

辛い人生にも、たくさんの幸せを届けられることを教えてくれた。

カズが運命に勝ったことを教えられた日は、そのまま俺の立ち直るきっかけに、なるだろう。

 

ごめん、俺こそ、いつまでも。

 

「翔さん、良かった。大野さん、ありがとう。」

 

大野さんが笑って、花束をくれた。

 

「これは、最初から、翔ちゃんだけにじゃないんだよ。最初に聞いてたんだ、大事な従兄弟と親友にって」

 

やっと、これであの子も安心するなと。

 

翔さんと俺に大野さんが言った。

 

 

 

 

 

 


花束が届く。

 

それは、天国からのメッセージだ。

 

愛する人たちへの、確かなエールだった。

 


3月がキライ。Another <end>

 

 

 

最後まで読んで下さってありがとうございます。