嵐妄想小説です

お話の前に。

このお話は、お名前をお借りしている方々とは、もちろん関係ありません。
妄想小説で全くのフィクションです。

しかし、このお話の中で、Nさんが亡くなっています。
恋愛要素や、BL要素は全くありません。
許せる方だけが、お読み下さいますようにお願いします。

 

 

 

 

3月がキライ(前編)

 

 


+++

 


3月は、嫌い。
この世に生まれたことを後悔したくなるから。

君があの日そう言っていた言葉が、本当になってしまうとは思わなかった。

今は俺こそが、3月が嫌い。

……だって。

君が一人で逝ってしまった月だから。

 

 

 

 

2月が、終わろうかという日曜日。
雪が降りそうな朝、大きなカバンを持った男性が、慌てた風に走っていた。

彼の名前は、櫻井翔という。

キチンとセットした髪に、垢抜けたカジュアルシャツにセーター、ジャケット。
スリムな黒のズボンがとても似合った賢そうな表情。

寝坊してしまって、新幹線に乗り遅れそうだった。
夢中で走っていたから、つい角を曲がる時に不注意で、誰かにぶつかってしまう。
思ったより、相手は勢いがあったせいか思い切り転ばせてしまった。

 

「すみません! 大丈夫ですか?」

 

「……いっ……てええ……」

 

相手は起き上がりかけて、そのまま地面に倒れて動かなくなってしまった。

 

「ああっ! どうしよう! 救急車!」

 

ぶつかったのは、髪も肌も陽に焼けて健康そうな小柄な男性だった。

……それが、櫻井と大野智との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

結局、救急で病院に運ばれた彼に付き添って行った為、櫻井のその日の予定は自動的に全てキャンセルになった。
大野が気がついた時、櫻井が泣きそうな顔で付き添ってくれていた。

 

「あれ……? どうしたんだっけ……」

 

「すみません、僕とぶつかって、倒れてしまわれて……。大丈夫ですか?」

 

「ああ。そうだったかな。……今何時?」

 

「えっと……。12時かな? それくらいの時間です。何か予定がありましたか?」

 

「いや、良いんだ。生きてりゃ、また行けるとこだから」

 

そう言って大野が、優しく笑うと櫻井が、複雑な表情で力なく笑った。
大野は、その表情にドキッとして、思わず櫻井の手を握ってやった。

 

「大丈夫か? アンタのが、今、死にそうな顔してるぞ?」

 

「ああ……。大丈夫ですよ」

 

「腹減ってんだろ? 俺が美味いとこ連れてってやるから、元気出せ」

 

櫻井を逆に励まして、大野は強引に食事に連れ出した。
普段の櫻井なら、絶対ついてなど行かなかったが、何故かその日は違った。
ぶつかった罪悪感もあったのかもしれない。
ただ、初めて会ったとは思えない距離感で接してくる大野は、明るくて太陽のようだったから。
太陽の陽にあたるように気持ちが良くなってしまった。
もう少し、暖まりたくなってしまった。

この季節は、……特別に寒くて悲しいから。


 

 

***


 

 

大野は、知り合いだと言う大きな中華料理店に櫻井を連れて来た。
店に入ると、親しそうな男性が飛んできた。

 

「大ちゃん! 珍しい! どうしたの?」

 

「ああ、美味しいもん、この人にご馳走してあげたくて来たんだ。何か出して?」

 

「あの、初めまして。櫻井翔と言います」

 

「アンタ、櫻井って言うんか?」

 

「え? 名前も知らない人と来たの? 大ちゃんらしいなあ」

 

櫻井は呆気に取られて、所在なげだ。
大野と櫻井を大きなテーブルに案内しながら、挨拶してくれる。

 

「初めまして。相葉雅紀といいます。ここは俺の実家なんですよ。櫻井さんは、大ちゃんに

 

強引に連れて来られたんだね? 待っていて? 美味しいの頼んでくるからね」

ニコニコした彼も大野と同じ太陽の匂いがしそうな明るい人だ。
大野は、自分の実家のように寛いで、櫻井にも楽にするように勧めるが、櫻井は落ち着かない。
パタパタと、相葉がとりあえずと言って、前菜らしい野菜や、海鮮の皿を持って戻ってきた。

 

「料理いっぱい、これからくるからね? たくさん食べてね」

 

「ありがとうございます」

 

「俺、エビチリ食べたい」

 

「もうすぐ来るよ、それより今日はどうしてこっちにいるの?」

 

「ああ、ちょっとね」

 

「僕、実は今日、大野さんと初めて会ったんです。
 

駅でぶつかって、大野さんが病院に運ばれてしまって……」

 

「いや、俺もよく見てなかったから。ごめんな。病院までついて来てくれて」

 

「ええ? 大ちゃん、気を付けなよ? 体は? 大丈夫?」

 

料理を頬張りながら、大野は大丈夫と笑う。
口に入れ過ぎ! と相葉に言われて、また二人が笑う。

櫻井は、久しぶりに何だか、ホッとして嬉しくなった。

 

そのまま、3人でもう一軒、今度はデザートを食べに行った。
何でも無い話で、異様に盛り上がり、帰り道も駅前で分かれ難くて長話をした。
まるで学生のように、連絡先を交換して次の休みも会うことになった。

 

明るい二人と別れて、家路につき、櫻井は夢も見ないでぐっすり眠った。

こんなに眠れたのは、随分と久しぶりだった。

 

 

 

***

 

 

 

大野と会う約束の日曜日は、すぐやって来た。
久しぶりに、遊びに出かける。
もう、ずっと遊ぶことなんてなかったから。

玄関を出る前に、テーブルに置いた空の花瓶が光って見えた。

 

「……行ってきます」

 

誰もいない部屋に、小さな声が落ちて消えた。

 

********

 


待ち合わせの場所に、もう大野は来ていた。

相葉は、仕事が終わってから合流するので、夕方まで二人だ。

 

「翔ちゃん、どっか行きたいとこある?」

 

「どこかなあ……」

 

櫻井は聞かれて気が付いた。
行かなくてはいけない場所しか、ずっと行って無かった事に。
行きたい場所なんて、考えなくなってしまって、どれくらい経つだろう。

 

「すぐ浮かばないなあ。大野さんの行きたいとこで良いよ」

 

「もうちょっと、楽な感じで呼んでよ、俺も翔ちゃんて呼んでるんだから」

 

「えっと……。智くんとか?」

 

「その方がいいな」

 

大野は、目尻を下げて嬉しそうに笑う。
それを見て、櫻井も嬉しくなった。

大野は、あちこち、櫻井を連れ回した。
市場に遊覧船、美術館。夕方までたっぷり忙しくて、相葉が合流する頃には、バテそうな勢いだった。

 

「ええ〜、良いなあ、いっぱい遊んで来たんだねえ」

 

「面白かったよ、な? 翔ちゃん?」

 

「うん。でも体力無くなってるのが分かったよ、もうヘロヘロ」

 

「やだなあ、年寄りみたいじゃん! これからだよ、カラオケ行こうよ」

 

こうして、櫻井は大野や相葉と遊ぶのが、休みは定番になった。
平日は、ひたすら家でも仕事して、休みは大野たちと遊ぶ。
毎日、よく眠り何だか体力も付いた気がした。

 

ただ、ひとつだけ気になった。

 

大野と会った日、親友の墓参りに行くはずだった。
毎月の命日の行事でもあったが、行けていないままだった。

 

気になっていた事に合わせたように、電話が来た。
親友と従兄弟にあたる、松本潤という男だ。

 

「翔さん? 久しぶり、元気?」

 

「ああ、ホント久しぶりだね? ごめんね」

 

「元気ならいいんだ。何かあったかと思って。ほら、翔さん必ず月命日に来てたから」

 

「うん、アクシデントで行けなくてさ、今週……行っても良いかな?」

 

「あ、無理しないで? 元気なら良いんだよ。来なくってもさ。きっとカズもそう言うよ」

 

「いや、行きたいんだよ。行かせて貰う、うん、命日の日に……じゃあ……」

 

目の前の空の花瓶が、彼を思い出させる。

電話を切って、どっと力が抜けて自分の部屋の隅に座り込んだ。

 

 

 


***

 

 

 

ニノの声が聞こえる。

 

『……何のために、生まれて来たんだろう……』

 

ごめん、……ごめんね。

 

生きていて欲しかったよ。

今も、君のいないことが悲しくて。

今も、君を探してる。

 

お願いだから、一言でいいから、俺を責めて欲しい。

どんな罰でも受けるから。

もう、俺に優しくしないで。

 


 

***

 

 

 

後編へ

 

 

初掲載は数年前のpixivだったのですが、その頃読んで下さった方がメッセージを下さることが、たまにあって。悲しいお話ですがまた読みたいと言って下さってるので、Amebaにこっそり置いておきます。初めて書いた嵐のお話です。