補助席というのは、どの国でもどんな乗り物でも座り心地が悪いもんだ。
しかも、通路の補助席だったので、車内販売の車が通るたびに腰を上げなければならなかった。
この補助席、腰を上げるたびにすごい勢いで座席が上がる。
しかも座席自体に重量感があるので、いちいち「バタン」という大きな音が鳴った。
立ったり座ったりを何度か繰り返しているうちに、指を挟んでしまった。
挟んでしまった薬指は、見る見るうちに紫色に変わっていく。
イタリアの地下鉄の扉も、この補助席も勢いがよすぎて危険だ。
なんでもっとソフトにできないかなー??
通路は先程までいたボックスに比べて居心地が悪い。
ここに長時間座っていてもいいんだろうか?
先程までは歓迎されていたが、ボックスを出れば周囲の視線にさらされる。
肌の色が違う自分が他人の目にどう映っているかが気になった。
そのうちに、隣のボックスの人たちがこちらを見て何か相談していることに気が付く。
視線が合うと、一人の老婆がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
その土地にはその土地のマナーがある。
自分では気付かない間になにかマナーに違反している可能性もある。
老婆が何か言ってきたら言うとおりにしよう・・・そう思った。
老婆は補助席に座る自分の前で立ち止まると、1つの瓶を差し出し何か言っている。
(なんだろう??)
分からないでいると、後ろからやってきた婦人がジェスチャーで教えてくれた。
瓶を開けてほしいらしい。
勝手に怒られると思っていたので、意味が分からなかった。
なんだ・・・
ほっとして瓶を開けてあげた。
その瞬間、隣のボックスから笑い声と拍手がおこる。
老婆は手をとりながら言った。
「グラーッツィエ!」(ありがとう)
素敵な笑顔だ。
そのやり取りを見て、先程の「マーレ」の老夫婦も目を輝かせて笑っている。
車内の人々は皆、明るくて優しかった。
自分の心配は見当違いのちっぽけなものだったことに気付かされた。
いつの間にか自分のことしか考えられないようになっていたのかもしれない。
国境を越えるその列車に乗っている人々も又、旅を楽しんでいるのに違いないのであった。
つづく・・・