古詩十九首・其六

 

 

   渉江采芙蓉。

   蘭澤多芳草。
   采之欲遺誰。

   所思在遠道。
   還顧望舊郷。

   長路漫浩浩。
   同心而離居。

   憂傷以終老。

 
 
 
 

  江こうを渉りて芙蓉を采る
  蘭澤
らんたく 芳草多し
  之を采りて 誰にか遺
のこらんと欲す
  思ふ所は遠き道に在り
  還顧
かんこして 舊郷きゅうきょうを望めば  
  長路
ながじ まんとして浩浩こうこうたり  
  同心にして 離居すれば
  憂傷
ゆうしょうもって 終ついに老いん

 

 

 

 

   〈現代語〉

   河を渡り 蓮の花を採る

   蘭の咲き誇る澤には 芳しき草花が多い

   これを採って 誰に贈ろう

   思い人は 遠くに在り

   ふり顧みて 故郷を望めば

   長路は 広く果てしない

   心は一つであれど 離れ離れの暮らしでは

   憂傷のまま 年老いてしまう

 

  ※ 憂傷:心配して心を痛めること。 憂えいたむこと。

 

 

 

 

 〈参考〉

 

 解釈1
 芳香を放つ花を採り、或いは美しく着飾ったところで、
 互いに贈りあうべき夫は遠方に旅立ち、同じ喜びを抱きあえる故郷の両親もなく、
 花はただ枯れ散って、この美貌も老いさらばえるのみ。
 
 解釈2
 かって親友を見送った河のほとりで親友を思い、
 親友も遠方で私を思っているだろう。
 志を同じくするもの同士、しかし離れたまま年月だけが虚しく過ぎていく。
 

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🌸 古詩十九首(こしじゅうきゅうしゅ)🌸

 

 中国南朝梁の昭明太子(しょうめいたいし)簫統(501年 - 531年)の手による

 文芸集文選(もんぜん)』の巻二十九に収められている19首の五言詩

 

「古詩十九首」という題は『文選』の編纂に際して仮に名付けられたもの

 で、各詩に固有の題はなく、作者も定かでない。

 

 魏晋以降に全盛を極める五言詩の起源とされ、古代の詩歌『詩経』『辞』に並ぶ。