土産屋で購ふ絵葉書に秋湿り 漕戸 もり
2023年10月29日中日俳壇 高柳克弘選
今年、なんの変哲もないある日からこのブログ「月のいれもの」で、1日一首もしくは一句を作るという勝手に千本ノックをはじめた影響もあり、短歌も俳句も新聞投稿を怠っている。
※この千本ノック、思いもよらず結構キツイ
それでもこうして不意に掲載されたことを知るとやはり励みになる。
昨年から応募し始めた角川俳句賞は今年も候補に叶わず、殊更にどこか気持ちが塞ぎこんでいたのでLEDというよりも、灯篭から漏れくる祈りのようなあかるさがありがたい。
土産屋の店頭などに置いてある回すとキイキイ音を立てる絵葉書スタンドから、好みの一枚をえらぶのは旅の楽しみでもある。
何十年入れ替えもままならぬような絵葉書スタンドを見かけることがあるけれど、それがかえって心躍ったりするのだから旅というのはほんとうにおもしろい。
わたしのゆびに引き抜かれた絵葉書から湿気た匂いがした。
それはこの土産屋の匂いでもあり、土地の匂いでもあり、年月の匂いでもあった。
すべてを引き受けて、とてつもなく懐かしいような匂いになった絵葉書を一枚買った。
あの旅の秋を買ったのだった。
