この通りは大昔遊郭だった名残でセクシーなお店や宿泊施設(お察しください)が立ち並ぶ。
でも夜になってネオンがともるまでは、そのことが信じられないくらい風情のある石畳みがつづくのを眺めることができる。
喫煙をする場所が限られる都心のせいか、サラリーマンが幾人か川を眺めながらいっぷくしていた。
背広を脱いで片手に持つひと、近くのオフィスから出てきたようなクロックスを履いた背広のひと。川沿いで煙草を吸うのがいいか悪いかはさておいて、仕事をすこしばかり抜けてきて煙を吐き出している男たちも嫌いではない。妻たちは夫のこういう表情を知っているのだろうか。
東京の赤坂見附駅をニューオータニの方面へ歩いてゆく左手の弁慶池に、古くからあるちいさなボート場がある。あのあたりと此処は街の質感がよく似ている。
いずれの場所も仕事で訪れているという私的理由があるからというのも大きいが、川の流れる街というのはどことなく共通して憂いを帯びているものだ。
だからだろうか、すこし立ち止まり、川や川に映る空や映りきらない空やそれに、両脇に頼りなく茂っている街路樹などに目をやってから、さて、というように明日へ、いや駅へ向かうのだった。
だれの手も拒まぬやうに遊郭もてすりも川に添つてつらなる
漕戸 もり
