お祭りのシーズン。
秋には秋のたがの外し方がある。
うっすらと年末年始の影がちらつくからなのか、あとさき考えず適当に触れるというよりも、ややかしこまって人ともビジネスとも書籍や美術などとも、自分なりの丁寧さで弾けている。
秋のお祭りも丁寧に弾ける部類に属す。
屋台でフランクフルトを焼いたり、カステラを焦がしたりする匂いは、ついこの前の夏フェスでも嗅いだというのに、なぜかたったひと月ほどで郷愁を呼び起こす香りに変わるもの。自分の心をぎゅっと掴んでおかないと体からぽろぽろこぼれてしまうようなせつなさは、丁寧に弾けるための気付薬のようだ。
 
とある学園祭。
何十年経って世界は一変したけれど、学祭の独特な高揚感は全く変わっていない。
あのときのわたしに今のわたしを伝えたらどう思うだろう。
満更でもないのか、この程度なら生きていく意味がないとがっかりするのか。
学祭で、屋台の向こう側で鈴カステラを焼いていたわたしに、大きな夢があったのを今のわたしは知っている。
やっぱり情けなくって死にたくなるだろうなぁ。
 

眺めていたらどの学生さんもあのときのわたしに思えてきて、賑やかな学園祭はたがを外すまでにもいかずただただ胸がいっぱいになってしまった。

 

絞り出す最初の皮膚を決めておく薔薇の匂ひのハンドクリーム   漕戸 もり

 

新しいハンドクリームを買う。

ふふ。

嬉しい。