録画しているM1グランプリをまだ観られていない。

けれども、仕事の合間に携帯をひらけば、幸か不幸か

敗者復活の様子やら笑神籤の結果やら流れてくるので、

顛末だけは知っている。

ネタも10組ぶん観た。

こちらはYouTubeで、純粋にネタだけの動画を選んでこま切れにして。

ネタ順ではなく、待ち時間や電車の移動中にYouTubeを検索して、

たまたま出てきたのを数日かけて観ているので、カベポスターやダイヤモンドも

こらえるのに苦労するくらいおもしろかったし、

キュウもいい、ヨネダ2000もいい、もちろん他もめちゃめちゃ笑った。

今年は突出するコンビがいないと聞いていたけれど、

10組ぜんぶ優勝ということにして、1,000万円の優勝賞金を10で割り

100万ずつさしあげたらどうかとおもうほど、全コンビが一等だった。

そういう意味での<突出なし>だった。

 

ジャニーズ系、エクザイル系、韓流系。

上戸彩、長澤まさみ、新垣結衣。

そのどれもを、おなじエンタメで括ったからといって、

優劣など付けられるはずなど無いのとおなじだ。

今年は特にこの傾向が強くかんじられるM1だったようにおもう。

前評判として「どのコンビが優勝しても不思議ではない」と

言われていたのはこのためだろう。

運命は、実力はさることながら、番組を盛り上げるための籤(ネタ順)であったり、

審査員との相性であったり、当日の会場のお客様の反応であったり、

すべての<運>を持っているか、ということにかかっている。

YouTubeでランダムにネタだけを取り出して観たので、

余計そんなふうにかんじるのかもしれないけれど。

 

優勝はウエストランド。

おめでとうございます!

まだ10組のネタ部分しか観ていないので、

審査員の総評がわからないけど、なにはともあれおもしろかった!

10組どれもがおもしろいので、ウエストランドのところを(  )にして

そこにさや香を入れても男性ブランコを入れても、おなじように

おもしろかった!と言うだろう。

すべてのコンビに思い入れはあるけど、

今日は優勝したウエストランドについてすこしだけ。

 

ツービートの再来かとおもった。

悪口漫才といわれているウエストランドの、特に井口さんは、

すでにネットで叩かれているらしいけど、

おもえばたけしさんのほうがもっと毒を吐いていた。

お年寄りを「じじいばばあ」などと吐き捨て、

「赤信号をみんなで渡れば怖くない」と言って世の大人たちを怒らせた。

遡ればドリフターズの「全員集合!」だって、

わたしたちは、あのような番組は観るなと言われて育ったのだ。

それに比べれば、井口さんのなんと可愛いことか。

たけしさんはどこか、いつでも牙をむくような気配を漂わせていた。

「おれのことをじじいと言うな」となどと歯向かえば、

「なんだこのやろ」と腕をねじり上げるような、野良犬の風情があった。

一方の井口さんにはまったくそれがない。

悪口を言っているのには違いないのだけど、どことなくはじめからいじけていて、

相手が怒ってきたらぴゅーっと逃げて行ってしまうような、

もし捕まったとしても「ぼくはそんなこと言っていません!」と、しらっと言って

前述を簡単に覆してしまうような小物感というのが、

今の時代にぴたりとハマる。

最近の政治家の討論や物言いなどを観ているとよくわかる。

みなさん小物感半端ないじゃないですか。

それに、あの方々をすき好んで選んだのはわたしたちなのだ。

 

これからは、プロレスファンがアントニオ猪木にビンタを望んだみたいに、

井口さんに悪口を言って欲しいひとが続出するだろう。

企業のイベントに招かれているのに、その企業の悪口を言う漫才を披露して

大変喜ばれる、というよくわからない風景すら目に浮かぶ。

そういえばこれは、アメリカのエンタテインメントショーにあるウケかたによく似ている。

政治家やタレントや俳優をこっぴどくこきおろすのだけど、

当の言われた本人は手を叩いて喜んでいる、という

アメリカのスタンダップコメディを観たことがある。

ひどい言われように、アメリカ人はなんとおおらかなんだろうと感心していたけれど、

そうではなくて、<関心>を寄せることがどんなに温かなことなのか、

ということだったのだ。

生きていて、無視ほどおそろしいものはない。

 

一方、ウエストランドの相方である河本さんもとてもいい。

河本さんが、いいひとぶる市井の代表というかんじで、

ふんわりと井口さんの横にいるのがいい。

そういう意味で、河本さんは令和のビートきよしだ。

きよしさんはふんわりというか、この漫才が終わったらなに食べようか、などと

まるで他ごとを考えているようなぼんやりっぷりで

たけしさんの隣で相槌をうっていたのが、

今思うと誰にもまねできないすごいことだった。

ウエストランドの河本さんを観ていると、きよしさんのすごさをおもいだす。

 

優勝後のYouTubeで、ウエストランドの井口さんが河本さんのことを

侮辱しているようなやり取りを観たけれど、

これもすべて彼らの漫才の延長線上にある。

河本さんにいちばん感謝しているのは井口さんだし、

そんなことはみえないところでいくらでもしているに違いない。

けれど、それをわたしたちに感じさせてはいけないことを

彼らはちゃんとわかっている。

<悪口>はウエストランドの武器ということも。

活躍に期待を寄せる。

ほんとうにおめでとう!

 

追記

わたしは東京03のファンだけれど、

ウエストランドのネタに入っていてめちゃくちゃうれしかった。

あのネタを観て東京03ファンが怒っているだなんて、信じられない。

東京03のみなさんも笑っているとおもう。

すげーな、などと言いながら。

猪木さんにはもうビンタしてもらえないけれど、

井口さんにはまだ悪口を言ってもらえる。

これはとってもしあわせなことです。

 

 

 

    湧きやまぬ悪口で白菜濯ぐ  漕戸 もり