名古屋市内で10本の指に入るすきな場所。
ここからは日本百名山のひとつである伊吹山が見える。
高い場所がすきといっても、高ければいいってもんじゃない。

地には地の、空には空の、そばにあってほしいものがある。

たとえば地なら土の匂いだったり、植物の息遣いであったり、

空なら済んだ空気や羽根を広げる鳥、更に夜景という付録も欲しがらなくてもある。

この部屋が作られた約50年前

(建物そのものは約85年前に建てられていて上へ上へと延びていったそうだ)

には、まわりにビルはなく、

(ということは車も少なく空気は澄み切っていたとおもわれる)

伊吹山どころか、となりの池田山や貝月山に

うっすら雪が積もるのが肉眼で見えたというけれど、

そのころの夜景を鑑みると、今の眺望も断然捨てがたい。

写真の出来栄えが冴えないので、いくら力説しても

この場所の良さをわかってもらえないかもしれないけれど、

この部屋の、大袈裟でない広さと、飾り気のない調度品と、

あたらしさを取り入れがたい不器用さも相まって、

そんなあなたがすきなのだった。

 

先日、眠れない夜にYouTubeを流し観していたら、

不思議な話をしている動画が目に留まった。

 

今まで付き合ったことのあるだれよりも、

じぶんと波長がぴったりと合い、愛されて、

おなじように愛していた恋人が、

いつまでたっても結婚だけを口にしないので、

別れを覚悟でこちらから結婚について尋ねたら、

恋人が、みたこともない沈んだ表情で、

絶対に誰にも言ってはいけないけれど、実はじぶんは宇宙人で、

今は人間という仮の姿で、使命をもって地球に来ているので

結婚はできない、と言われたのでさよならしたという話だった。

彼女は馬鹿にされていたおもいで(そりゃそうだ)

相当立腹して別れたのだが、

それからしばらくして仕事で、

かつてよく訪れていた元恋人のマンションの近くに来たので、

懐かしさからマンションまで行ってみようと思い立った。

でも、行けども行けども風景はおなじなのに、

マンションだけがみつからない。

取り壊しをしたから無いのではなく、空き地もなにも、跡形も無いので、

当時馴染みだったタバコ屋

(夢うつつで聴いているので定かではないけれどそんなようなお店)

の店主にマンションのことを尋ねると、

もともとここには古くからそのようなマンションも建物もない、

と言われたのだという。

 

ざっくりだけれど、そういうお話だった。

 

 

 

もしかして、宇宙人という存在がいるのだとしたら、

ここは間違いなく気に入るだろう。

あの話を聴いて以来、この部屋で仕事をするたびに、

宇宙人探しに熱が入るのだった。

宇宙人は、一期一会のお客様かもしれないが、

案外身近にいたりして、これをわたしに書かせているのかもしれない。

まあどちらでもいけれど、

今まで付き合っただれよりも波長が合って愛されたら、

とおもうと、いろいろ自信がない。

そんなことをかんがえながら今日も伊吹山を臨むのだ。

 

 

  ワイヤレスマイクがひとつもない部屋で銀のスプーンが掬いとる声

                       漕戸 もり