人生最後に何を食べたいかという問いはすっかり定番になってしまったけれど、
今ここで改めて考えようと考えまいと、お寿司と決まっている。
ミシュランガイドに載っているお店でも、街なかにあるお値段が書かれていないお店でも、
回転ずしでも、自家製手巻き寿司でも構わない。
新鮮なお刺身と小口サイズに整ったご飯
(できれば酢飯がいいけれど、この場合死に際なので白米でもいい)
、擂りたての(これもできれば、の話)わさびがあればなおいい。
サーモンなんて死んでも頼まない(というか、いままさに死ぬのだ)。
おもむろに、看護師さんに「ネタは何がよろしいですか」とでも聞いてもらいたい。
するとわたしは息も絶え絶えに「こはだ」などと言うのだ。
それからもし時間が許せば、フグの白子の軍艦と、死ぬというのに鰻の肝などをお願いする。
 
閉店間際の回転ずしに飛び込んだ。
21時30分オーダーストップのお店に21時20分に入る。
名古屋市内の郊外の店舗なので先客は店内に2組。お持ち帰りのお客様がひとり、そしてわたしだ。
既にほろ酔い気分なので、さくさくとタッチパネルをぐぐる。
当然お会計は自分なのでお値段を見てお品を選ぶ。
おそらく、いつもは忙しい駅前店でも、閉店間際はイケメンすし職人さんと話し放題だ。
へらへらおしゃべりしつつ、こはだや鉄火巻きやあじなどをたのんでゆく。
ああなんて安上がりなわたしなのだろう。
でもとってもしあわせだった。
仕事柄お金持ちにごちそうになるときもあるのだけれど、
やっぱりこはだや巻物や青魚をたのむので
「遠慮しないでたべたいものを食べてください」と勧められる。
いやいや、しあわせですから。
そういえば納得してもらえるのだろうか。
 
回転ずし、とうまく言えなくて未だにくるくる寿司と言ってしまう。
でも、くるくる寿司のはずなのにくるくるしていない寿司屋さんが増えた。
この日も、回転ずしと書いてあったから入ってみたのにくるくるしていなくて、
まあそのおかげでイケメンすし職人さんと語り合えたのだけれども、なんだかいつまでも粗大ごみに出さないで部屋の隅に置いているラジカセのように、廃線が決まった電車のレールのようなものを隔てていつまでも距離は縮むことはないのだった。
 
写真手前は、海鮮の切れ端がぎゅうぎゅうに詰められた軍艦。
こういうB級品がいちばんおいしいのよ。
B級、ごめんなさいね。上等です。
 
 頁六父を超えゆく瞬間も曝け出されて香川照之   漕戸 もり