日本でいちばん有名なしずかちゃんといえば、源静香だ。
こんなにだれもが知っているのに、本名は意外と知られていないのも著名さを物語る特徴である。
「サンプラザ中野くん」さんのように、
つい「しずかちゃん」さんと言ってしまうような名前感が半端ない。
公式ドラえもんチャンネルのキャラクター紹介を見てみると、
しずかちゃんの性格は、かわいくてとてもやさしくしっかり者。
好きなものはお風呂。好きな食べものはやきいもらしい。
かわいくやさしくしっかりもの、とすべてを兼ね備えているような万能感を漂わせているものの、
お風呂や焼き芋が好きだなどと、恥ずかしげもなく公表してしまう潔さもかえって好感度を上げている。
蛇足だけれど、のび太は(呼び捨ての段階でもうアウトである)8月7日生まれ。
勉強もスポーツも苦手な怠けもの。特技はあやとり。
好きなものは、早寝、射撃、しずちゃんと紹介されている。
ただただ、少なくとも日本に「のび太」という名まえの人が実在しないことを祈るのみである。
 
逆にいえば、「しずかちゃん」には、
できれば今すぐにでも名まえを替えたいと思うくらいの確かな好感度がある。
自分が「しずかちゃん」として生まれてこなかったことにがっかりしながらも、
「しずか」という名まえの人に出会うと、
秒で「しずかちゃん」と呼んでしまうのはもう愛情でしかない。
あの強面の伊集院静さんのことでさえ、
心の中では「しずかちゃん」といつのまにか呼んでいるのだから。
 
そんな無礼極まりないわたしなので、歌人大森静佳さんのことも愛をこめて
「しずかちゃん」と呼ぶ。
 
「今年出たしずかちゃんの歌集「ヘクタール」読んだ?」
「なかなかNHK短歌を観られないけれど、先週のしずかちゃんはよかった」
 
、が正しい使用方法である。
 
 
人は人、わたしはわたしと思っていても素通りできずに立ち止まるものがある。
立ち止まってから歩き出す一歩が、わたしと思っていたものに変化をもたらしながら。
 
 
 
   うつむいて髪あらう夜たくさんの岩がぶつかるからだのなかで
           ( 歌集「ヘクタール」文藝春秋  大森静佳)