ニューヨークからボストンの研究室に移動した著者は、徹夜実験の帰り、
街路の静けさに包まれて、あることに気づく。
「そのとき、ニューヨークにあってここに欠落しているものが何であるかが
初めてわかった。それは振動(バイヴレーション)だった。街をくまなく覆うエーテルのような振動。
誰もが急ぐ歩道の靴音、古びた鉄管をきしませる蒸気の流れ、
地下に続く換気口の鉄格子から吹き上がる地下鉄の轟音、塔を建設する槌音、
壁を解体するハンマー、店から流れ出る薄っぺらな音楽、人々の哄笑、
クラクションとサイレンの交差、急ブレーキ・・・・・・。
マンハッタンで絶え間なく発せられるこれらの音は、摩天楼のあいだを抜けて高い空に拡散していくのではない。むしろ逆方向に、まっすぐ垂直に下降していくのだ。
マンハッタンの地下深くには、厚い巨大な一枚岩盤が広がっている。高層建築の
基礎杭はこの岩盤にまで達している。摩天楼を支えるため地中深く打ち込まれた
何本もの頑丈な鋼鉄パイルに沿って、すべての音はいったんこの岩盤へ到達し、
ここで受け止められる。岩盤は金属にも勝る硬度を持ち、音はこの巨大な鉄琴を
細かく震わせる。」
「この振動こそが、ニューヨークに来た人々をひとしく高揚させ、応援し、ある時には人をしてあらゆる祖国から自由にし、そして孤独を愛する者にする力の正体なのだ。なぜならこの振動の音源は、ここに集う、互いに見知らぬ人々の、どこかしら共通した心音が束一されたものだから。」
福岡伸一『生物と無生物のあいだ』講談社現代新書、p.205-206
エネルギッシュなニューヨークには、こんな秘密が隠されていたんですね。
週末の読書の収穫でした。













































