幸男は和子を助手席に乗せると静かに車を出した。病院までの道すがら和子は窓の景色を眺めていた。幸男は、その様子をちらちら見ながら、たとえ最悪の結果が出ようとも最期まで息子として面倒を見ようと思うのだった。
10分ほどで病院に着いた。幸男は駐車場に車を停めると、すぐさま車から下りて助手席のドアを開けた。
「母さん、着いたよ。」
幸男は優しく話しかけた。
「ありがとう。」
和子は微笑んだ。
幸男は決して焦らずに和子の歩幅に合わせて歩いた。
病院の受付で手続きを済ますと、幸男は和子と認知症外来の待合室に向かった。そこは、病院の1階の奥まったところにあり、そこの空間だけ壁紙が薄いピンク色で、クラシック音が静かに流れていた。すでに3組ほどの患者がおり、幸男と和子は空いているソファに座った。
程なく、看護師らしき中年の女性が声を掛けてきた。
「中村様でいらっしゃいますか?」
女性は笑顔で話しかけてきた。
「はい、そうです。」
幸男はとっさに答えた。
「こちらの方が和子様でいらっしゃいますね。私は看護師の関根と申します。このあと医師との面談を受けていただきますが、私がすべてサポートさせていただきますのでどうぞご安心ください。和子さん、なにも心配いりませんからね。」
看護師は笑顔で、そして優しい声で和子に言った。