
人気ブログランキングへ
熊本県をPRする、いわゆる“ゆるキャラ”の「くまモン」の人気が沸騰している。関連グッズの売上高は昨年300億円近くに上り、今年はさらに上積みが期待されている。こうしたゆるキャラは全国で続々登場、グッズのほかテレビCMに起用されるなど経済効果が広がりをみせている。ただ、雨後の竹の子のように乱立するゆるキャラだが、大当たりするのはほんの一握り。生み出す地方自治体側も、著作権やコスト管理などのノウハウも手探りの状態で、継続的なビジネスになるかは読み切れない部分もある。
【クールジャパン】 沖縄や京都をアニメの聖地に?
「きゃー! かわいい!」。3月下旬、東急ハンズ新宿店(東京都渋谷区)には雨にもかかわらず女性や子供客が押しかけた。お目当ては、同店の熊本物産フェアに駆けつけた「くまモン」。赤い頬にずんぐりとした愛らしいボディーで踊る様子にカメラを向け、イベント終了後にはくまモンのイラストが印刷されたお菓子や文房具などを次々と購入した。同店によると、4月7日までのフェア期間中、売上高は当初目標の約1.5倍の約600万円に達する盛況ぶりだった。
九州新幹線全線開業を控えた2010年に熊本県をPRするために誕生したくまモンは、同年に大阪、11年に東京、12年には全国へと露出を広げ、子供や女性を中心に人気を集めた。人気にあやかろうと民間企業が関連グッズの製作に相次ぎ参入し、くまモングッズの12年の売上高が前年比約11倍の約293億円に上った。把握しきれていない部分や「熊本のPR効果も合わせ、1000億円ぐらいの価値があったのではないか」(蒲島郁夫熊本県知事)という。
ご当地キャラクターは以前から多数存在するが、くまモンが異例のヒットとなったのは、イラストの使用料を無料開放しているところが大きい。“元祖ゆるキャラ”として06年に登場した滋賀県彦根市の「ひこにゃん」は、イラスト使用料が無料だった07年度は関連商品の売上高が17億円あったが、10年7月に有料に切り替えたところ同年度の売上高は6億円に急減。また、10年から昨年まで、類似イラストを使った商品を製造販売した原作者らと裁判となり、イメージを損ないかねない事態も起こった。
これに対し、無償を続けるくまモンのグッズは広がる一方で、地方経済総合研究所(熊本県)によると、認知度は今月までに全国で9割近く、首都圏でも7割を超えた。熊本県くまもとブランド推進課は「知事の判断で無料にしたが、広く活用していただいており、今後もPRを強化していく」と話す。地域のPRに有効とみて、こうしたゆるキャラが全国で拡大。ファンによる投票で人気順位を決める「ゆるキャラグランプリ」へのエントリー数は、11年の349体から12年は865体に倍増した。
愛媛県今治市では「バリィさん」が12年のグランプリで優勝し、市内にある観光物産館の同年度の売上高が前年度比2倍に膨らみ、「県外からの買い物客も増えている」(同市商工労政課)という。「ぐんまちゃん」が3位を獲得した群馬県は、12年度の民間企業によるイラスト利用申請件数が前年度比2倍の620件に。アサヒ飲料やウィルコム、カゴメなどの大手企業がテレビCMや商品でタイアップし、日本郵便が切手セットを発売するなど勢いを増している。
こうした経済効果が見込めるゆるキャラだが、生み出す地方自治体にとっては“ゆるくない”部分もある。熊本県によると、12年度のくまモンに関わる予算は約1億9500万円。一方、PHP研究所の佐々木陽一主任研究員は、くまモン効果による同年度の県税収入の押し上げ効果をざっと1億円と試算する。県は収入効果を出していないが、仮に単純計算した場合、コストの方が約1億円上回る。絶好調のくまモンを抱える熊本県がこうなのだから、人気のないゆるキャラを持つ自治体は予算がつかずに活動休止に動いてもおかしくない。
12年のグランプリで8位に入賞した岐阜市の柳ケ瀬商店街の「やなな」は「(人気がなくなるなど)ネガティブな理由でやめると商店街のイメージが悪くなる」と3月に活動を休止し、かじ取りの難しさを浮き彫りにした。PHP研究所の佐々木氏は、自治体がゆるキャラを生み出す動きについて「人口減少や過疎化が進む中、県税収入の増加に向けた自発的な取り組み」と評価。ただその一方で、「継続するには的確なコストマネジメントが必要。自治体から第3セクターや域内企業に事業を譲渡するのも手では」と指摘する。一過性のブームで終わらせないためには、自治体自身が費用対効果の徹底や、消費者ニーズをとらえて飽きられない工夫を続けていくことが重要になりそうだ。(金谷かおり)
- 「年収300万円」が分かれ道 結婚できる男、捨てられる男
- ずんぐりボディーの熊本の顔、人気のナゼ くまモン大解剖
- 流されないシャア専用「オーリス」 マニアの心を揺り動かすか
- トヨタ、リスク覚悟の「顔改革」 嫌われても…心に響くデザインで攻める
- 「トミーカイラZZ」予約好調 ベンチャー企業のEVスポーツカー