いろいろな苦労があるんですね。   (~_~;)    ゆう@子育てパパ


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 水島精二氏は、アニメーション作品「機動戦士ガンダム00」「鋼の錬金術師」の監督として知られているのではないかと思います。今回は、その水島氏が監督としてではなく、スーパーバイザーを務める、少女がトップアイドルを目指すというストーリーのアニメ「アイカツ!」にちなみアイドルについて聞きます。



―― まず、水島さんがどのように、現在放送中のテレビアニメーション番組「アイカツ!」のスーパーバイザーを担当することになったのか教えてください。



水島氏 実は最初、「アイカツ!」の監督をやらないかというオファーがあったのですが、ちょうど他の作品とバッティングしてしまってお断りしたんですよ。そこで、「木村隆一さんに監督をしてもらい、水島さんがバックアップするというのはどうですか?」という提案をいただきまして。



 木村さんには、「夏色キセキ」や「はなまる幼稚園」といった少女を描く作品を監督したときに、副監督として腕を振るってもらっていて、彼の素直な作風やにじみ出る優しさには感心していて「この作品には向いているな」と思い快諾しました。



 僕はどちらかというと人の心の闇に焦点を当てるような作品を多く監督しているので、例えば「正義」というセリフひとつとっても、その言葉のまま受け取ってもらえないことが多いんです。「『正義』といっているけれども、水島のことだから、裏にはきっと別の意味があるぞ!?」と勘ぐられてしまって。別に何もないのに……。



 木村監督ならその手の心配は皆無なので、僕がやるよりいいんじゃないかというのもあって。まあ、僕の名前もクレジットされているので、「まだ油断はできないぞ」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)。



●タイアップ企画の相乗効果



―― そういった経緯でスーパーバイザーになられたのですね。ところで「アイカツ!」のスーパーバイザーというのは、具体的には何を担当されているのでしょうか?



水島氏 劇中の歌や音楽の制作を中心に、アニメーション制作やプロジェクト全体へのアドバイスをするなど、木村監督を実作業面でフォローしています。木村監督は1年間のスパンで放送される作品というのは初めてだったのと、制作期間に余裕がなかったので、スタート時の全体的な取り組みや整理をお手伝いしました。



 それから、アニメ「アイカツ!」は、ゲーム「データカードダス アイカツ!」ありきの作品なので、バンダイの担当さんたちと設定などを協議して決めることも多いんです。それで、そういった部分での関係も早めに構築できるように、プロデューサーとともに橋渡ししました。



―― 「アイカツ!」はゲームが原作のコラボレーション作品ということで、他の作品と違った部分はありますか?



水島氏 「機動戦士ガンダム00」を監督したときもそうだったのですが、僕の考え方は「ある物はすべて作中でも使う」というものです。「ガンダム」は、必ずガンプラにしてもらえるという幸運な作品ですから、もうこれは動きから何まで完全再現できるものをデザインしようということで、変形機構なども立体化を前提として考えていました。バンダイの担当さんにも、「メカ設定打ち(合わせ)」に出席してもらって、細部まで相談して進めました。



 それと同じで、「アイカツ!」の場合も、ゲーム中のアイテム、商品として予定されるものを可能な限り作中に盛り込むこと、再現することを現場に働きかけました。アニメやゲームに限らず、タイアップものというのは、両者、あるいは周囲で支え合って盛り上がるものだと思うんですね。



 「アニメ版では、それは無理だから……」といってしまうと、それ以上の広がりがないですし。ゲームの設定を盛り込むために「このデータをください」とやり取りしているうちに、何もいわなくても「これは使えませんか?」と、いってもらえるようになったりして協力関係が築かれ、相乗効果で作品の世界が広がっていくんですよ。



 そうすれば、アニメの現場発信で「こんなアイテムをこんな話で登場させるので、商品化できませんか?」なんて提案もできるようになる。これこそがチームワークで、実務担当者同士が親密に話をすることができるようになれば、スムーズに作品情報の共有がはかれるようになりますし、強い信頼関係により、おもしろいアイデアをたくさん出すことができる環境になるんです。



●打ち合わせから生まれた「メリッサ」



―― 主題歌をはじめとして、アニメと音楽は切り離せないものだと思いますが、どのように取り組んでいるのでしょうか?



水島氏 僕は、もともと音楽が大好きなので、自分が関わるアニメ作品の音楽にはこだわってきました。作品に合うのであればどんなジャンル、メジャーでも、マイナーでもよいのがアニメソング、映像音楽のよさだと思うんです。だから、先入観にとらわれることなく、カテゴライズで判断することをせず、なんでも聴いてみることにしているんですね。



 とはいえ、僕が監督をはじめたときは不遇な時代で、ある作品でヴィジュアル系バンドとタイアップが決まりかけたのですが、先方のメンバーが「アニメの歌になんか使ってくれるな」といいはじめてご破算になったこともありました。



 「どうせアニメの音楽なんでしょ?」というような偏見がなくなったのは、西川貴教(T.M.Revolution)さんが「機動戦士ガンダムSEED」の主題歌を担当してくださったことが大きかったと思います。映像と音楽というのは親和性の高いものですから、「SEED」を観て「アニメの音楽もスタイリッシュでカッコイイ!」と思ってくれた人がたくさんいたんですね。



 その後もソニー・ミュージックエンタテインメントさんは積極的にアニメーション作品の音楽に取り組んでくれるということだったので、「鋼の錬金術師」を監督する際には、どのアーティストの楽曲が合うのか知るために、ソニーグループのアーティストの曲を聴きまくりました。



 そこでよいなと思ったのが、ポルノグラフィティさんで、サウンドや世界観が作品に合うと伝えたところ、主題歌を担当していただけることになって。それで打ち合わせをし、作品と向かい合って作っていただけたのが「メリッサ」という曲なんです。



●水島氏から見たアイドルシーン



―― 水島さんは「アイドルにいちばん詳しいアニメ監督」という紹介をされることがあるそうですが、今のアイドルシーンをどう見てらっしゃいますか。



水島氏 いちばん詳しいわけじゃないと思いますが(笑)。先ほども言ったとおり、根が音楽好きで、とりあえずなんでも聴くのがモットーなので、アイドルの曲もいろいろ聴いてきました。「アイドル戦国時代」なんていわれている昨今ですが、本当にそうだと思います。



 今はグループアイドルが全盛で、たくさんのグループがあります。それこそ、AKB(AKB48)や、ももクロ(ももいろクロバーZ)のような国民的アイドルグループだけでなく、SUPER☆GiRLS(スーパーガールズ)や℃-ute(キュート)のような歌って踊れてかわいい王道アイドルから、地方色豊かなローカルアイドルまで。



 アイドルって厳密な資格があるわけじゃないから、言ったもん勝ちというところもあるし、本人がアイドルじゃないって思っていても、事務所の都合で「アイドルです!」という売り出し方になったりもする。



 例えば最近でいえば、樹海で撮影した全裸(っぽい)PVが話題になったBiS(ビス)のような存在もいます。年齢もそんなに若いとはいえないですし、そんな崖っぷち感が、彼女たちだけの味になっているんですね。そんな強烈な個性を持っていても「アイドルだ」といい張ればアイドル、みたいなところもあって本当に多様化していると思います。



 でんぱ組.incもかなりアイドルらしからぬグループですが、そのエッジ感ゆえにドラマに本人役でグループ自身として出演したりしていて、今すごくアツイです。



●ももクロの全力さ、ハロプロのひたむきさ



水島氏 ももクロは一度ライブを観たとき圧倒されました。彼女たちのライブはすごくて25分ぐらい激しい歌と踊りのパフォーマンスをノンストップでやるんですよ。ハラハラして観ていたら、短いMCの後、またさらに25分をもう1セットという感じで。



 観ている僕らのほうが圧倒されて「口あんぐり」な状態でした。(ステージの)袖に入ったら「酸欠で倒れてるんじゃないの?」と思うぐらいの全力さなんですよ。そんなほかのグループにはマネできないパフォーマンスが、今の成功に繋がっているんだと思うんですが。



 僕は、AKBも、ももクロのステージも観るし、音楽も一通り聴きますが、それでもハロプロ(ハロー!プロジェクト)が好きですね。



 ハロプロは、地方の会場を数多く回るツアーを精力的にこなして作り上げてきたパフォーマンスのレベルが抜きんでているんです。総合力が高いんですね。モーニング娘。のブレイクで一時期はメジャー第一線でしたが、今は武道館がとか、ドームがというのじゃなく、地道に地方巡業し、力を付けています。そんなハロプロ系のひたむきさが、僕の心を打っているんですね。そういった地道な活動って、ファンの心に届くものなんです。



水島氏 それから、「卒業」というとAKBを連想するかもしれませんが、あれは何かきっかけがあっての「卒業」でしょう? さくら学院なんかは義務教育終了までという年齢制限があって、本当に中学校卒業とともにグループからも「卒業」するのが明らかになっているんです。最近のアイドルは劇場型というか、そういった成長を見守るような要素が強くなっていますね。



 AKBの握手券入りCDだとか、商魂たくましいとネガティブな方向でとらえられがちだと思うんですが、それ自体はアイドルでは当たり前のことで、買うことによってダイレクトに応援ができる。自分たちで支持したものが育っていくというのが、アイドルの醍醐味だともいえると思います。



 誰も支持しないアイドルは活動休止になったり、グループが解散したりして残らないわけですから、CDを買ったり、ライブに行ってグッズを買ったりする意味は明らかにあるわけで、そういったことを感じ取っているから、これだけのファンが地方にまで追いかけて行ったりするんだと思うんですよ。



 なかなか世の中、自分の支持したものがどうなっていくか、結果を見届けることができることも少ないと思いますし。いろいろな要素がせめぎ合うというのは、音楽業界にとってもよいことだと思うんですね。



●現実と劇中に共通する「スポ根」の要素



―― そういった現実のアイドルの存在が、アニメ「アイカツ!」に与えている影響も多々あるということでしょうか?



水島氏 主人公だけでなく、ほかのサブキャラクターも含めて1人1人が魅力的なキャラクターということでは、現実のアイドルに即したものとなっていると思います。



 最初は3人の仲良しグループ、友人でありライバルでもある彼女たちからはじまって、だんだんと登場人物が増えていくのですがどのキャラも独自の魅力があるんです。



 「アイカツ!」のメインターゲット層が7歳から9歳の女の子なので、物語のおもしろさやキャラクターのかわいらしさももちろんのこと、分かりやすさというのも重要なんですね。いきなり、5人とか8人とか出てきてしまったら、名前を覚えるのも大変だというのがあって。



 あとは、ももクロにも感じられると思うのですが、スポ根の要素ですよね。さすがに昔のように汗だく泥だらけではなく、明るいスポ根という感じですが、登場人物たちが努力してがんばったことで成長していくという要素があるんです。ランニングのときの「アイカツ! アイカツ!」というかけ声も、自然に制作の現場から生まれたんですよ。



 スポ根なんだけど、明るい物語でギャグ要素もあって、ちゃんとサポートして育ててくれる善良な大人の存在もある、木村監督の本領発揮といった内容になっていると思います。



●制作現場には厳しい存在も必要



水島氏 実は当初、シリーズ後半に、葛藤というかドロドロとした人間関係の要素も入れる予定だったんです。でも、数話放送された後、「そういうのは一切いらないじゃん!」と思いました。もし、自分が監督をしていたら、そこまで割り切れなかったと思うので、スーパーバイザーという立場で関わって、作品全体を俯瞰(ふかん)できたのがプラスに働いていると思います。



 あとは、主人公たちを見守る先生たちのごとく、要所で木村監督に「本当にそれでいいのか?」とプレッシャーをかけたりですね(笑)。やはり、よい作品を作るためには、厳しいことをいう存在は必要です。なぜそうすべきなのか、アドバイスする際は理由は伝えているつもりなので、木村監督には「理不尽ではない」と思ってもらえているとは思うのですが……。たぶん(笑)。



―― 確かに、誰かにやらせるのではなく、自分ががんばってみる、自分で努力してみるという登場人物たちの行動には、分かりやすい、すがすがしさがあります。子供と一緒に安心して観られますし。



水島氏 元々、ゲーム「アイカツ!」に、そういう要素が色濃くあるんですよ。レベルを上げてさえしまえばボタン1個で倒せるというのではなく、プレイヤーが練習することで、ゲームがうまくなってステージパフォーマンスできるようになる。衣装をカードでコーディネートするんですが、同じブランドの組み合わせだけでなくても、「グッドコーデ」になって高得点に結びついたり、プレイヤーがセンスを磨いて工夫できる余地、自分で考える余地もあるんです。



●子供向けだからという妥協はない



水島氏 アニメ「アイカツ!」のステージシーンはゲーム「アイカツ!」のステージパートとシンクロしているのですが、毎回、アニメ用に別のCGスタッフが制作しているんです。



 スケジュールが厳しい中で制作がスタートしたので、時間的にできないことは受け入れるしかないのですが、心がけているのは、限られた条件の中でも「よりカッコイイもの」を提供するということです。



 最初から、時間もないし、子供向けだから「これでいいよ」という妥協でできたものって、結局「しょぼい」ものになってしまうんです。



 そんなものは子供たちの心に残らないだろうし、最初は珍しがってくれてもすぐに飽きられちゃう。だから無茶であっても表現のハードルを高めに設けて、そこを目指していく。そのうち、ノウハウが蓄積されて、最初はできなかったことがいつの間にかできていたりするもんなんですね。



 つまり、アニメの登場人物、演じている役者たちだけじゃなくて、我々「アイカツ!」制作チームも一丸となって「一緒にがんばって、成長しようじゃないか!」ということでやっているんです。



 それは音楽制作も同じことが言えて、コンセプトはアイドルの持つ多様性、その中でも、「エッジがきいた、心に残るもの」をというものなんです。子供って先入観がないから吸収力がすごくて、童謡めいたものじゃなくてもちゃんと聴けるんですね。誰でも子供の頃、お父さんやお母さん、お兄さんやお姉さんの聴いていた曲に影響を受けたこと、あると思うんです。



 大人になるとどうしてもジャンルにとらわれがちなので、当初、バンダイの担当者にも方向性がうまく伝わらなかったんです。そこでまずは、担当さんの考えるアイドルソングをいろいろ聴きながら探っていき、その後で、ジャズならジャズ、クラシックならクラシック、パンクならパンクのイメージする曲を聴いてもらって、さらに、その要素が含まれるアイドルの曲を聴いてもらい、方向性を確認する。それを繰り返して信頼を得ました。



 実作業は、まずゲームの演出とシチュエーションを教えてもらい、先方の参考曲を聴き、曲のイメージを固め、こちらの参考曲にメモを添えてゲーム側の担当者に確認。OKが出たら、そのメモと参考曲を元に作曲家さんに依頼するというフローでした。



 ファイルを送ってというやり取りももちろんしましたが、ダイレクトにお話しするためにレコーディングに立ち会い、直接コミュニケーションできるようにも心がけました。



●幅広い音楽ファンに楽しんでもらいたい



 僕自身が、「今までのアニメにはないスゴイ曲が聴きたい!」と思ってやっていますし、作曲家さんのことが分かってくると、この人はクラシックのしっかりとした知識がベースにあるから「ここまで要求してみよう!」とお願いして、仕上がりが想像以上だったりすると「ここまでやってくれたのか!」と感激したりしています。



 いちばん「アイカツ!」を楽しんでいるのは「僕なんじゃないか?」と思う瞬間もありますね。とある作曲家さんには「水島さんがいうのはこういうのでしょ? でも、すごい大変だったんですよ!」といわれたりして(笑)。



 ただし、楽しんでいるのはもちろんですが、それだけじゃなく実務的なこと、作曲家さんであったり、ほかのスタッフの皆さんとの共同作業ですので、ちゃんと自分が目指すものを精度高く伝えて、相手の気持ちもくみつつ自分のイメージするものを構築するということが大事だと思っています。



 「アイカツ!」のステージに使用される楽曲には、アイドル的な音楽だけではなく、いろいろなジャンルの音楽の要素が幅広く含まれています。お子さんだけでなく、ご両親であるとか、普段はアニメを観ないような音楽好きの方にも、そういった要素に注目して楽しんでいただきたいですね。



―― 最後に水島さんが現在、注目している「推(お)し」のアイドルを教えてください。



水島氏 でんぱ組.incとBABYMETAL(ベビーメタル)ですね。でんぱ組.incは「アイカツ!」で歌を担当してもらっているSTAR☆ANISと同じ事務所なので、ある意味、彼女たちの先輩で目標のような存在かなあと(笑)。BABYMETALは、さくら学院の部活動ユニットという位置づけなんですが、こちらは名前の通りかわいらしさの中にもきちんとHEAVYMETALの要素があって、それが魅力なんですよ。