こんなこと考えてくれる企業って日本にいくつくらいあるんだろうか?(~_~;)



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 高度な技術と高いシェアを誇る部品メーカーといえば、大阪府東大阪市が代表的な集積地。もちろん、そうした日本のモノ作りを支える中小企業は他地域にもある。鋳物製滑車「プーリー」で国内シェア8割を誇る鍋屋バイテック(岐阜県関市)は、社員が取得した「資格」に毎月手当てを支給する。しかも、対象となる資格は「漢字能力検定」など、業務とは直接関係ないものでもOKで、その数なんと140余り。おまけに受験のための教育費も出すという。そこには創業450年の超老舗企業の「熱い思い」があった。



 本社食堂にある「スキルボード」と題した掲示板。電気工事士、危険物取扱者、販売士…。社員の名前と、取得した資格が隙間なく書き込まれている。資格取得者に手当てを支給する「マイスター制度」の対象者らだ。同社がこの制度を導入したのは15年ほど前。今年9月現在で社員が取得した資格数は累計1041件で、社員数で割ると1人3件強は取得した計算になる。実際、75%の社員は何らかの資格を取得している。



 手当ての支給額は、資格ごとに数百円から数万円まで。最高では10件強を取得し、月4万4千円も受給する社員もいる。資格取得のために通信教育を受ける場合、全講座を修了すれば受講費は全額会社が負担。途中で断念しても半額は負担する。制度による会社の出費は年間3千万円にもなる。



 業務と直接関係ない資格の取得が目立つのもユニークだ。例えば、経理担当の社員が危険物取扱者、工場の作業員が秘書技能検定…など。ちなみに、工場作業員の人気資格は秘書技能検定という。企業経営に「投資対効果」が求められる昨今、なぜ一見“ムダ”な投資を続けるのか。



 金田光夫社長は「遊びの部分があって、初めて仕事はおもしろい。人としての深さや幅をもたせる支援ができたら、回り回って社業にいいことがあるかもしれない」と話す。そこには「社員の幸せが第一」という同社を貫く経営理念がある。なんとも懐の深い会社なのだ。同社は1560年創業。千利休に茶釜を納めたこともある鋳物業が発祥の老舗の名門企業だ。



 ただ、これまでの道のりは平(へい)坦(たん)ではなかった。高度成長期が終わるとともに、業界の価格競争が激化。コスト削減のために大量生産し、一時は在庫が積み上がるという悪循環に陥ったことがある。そのとき、創業家出身の故岡本太一会長が事業の大変革に着手。社員の自主的な取り組みに任せ、1個の注文から応じる“多品種微量生産”に切り替えた。



 また、米国でデュポンやGEを見学した際、創造的な製品は従業員が働きやすい環境から生まれる、という考え方に大いに感銘を受けた。社員の向学意欲を応援する仕組みはそれがきっかけだった。「誰しも資格が認められるのは励みになるはず。それでみんなが楽しんで働けるようになれば」と担当者は話す。資格取得者はリーマンショック後の平成21年と22年に前年比2割強も増加。その21年は初の営業赤字になるなど厳しい状況で、受検者増加は“痛手”だったが、それでも継続した。「勉強するきっかけになるのなら安いもの」と金田社長は気にしない。



 「働きやすい環境」は、本社工場にも“完備”されている。芝生に囲まれたコンクリート打ちっ放しのオフィス、長良川をイメージしたプール、名画を集めた美術館、さらにコンサートホール、フィットネスクラブ、雀荘…まるでリゾート施設と見間違うほどだ。まだある。3年に1度は全社員で海外旅行。夜勤はなし。売り上げ目標もなし。「中小企業はどうしても景気に左右されやすい。数字で引っ張るだけではダメ」(金田社長)だからだ。



 にもかかわらず、23年は売上高75億円と過去最高を記録した。利益率も2ケタ近くを確保し、低コスト体質が定着した。同社の「社員の満足度」をあげる取り組みは注目を集め、いまや破竹の勢いの韓国サムスン電子が、中堅社員研修に同社の視察を組み入れた。



 「生き残るためには、未知の分野への挑戦と新しい市場の開拓が不可欠。それには、ますます人の力が必要になる。人への投資は削らない」と金田社長。「社員の幸せ」に投資して社業を活性化へ。同社の取り組みは人材育成のヒントになりそうだ。(内山智彦)