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今月19日に発売された「ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良2013」。飲食店を星の数で格付けする世界屈指のグルメガイドに選ばれる栄誉に、今回は277軒が浴した。だが、その中にお好み焼きやたこ焼きなどの“粉もん”の店は、またも一軒も含まれていなかった。ミシュランガイドの関西版が発行されるのは4回目。関西人にとってのソウルフードはなぜ、いまだに星を獲得できないのか。
【フォト】「2度づけ禁止」の大阪からみる「世界食の事件簿」
■ミシュランマンも食べてるのに…
「ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良2013」をめくってみると、目に飛び込んでくるのは高級そうな料理ばかり。何度開いてみても、ソースの匂いが漂ってきそうな写真は見当たらない。
にもかかわらず、ページの右下に目を落としてみると…。あった! ミシュランタイヤのキャラクター「ミシュランマン」がお好み焼きを食べるイラストが掲載されているのだ。
実はこれ、ミシュランガイド日本版の編集部が「遊び心で毎年載せている」というパラパラ漫画。ページをパラパラめくると、ミシュランマンが関西人顔負けの華麗なコテさばきで、何度もお好み焼きをひっくり返している。
発行元の日本ミシュランタイヤの広報担当者によると、パラパラ漫画のテーマは、「その年のエリアをイメージさせる食」。関西での初めてのミシュランガイドとなった「2010」は対象エリアが京都と大阪のみだったため、京都の店が掲載されているページでは「作法を学びながらお茶を飲んでいる」漫画を、大阪のページでは「2013」と同じ「お好み焼きを食べている」漫画を掲載していた。
翌年の「2011」では対象エリアに神戸が加わったため、神戸のイメージで全ページを「ステーキを食べている」漫画に。「2012」は新たに奈良が加わったものの前年と同じステーキをテーマにしていたが、今回の「2013」では「関西全体のイメージに立ち戻り、お好み焼きになった」という。
結局、500ページ近いガイドを何度めくってみても、粉もんが登場するのはこのパラパラ漫画だけだった。
■もともと調査されてない?
そもそも、ミシュランガイドの調査の対象に、粉もんは含まれているのだろうか。
日本ミシュランタイヤの広報担当は「掲載前に行われるプレセレクションについては公開していない」と明言を避けるが、調査は、覆面の調査員が店を訪れ、一般客と同様のサービスを受けた後にリポートを提出する方法で行われているとされる。ガイドでは一つ星を「そのカテゴリーで特に美味しい料理」と定義しているが、「(寿司や天ぷらなどの)特定のカテゴリーだけを調査しているという意味ではない」といい、粉もんが対象ではないとも断定できない回答だ。
ただ、食の雑誌『あまから手帖』編集顧問でフードコラムニストの門上武司さんは「なぜ粉もんの店がミシュランの星を取れないか、正確には分からない」としながらも、「ミシュラン側にそれだけの余裕がないのでは」と推測する。
調査員の数にも限りがあるなかで、関西にある粉もんの店の数はものすごく多い。一方で、過去に掲載した店の再調査もしなくてはならない。だから、「粉もんにまで人手を割くことができないのではないか」という。
■キーワードは「革新」
だからといって、将来にわたって粉もんが選ばれる可能性がゼロなわけでもなさそうだ。
ミシュランガイドには「日本料理」「フランス料理」「ステーキハウス」などと並んで、革新的な料理を指す「イノベーティブ」というカテゴリーがある。門上さんは「粉もんがミシュランの星を取るかどうかは、革新的な店が出てくるか否かにかかっているのではないか。たとえば独創的なお好み焼きの店が現れたりしたら、『イノベーティブ』なお好み焼きとして評価されるかもしれない」と指摘する。
同様に、「マカオで小籠包の店が選ばれたりしており、ミシュランガイドの対象が変わってきている気配を感じる。いつかそのうち、粉もんも選ばれるかもしれない」と予想するのは、日本コナモン協会会長の熊谷真菜さん(51)。大学の卒業論文のテーマにたこ焼きを選び、その後も数々のたこ焼き、お好み焼きを食べ続けてきた粉もん文化研究の第一人者だ。
ただ、「もし1店だけ選ばれたとして、その店が大阪のみんなが『この店こそ入るべきだ』と思うような店なのかどうかは分からない。私はいいと思った店はすべて紹介したいという立場なので、それについて取材に答えるのはつらいことかもしれない」と“粉もん愛”ゆえの複雑な心境を明かした。
■「高い店やで」選ばれたらむしろマイナス?!
では、店の側はミシュランガイドのことをどう思っているのだろう。
「ミシュランガイドは高級志向のイメージ。たこ焼きとは別の世界にあると思いますよ」。たこ焼きの元祖、「会津屋」(大阪市西成区)社長の遠藤勝さんは、こう話す。
たこ焼きは遠藤さんの祖父、留吉さんが昭和10年に屋台で売り始めたのが起源とされる。以来80年近く、庶民の味として親しまれてきた。「コンビニがない時代から、小腹がすいたからちょっと寄ろか、というお客さんに支えられてずっとやってきました」という。
だからこそ、客の評価には敏感だ。「たこ焼きは、あくまでお客さんに評価されるもんやと思います。どちらかというと、インターネットの口コミサイトで評価してもらえたほうがうれしいんとちゃうかな」
それでも、もしミシュランに選ばれたら…。「そら星もらったら名誉なことだけれど、大阪のお客さんは『あっこ、高い店なんちゃうの』なんてイメージ持って、来なくなっちゃうかもしれない。名誉でも、つぶれたら終わりです」と、きっぱり。
あくまで庶民の味にこだわりをもつ遠藤さん。「同じ粉もんでもお好み焼きなら、最近は落ち着いた雰囲気で食べられる高級志向の店も増えていて、可能性あるんちゃいますか」と話した。
■テリーヌ、ステーキ…ときてコースの締めは粉もん
そこで訪ねてみたのが、お好み焼きチェーン「千房」(大阪市浪速区)。昭和42年創業の老舗である同社は、価格帯が千円前後の通常の「千房」のほかに、ステーキハウスのようなイメージでコース料理が楽しめる「ぷれじでんと千房」や、「千房エレガンス」も展開している。
今年7月にオープンした「ぷれじでんと千房ホテル日航ビル店」(同市中央区)は、ホテルの宿泊客や接待のビジネスマンらでにぎわう。店内は格調高いインテリアに、明かりをほのかに落としたムードある雰囲気。一番人気の「宴」コース(4980円)を注文すると、前菜の野菜のテリーヌに続き、シェフ帽子を被った女性従業員が、目の前の鉄板で黒毛和牛のステーキやノルウェーサーモンなどを鮮やかに焼いてくれる。そして、コースの締めはお好み焼き。たしかに従来のお好み焼き屋とは違うイメージだ。
「格好つけずに食べるのがお好み焼きの魅力ですけど、ちょっと気取ってみませんか、というのが『ぷれじでんと』の始まりでした」。店の狙いを、社長の中井政嗣さん(67)はこう説明する。「お好み焼きはワインにも合うし、きちんとしたディナーのコース料理にもなり得る。数十年間、お好み焼きの可能性を摸索してグレードを上げてきた」と自負しているという。
にもかかわらず、ミシュランガイドについては懐疑的だ。「フランス人に大阪の大衆の食べ物、上方の粉もん文化を評価することが、果たしてできるのかどうか。お好み焼きは本来、コテで大口あけて伸び伸び食べるもの。格好なんかつけてられへん。着飾っても人間性が出る。そんな食文化を理解できるのかな、と思います」と話す。
千房がこれまでに出した店は、延べ105軒。だが現在残っているのは65軒だ。はやらない店は閉め、新規の出店を繰り返す。こうして淘汰されてきたのが、現在も営業している店なのだ。中井社長の最後の言葉には、一人一人が粉もんに一家言をもつ関西で生き抜いてきたプライドがにじみでていた。
「年に一度しか来ない外国人の調査員よりも、入れ代わり立ち代わり店に通ってくださるお客さんの評価のほうが気になる。だから、ミシュランにはあまり興味がないですな」
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